4月、日本では新年度の始まり。春の風物詩である桜の開花前線が丁度今、中部・北陸・関東地方へと移動中です。今年は暖冬の影響で東海地方から西の各地では通常の寒い冬から暖かい春への大きな気温差がなく、花芽が休眠から覚めて成長する速度が遅かったため、開花が遅れ気味の傾向だったとか。夏時間移行にまだ体が順応仕切れていないこちら米国の首都ワシントンD.C.では、名物の桜が3月最後の週末の『全米桜祭り』には見頃となりましたが、2月の暖かさで花芽が膨らみ始めた先月中旬に北東部を襲った時ならぬ寒波で蕾の半分程が傷んで、開花しないか綺麗に咲かない残念な年になりました。罪な天候不順ですね。

プロ野球では日米ともレギュラーシーズン開幕。今年はどの球団がリーグ優勝、ワールドシリーズ・チャンピオンになるか、日本人選手の活躍に期待しながらペナントレースに注目です。先月開催された第四回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は米国チームの初優勝で幕を閉じましたが、準決勝で米国に1点差で惜しくも敗れた侍ジャパン。実質的にはあれが決勝戦でしたね。メンバー全員が現役メジャーリーガーの米国チームに対して一歩も引かず、息詰まるような投手戦、1点を争う大接戦。「たら、れば」の話になりますが、わずかな守備の破綻、投手の失投と好機に後1本のタイムリーヒットが出ず涙を吞みました。過去に経験した事のない大試合での極限の緊張感、敵地球場での完全アウェイの雰囲気、日本での合宿、練習、試合、ミーティングでは体験出来ない不慣れな米国球場、個々に著しく異なる投球フォーム・球種を持つ米国中継ぎ、クローザー投手陣の小刻み救援リレーと小さいようで実は大きく不利な条件はありましたが、日本代表の大善戦に拍手を送りたいと思います。お疲れ様でした!

さて、今回のテーマは「春の訪れと日米政権の揺らぎ」です。

今回テーマを決める前に直近1年間のそれを見返したところ、昨年の米国大統領予備選・本選、トランプ新大統領当選・就任、新政権のメンバー選定・動向など米国政治を関連したテーマが半分以上になっておりました。政治、宗教などに関しては誤解を招いたり、不本意な取られ方をするといけないので、必要最低限のもの以外は出来るだけ話題にしないつもりでしたが、結果はこの通りでした。私自身のみならず、それだけ昨年の大統領選挙とトランプ政権に衆目が集まり、関心が注がれたという事でしょうか?今月号でも触れることになりますが、ご容赦願います。

日本ではこれまで比較的順調に来て長期継続している安倍政権ですが、首相夫人を巻き込んだ森友学園向け国有地払下げ問題、寄付金手渡し疑惑などで学園長の国会証人喚問の後、首相夫人まで証人喚問されかねない事態に発展し、日本国内はここ最近この話題で持ちきり。お隣の韓国大統領の弾劾・更迭問題やより重大で喫緊の問題である北朝鮮の核開発・弾道ミサイル試射のニュースが霞む程に政権が揺らいでおります。国会もメディアも国民も興味本位でなく、もう少し冷静な報道と判断をしてもらいたいものです。

当地米国では揺らぎはもっと大きいです。今月末にトランプ新政権スタートから100日経過の節目を迎えますが、選挙キャンペーン中の公約の目玉の一つである「オバマケア廃止+新健康保険制度実施」のための共和党法案は初案から部分修正を加えたものの共和党保守派など党内反対派の抵抗に遭い、可決に必要な賛成票確保が見込めず、下院での採決投票直前に取り下げ、廃案となりました。トランプ大統領は共和党内の意見調整や民主党と協議してまで再度修正案を下院に提出する気はないようで、「健康保険制度は民主党の責任」と本件のオーナーシップを取ろうとせず、「オバマケアは爆発する」と捨て台詞を吐いて公約を果たさずに逃げ出しました。何年か前に出版された『絶対に自分の非を認めない人達』を思い出し、事実誤認や差別発言、頭ごなしの非難や糾弾などで他人に迷惑を掛けても決して謝らない彼も間違いなくその一人だなと改めて思います。

