ミシガンで本格古典落語 4

IMG_5856 去る2月中旬、本格古典落語の名手として名高い柳家さん喬師匠とその門下である柳家喬之助師匠が文化庁文化交流使として派遣され、ミシガンで落語会が開催された。2月16日に同大学の教室で”What is Rakugo?”という講演会、2月17日には同大学の講堂で落語会が開催された。このイベントは、ミシガン大学の日本語科と日本研究センター(CJS)との共催で、JBSD(デトロイト日本商工会)基金の協賛、在デトロイト日本国総領事館の協力によって、一般公開されたもので、日本語学習者をはじめとするアナーバー近隣の日本ファンの人々や当地在住の日本人が貴重な機会を楽しんだ。

 公開イベントで大勢の観客を魅了

2月16日の講演はミシガン大学日本研究センターのヌーンレクチャーシリーズの一つとして行なわれ、まず日本語講師によって、落語の歴史についての簡単な解説の後、その特色について以下のような説明がなされた。

  • 一人で声音や表情を変えて何役も演じ、座ったままで身振りや手振りで物語を進める。
  • 扇子と手拭のみを使って様々なものを表現する演芸である。
  • ・何人もの落語家が順に出る寄席では、根多(ネタ)帳というものが置かれ、その日の高座に上がった落語家や芸人が何の演目をやったのかを記し、後から出る人はそれを見て、自分の演じるものを決める。同じ演目はもちろん、同類の噺も避けねばならず、一番最後に出る落語家は何十というレパートリーを持っていなければ務まらない。
  • 状況に応じて話の内容を変えて長さを調整することも多々ある。

IMG_1516さながらのあどけない口ぶりや表情。「まるで子供のように見えた」との声が多数寄せられた。何とも見事な技量である。

仕草や表情の実演の後、さん喬師匠は『長短』、喬之助師匠は『つる』を披露。さん喬師匠は、口調も性分も緩急対照的な二人を絶妙に表現。喬之助師匠は、知ったかぶりをしておかしなことを言う噺を間抜けっぷりたっぷりに演じた。言わずもがな、会場には引っ切りなしに笑いが起きた。
これらの概説に続いて、柳家さん喬師匠が即席の高座に上がり、声音や表情を巧みに変えて子供や旦那、おかみさんを演じ分け、また、扇子と手拭いを駆使してキセルに火をつけたり酒を飲んだりする仕草を実演した。さん喬師匠は1948年生まれ、60代後半であるが、子供17日の落語会「ミシガン大学寄席」でも簡単な落語の概説と、さん喬師匠による仕草の実演が提供された。続いて着物姿の学生が登場。6名の学生が小噺の創作に挑戦し、それぞれの成果を観客に披露した。落語会には日本人と非日本人を合わせて400名ほどが訪れていたが、彼らの豊かな演技と噺の落ちに大爆笑が起きた。

DSC_7329  学生たちによる熱演で会場が湧いたところで師匠たちが満を持して登場。喬之助師匠は『初天神』という双方口達者な親子の話を子供役の泣き声も高らかに明朗軽快に演じた。

一変して、さん喬師匠が選んだ演目は『死神』。師匠演じる死神の口調が「死神とはかくもあろう」と感じさせられ、「さん喬師匠の噺は、景色が目の前に浮かんで来る」との評価通り、終盤では暗く怖ろし気な情景を描き出して会場を凍り付かせた。落語=笑い話という短絡的なイメージをみごとに崩した。落語は人の愚かさや間抜けさを含めて、人間のすばらしさを表現しているといえるのではないだろうか。それも、説教臭くなく、時に面白おかしく、時に怖く。

DSC_7335 ちなみにインターネットでこれらの演目を視聴することができるが、演じる人によって、話の詳細や展開もイメージもかなり異なる。落語の面白さであり奥の深さであろう。

講演と落語会のいずれも、英語の字幕がスクリーンに映し出されたが、噺のタイミングに合った笑いが巻き起こり、字幕に頼らずに理解している観客が多いことが窺われた。人々の心を鷲掴みにする公演であった。

質疑応答の時間が設けられたが、どのように弟子になるのか、弟子の生活や稽古の仕方はどのようなものかなど、師弟関係ついての質問のほか、落語家のランク(階級)に関するものも寄せられた。喬之助氏は弟子入りを断られても諦めずに1ヵ月通い続けたそうだ。さん喬師匠がすかさず「(喬之助が)車の陰に隠れて出てきて驚かされた。死神かと思った」と死神の仕草で話を添えた。応答にも機転と笑いを欠かさない。ストーリーについて質問が上がった。ほとんどは日々の生活のものであるが、歴史物、仏教に纏わるもの、そして外国の物語を元にした噺もあること、また、数百もの古典作品の他に創作ものの新作も近年人気があることなどが明かされた。

IMG_1504学生たちに指導や落語を提供

講演の前日、15日にはミシガン大学の3年生の日本語クラスや上級会話および翻訳実習クラスの授業に師匠たちが参加し、学生を指導。教師陣によると、師匠の指導によって、ほんの数分で学生たちの表現力が見違えるように変わったとのこと。日本文化の理解が深まったのみならず、言葉を楽しむようになったそうである。

18日(土)には、デトロイトりんご会補習授業校にて小学生高学年と中学生を対象に落語講演をプレゼント。児童生徒達にとっては本物に触れる貴重な体験を通して日本の伝統芸能を学ぶ機会となった。

IMG_5860インタビュー

連日の多数のイベントをこなしてお疲れのところ、さん喬師匠にインタビューの時間をいただいた。

Q:海外で演じる際の演目の選択は特に留意されるのでしょうか?また、内容に変化を加えるのでしょうか?

師匠:海外だからとか考えずに選びます。時間の都合で端折ることはありますが、そのままを聞かせます。オペラを他の言語にはしないですよね。日本語が分かる分からないに差がありますし、日本人の知識や習慣をもとにしてしか分からないものもありますし、駄洒落のような言葉遊びは無理ですが、内面的な部分、笑いは変わらないものがありますね。

落語は、聴く人の想像力に委ねる芸能なんです。言葉に頼り過ぎず、少ない言葉で世界を創り出すものです。

Q: 最も伝えたい落語の良さや特徴は?

師匠:海外で日本語を学習する学生さんたちに講演したり落語を聞かせる活動は落語の普及や落語を理解してもらう為ではないです。日本語の表現方法を学ぶ教材として落語を選んでいただいています。それに、言葉や手振り身振りによる表現力の豊かさを知って欲しいと思っています。

芝居では役者がその人になりきって特徴を押し出しますが、落語はひとりで演じて、押し付けてはいけないんです。委ねたことにならないですからね。日本語を学んでいる皆さんが、日本語の世界で想像力を掻き立てる、その材料になれるのが落語なんじゃないかと思っています。

落語を通じで日本語や日本人というものをより知ってもらえるたら嬉しいです。

日本人ならではの相手への伝え方というものがあります。どういう質問をしているか察して相手の望むことを言う、察することが出来るのが日本人の特徴なんです。

お時間を割いて、お話をお聞かせ頂きありがとうございました。

アメリカで、卓越した芸能と笑いに触れることができたのみならず、学びと吸収の多い落語師匠来訪であった。