喧喧諤諤 ケンケンガクガク
喧喧諤諤

ミシガンの8月、もう立秋だというのにまだまだ暑いですね。それでも日が沈んで足早に夕闇が訪れると気温の下がるのも結構早く朝晩は涼しくなりました。猛暑が続く日本では梅雨明け後に福岡や秋田などで集中豪雨やゲリラ豪雨があったりして、被害に遭われた方々には心よりお悔やみ申し上げます。私の自宅がある愛知県春日井市も今年になってからスマホの天気予報アプリで大雨警報が何度も掲示されています。幸い実害はないものの、本格的な台風シーズンはこれからですので、他の地域も合わせて何も問題ない事を願っています。

日本のプロ野球セリーグでは広島東洋カープがレギュラーシーズン首位独走のまま、2位、3位を争う阪神タイガースと横浜DeNAベイスターズとプレイオフになりそうです。パリーグは東北楽天イーグルスと福岡ソフトバンク・ホークス2強のマッチレースが続き、他のチームはプレイオフ進出狙いの3位争いですね。米国MLBではアリーグ西地区はヒューストン・アストロズ、ナリーグ東地区はワシントン・ナショナルズ、同西地区はロスアンゼルス・ドジャースがほぼ地区優勝とプレイオフ進出確定。その他の地区は今も混戦状態。まだプレイオフ進出の可能性がある球団は既にその可能性がなくなった球団(地元タイガースもほぼ絶望的)から先月末期限のトレードで目ぼしい選手を獲得・補強し、プレイオフ進出と頂点のワールドシリーズ制覇を目指しています。何処の球団が良い買い物をしたかこれからが見ものです。

テニスではフェデラー選手が全豪オープンに続きウィンブルドン大会でも優勝。グランドスラムは今月末の全米オープンを残すのみとなり、年間ランク1位復帰の可能性も夢物語でなくなりつつあります。今月8日で36歳になりますが、彼の試合を長年見ている評論家に「今が人生で最高のテニスをしている」とまで言わしめています。今期前半戦は精彩を欠いた日本の錦織選手は怪我の回復状況とトレーニングの成果が気になりますが、先月末開催の地方大会を手始めに全米オープンまで最も好きなハードコートのシーズンで本来のプレーが出来るように応援しています。

さて、今回は『政権運営とリスク管理』というテーマです。

皆さんは「何もやらずに後悔するよりもやって後悔する方がいい」とか「何もリスクを取らない事が最大のリスク」という言葉を耳にしたことがおありと思います。

何か新しい事をやる時にどのようなリスクがあるか、そのリスクによる不具合・不都合の起きる可能性と起きた場合のダメージはどれ程か、またそのダメージをリカバーする方法と人的・物的・時間的・金銭的コストはどれ程か?これらを事前に調べてリスク回避策や不具合・不都合が起こってしまった場合の善後策の策定・実施がリスク管理となります。要はリスクをどう考え管理するかです。

大統領就任後6ヶ月を経過したトランプ政権はロシアゲートに実の息子のトランプジュニアが巻き込まれ、ロシアに対する追加制裁措置が上下院とも圧倒的多数の賛成支持を受けて可決した一方、選挙キャンペーン中からの目玉であるオバマケアに代わるトランプケアは具体的な実施案が議会承認出来ず、急遽打ち出したオバマケア廃止のみに絞った上院議案も共和党内メンバー3名の反対票で承認されず、更に政権幹部間の対立表面化、主要メンバーの入れ替えなどでますます混乱し、内部崩壊、自滅の危機に直面しています。リスク管理が上手く機能しているとはとても思えません。

結局はトランプ大統領自身の政治、政権運営経験の欠如、リーダーシップ能力不足が原因です。大統領予備選、本選を通して民主党の対立候補者だけでなく共和党の他候補者達にも攻撃的スタンスを取り続けて罵倒し、党内で不協和音を奏で、当選・就任後も上下院では民主党を無視して重要な案件でも一切話し合いをせず、共和党内の意見の取りまとめや前向きなコンセンサスビルディング(合意形成)が全く出来ない有様です。これをやったらどうなるか、こんな事を言ったらどうなるかなどの思慮分別なく、先月下旬にも政権幹部や軍関係者との事前協議もないまま深夜ツイッターで突然発信した性転換者の米軍受け入れ禁止宣言など確たるポリシーのない思いつきでの言動はリスク管理も何もなく、既に軍属している性転換者の取扱いや士気の低下など混乱を招いています。