また、既に2度にわたる大統領命令にて取り組んだ「テロ関与国からの入国制限」もいずれも管轄連邦裁判所から差し止めを受け、本格的実施に至っていない一方で過去の政権下では情状酌量処置で長年滞在が認められていた正式滞在許可書類を持たず犯罪歴もない外国人が不法移民としていきなり検挙、強制送還されたり、米国で生まれて市民権を持つ子供と引き離される悲惨な事態が発生しております。それに加えて、上院投票で60票以上の賛成票が必要な最高裁判事の確定承認手続も、大統領指名候補者が公表されてから手付かずになっていましたが、つい先日ようやく聴聞会が開かれたばかりで民主党は悪名高き『フィルバスター(議事進行・議決妨害)』策を弄して承認を阻むのではないかとの憶測もあります。

更に輪を掛けてトランプ大統領と政権メンバーの悩みを大きくしているのは、いつもの調子で大統領がツイッターでつぶやいた「オバマ大統領がトランプタワーを盗聴していた」の一言。これが前大統領に対する糾弾とみなされ、事実でなければそれ自体が犯罪行為とみなされ、現職大統領が逆に糾弾される恐れがあります。今もって盗聴を立証する明確な証拠提示がされないままショーン・スパイサー大統領報道官や政権幹部もそれが事実と公言し続けているのに対して、FBIのジェームズ・コミー長官や司法省、共和党・民主党混成の諜報特別委員会が軒並み「盗聴の事実・証拠はない」と繰り返し明言しており、政権は八方ふさがりの状態です。

その諜報特別委員会の議長である共和党のデヴィン・ニュネスがこれもつい先日、前政権から新政権への移行時期に政府の常設情報機関が通常行っている情報収集活動中に偶発的にトランプ政権移行に関与していた米国市民(名前は明らかにされていない)の情報を収集していた事実をあろう事か、委員会のメンバーに報告・協議したり記者会見で公表する以前にホワイトハウスに「殿、ご注進!」と

ばかりに真っ先に報告(本人は情報源の人物に会って確認のためと弁明)に行き、委員会の中立性、公平性を欠いた軽率な行動であり信頼を失うものと民主党委員から激しく非難されました。「これは大統領選挙時のロシアの工作やトランプ候補者(当時)支持グループとのコンタクト有無の調査とは無関係」、また「トランプタワーの

盗聴事実はない」と再度補足説明したものの、何かしらの不信感は拭い切れません。Intelligence Committeeの議長自身がインテリジェント(賢い)とは言えない行動に走ったのは笑えない皮肉です。

トランプ大統領が自分の誤りを認め一言‟I am sorry.”と謝れば、事態は収拾の方向に向かうと思うのですが、本人に全くその気は無く、取り巻き連中が真実から目を背けて大統領に忠誠を尽くそうとすればする程発言内容が事実と乖離し、記者会見で「米国内のエージェントではなく英国の諜報機関が盗聴を頼まれてやったのかもしれない」などと不用意な発言をしたため、英国政府から即座に「そんな事実は一切ない!」と猛反発を受け、不信感は米国内だけに留まらず、国外のそれも最大無二の同盟国である英国の不信感と怒りを買ってしまった始末。一度嘘をつくとそれを正当化するために更に嘘をつかねばならず、嘘をつき通すには天才的な記憶力がないと不可能。いつかどこかで必ず前後の辻褄が合わなくなって嘘がバレる事になります。どう見ても嘘と思われる失言を取り繕うとする姿に、今まで熱病に取りつかれたようにトランプ支持を続けて来た米国民もさすがに「これはちょっとおかしいな。信用出来ないかな?」と思い始めたかどうか?次に控える税制改革案の議会提出・審議という大きな事案に向けて前途多難です。

同じくFBI長官が議会証言で「ロシアが昨年の米国大統領選挙を妨害した事実があるか否か、選挙キャンペーン中にトランプ支持グループメンバーとコンタクトしてトランプ候補者(当時)に有利になるように工作した事実があるか否かを調査中」と発言し、もし身に覚えがあるメンバーがいれば戦々恐々としているかもしれません。それとも「バレたらバレたで仕方ない」と開き直っているかも。スパイサー報道官は決して頭は悪くないと思うのですが、その頭の良さの使い道を誤っているようです。自分の人生において何を一番重視するか、大切にするかという基本的な価値観の問題だと思いますが、頭の良い人がそれを悪事に使ったり、嘘をついて他人を騙したり、反社会的で利己的、自己中心的な行動に走ったりすると人心が荒み、社会と人々の生活が荒廃して行きます。

程度の差こそあれ、春の訪れと共に揺らいでいる日米の政権幹部には大いに反省し、自戒の念を持って早急な事態の収拾、改善に努め、もっと大事な事に集中してもらいたいものです。

執筆者紹介:小久保陽三

Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。