
3月5日の日曜日、デトロイト美術館(以下:DIA)の恒例イベントとなった日本の雛(ひな)祭りイベントが開催された。在デトロイト日本国総領事館によるプログラムで、雛人形の展示の他、JSDウィメンズクラブや当地で日本の芸能文化をたしなむ人々等の協力を得て、日本の伝統文化を紹介している。
今年は、DIA館内に今秋オープニングする日本ギャラリーのプロモーションも行われ、DIAが誇る荘厳なスペース「リベラ・コート」での茶の湯、生け花、琴、書道、日本舞踊の実演の他、隣のエントランス広間には豪華な雛壇と打掛の着物の展示と折り紙のワークショップコーナー、そして、日本ギャラリーオープニングに合わせて日本から招へいが予定されている伝統工芸マスター(職人)に関する
紹介ブースが設けられた。昨年にも増して盛りだくさんな内容を大勢の来訪者が楽しんだ。
DIAの日本ギャラリー担当者からは、日本ギャラリーが、美しくデザインされたスペースに精選された美術品が並ぶだけではなく、歴史などの背景も伝える展示になることが伝えられた。スライドでいくつかの作品が紹介されたが、中でも、仏像は、米国に7つしかないうちの一つであるとのこと。前述の日本からの工芸作家の実演等は「日本でもなかな目にできないものである」と貴重さを強調した。
DIAのボードメンバーであり、日本ギャラリーのオープニングのチームリーダである大光氏は、引き続きファンドを募っているとの呼びかけと、11月3日と4日にわたってオープニングイベントを行ない、日本手ぬぐいや和紙、江戸人形などの職人の他、日本舞踊の一団や百人一首のトッププレーヤー、豊田市から古武道であり民族芸能である『棒の手』の担い手も来訪し演技を披露する旨が伝えられた。「友人にお伝えください」とのこと。弊紙でも追々詳細を発信してゆきたい。
文化紹介の前に、MCを務めた総領事館の文化担当者より、ひな祭り“ガールズ・デー”は、女の子の成長を祝うと同時に春の訪れを祝う意味もあるといった概要や伝統的な祝い方の解説などが行われた。
実演は、JSDウィメンズクラブによる茶の湯のお点前で幕開け。同会場で数えられない回数の実演をこなしているとあって、即席の茶席ながらも、場慣れした様子で落ち着いた雰囲気を生み出していた。凛とした美しい立ち振る舞いや点前に惹きこまれ、観客席にも粛々とした気配が漂った。お点前の進行に合わせた所作の意味の他、茶道具や掛け軸に関わる日本の美意識や考え方についても説明が添えられた。
いけばなインターナショナルデトロイト支部のメンバーによる生け花の実演披露では、花材の数や色を制限しつつ、それぞれを活かしアレンジして世界観を造り出す生け花の真髄を紹介。チューリップなど身近な花々が異なる趣を見せていく様に感嘆の声が漏れ、出来上がった美しい作品に多くの称賛が寄せられた。
邦楽演奏は平井波子さんとベートマン由記さんの二方による箏で箏曲『さらし風手事』、そして豊田紀弥子さんのバイオリンが加わって琴曲『春の海』を届けた。春らしい和やかで雅な音色に来訪者はうっとりと耳を傾けていた。
書道の実演は書家である藤井京子さんが身の丈以上の書を見事な筆さばきで息をつく間もない速さで披露。自身が事前に春らしい花の絵を施した和紙に、桃の節句にちなんだ和歌「あかざらば千代までかざせ桃の花 花もかはらじ春も絶えねば」を書き上げた。作品は生け花と合わせて飾られ、まだ春遠きミシガンの3月であったが、春の香りを人々に届けた。
日本舞踊は花柳流の名取である小山みち江さん(花柳徳猿)がオハイオ州から駆けつけて、男踊りである「高砂」と、男女を一人で踊り分ける「荒城の月」、そして面をつけて若い女性を演じる「紅日傘」、趣の異なる演目を披露した。
折り紙を楽しんでいた父と息子の親子に声をかけたところ、折り紙をするのは初めてとのこと。折った‘手裏剣’を手に嬉しそうな表情を見せていた。
米人の来訪者から、当地で日本文化の展示鑑賞だけでなく、実演を見たり、体験したりできる喜びの声が多数寄せられた。車で2時間ほどかかるにも拘わらず、ほぼ毎年訪れ、楽しませてもらっているという米人ご夫妻にも会った。
デトロイト美術館は、自動車産業の繁栄のもと1885年に開館し、以来着実にコレクションを形成。今も6万5千点を超える幅広いコレクションで知られる、アメリカ屈指の美術館の一つである。
デトロイト美術館の後援者グルーブの一つにFriends of Asian Arts & Cultures:FAACがあり、アジアならびに古代中東やイスラム世界の地域を広くアジアと定義して、その多様な視覚的物質的文化の理解と評価を促進することを目的に活動をしている。日本ギャラリーのオープニングを控え、FAACでは、特にミシガンの日本コミュニティーの人々への入会を呼びかけている。