大統領になったからと言って何でも好き勝手に出来る訳でなく、しっかり政権内、共和党内の意見を束ねて、ベクトル合わせをした上で議会との協働・協力で実施可能な最善の政策を審議・可決・承認せねば何も実効のある成果が出せないですね。三権分立でそれぞれ独立した機能を持つ立法議会、司法機関まで自分の思うままにしようとすること自体無理な相談です。それがチェック・アンド・バランスの肝です。

トランプグループのような私企業経営と違い、自分の好き嫌いで判断し、行動すると国民の安全・安心、国家の利益、公共の福祉、公序良俗に反する結果となってしまいます。前にも書きましたが、公僕として国家と国民のために最善を尽くすパブリックサービスの概念が完全に欠けています。全ての言動は自分の利益のため、自分が喜び良い気分になるため(最近のボーイスカウト・ジャンボリーでの演説でも選挙キャンペーンの続きのような内容)であり、一国のリーダーとしては全く不適格です。強権発動でゴリ押ししても誰も心底から理解、尊敬、心酔して付いては来ません。付いて来るのは、やはり自分の利益と売名を狙う下心一杯の曲者ばかり。自分の意見を押し通し、我が道を行く身勝手な行動でのし上がって来た人達で、残念ながら素直に他人の意見を聞いたり、納得するまで話し合いをして着地点を見出し、お互いにメリットのある合意に至るような人物ではありません。

米国内だけでもリスクの大きい未解決の問題が山積みですが、国外・国際舞台では更に切迫した喫緊の重大問題として北朝鮮問題があります。

日本では空から降る大雨だけでも迷惑しているところに日本海を挟んだ彼の国から試射されたICBM(大陸間弾道ミサイル)が日本のEEZ(排他的経済水域)に降って来るのは輪をかけて迷惑です。同国の政府発表ではハワイ、アラスカだけでなく既に米国本土まで着弾可能になったと脅しています。直接的脅威を受ける日韓米(在留米軍)および西側諸国としては、ここまで可能な限りの政治的・経済的制裁をして来ましたが、彼の国の核開発、ICBM開発停止はおろか減速する気配は一向になく、しばらく前にトランプ政権がシリア政府空軍基地を爆撃して「あなたの国にも爆撃出来ますよ」と脅したつもりが逆目に出て核・ICBM開発に拍車が掛かり、スピードアップさせてしまう結果となりました。最も近い友好国である筈の中国でも最早コントロール出来ず、かつてない程極めて危険な状態です。手詰まり状態の日韓米は残るカードとして米国主導による軍事的制裁の選択肢がありますが、これまでの太平洋艦隊の一部近接派遣、米軍機の韓国上空示威飛行、韓国内のTHAADミサイル配置の如き防御中心の対策から軍事力行使の攻撃的対策に切り替える事は余りにリスクが大き過ぎます。

2013年に公開された米国機密文書によると、クリントン政権時の1994年朝鮮半島危機の際に当時綿密に練られていた軍事戦略案では朝鮮半島で戦いが起これば米韓合同軍の攻撃により北朝鮮軍は壊滅するが中国軍が国境を越えて進出してくると予想していた由。実際には戦いは起こらず事なきを得ましたが、今回の危機は核兵器とICBM絡みでそれを数倍大きく上回るリスクがあります。一説によれば、建物・器物・インフラなどの物損の他に韓国軍、在韓米軍、韓国国民、在韓外国人を含めて少なくとも数十万人から百万人単位の人的被害が出ると予想され、日本やグアム駐留米軍、場合によっては中国や他の近隣諸国にまで甚大な被害が及ぶ恐れがあり、米国もたとえ大義名分、正当な理由があっても予想被害防止策、攻撃的防御策としての先制攻撃など迂闊には動けない状況です。現トランプ政権にあっては軍部や議会関係者と密に連絡を取り、取り返しの付かない失敗にならぬように正確な情報収集と精度の高いリスク分析、慎重な判断の下に最善の意思決定と行動選択をして欲しいと切に願います。

追伸:先月号で記した将棋に興味を持っておられる方のお誘いに対して、残念ながら何方からも反応が頂けませんでした。日本での盛り上がりに比べて当地では将棋ブームとはいかないのか、夏場はアウトドアの活動に忙しくて室内遊戯には興味なしなのか分かりませんが、冬場まで気長にお待ちしております。ご連絡は私の個人メルアドkokuboy@gmail.comにお願いします。

執筆者紹介:小久保陽三

Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。

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