
2月12日(日)、デトロイト剣道道場主催のデトロイト・オープン剣道トーナメントがノバイ・ハイスクールを会場にして開催された。このトーナメントは毎年この時期に行なわれており、全米各地やカナダからの多数の剣士が参加する米国北西部屈指の大きな規模となっている。
その要因としては、デトロイト剣道道場の師範である田川順照剣道が数少ない剣道範士八段であり、指導にも定評がある上、本トーナメントには例年、日本から国内トップクラスの剣士(教士)や高名な剣道家を招いていることがある。田川氏は1975年、米国内における剣道普及のために渡米し、現在、全米剣道連盟会長、並びに国際剣道連盟副会長に就いている。世界剣道選手権大会での強化委員長を務めた経歴もある。加えて昨年、八段の中でも特に秀でた剣道家に与えられる最高位“剣道範士”の称号を受称。さらに、平成28年度外務大臣表彰を授与された。
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この度は全日本剣道連盟副会長兼専務理事および国際剣道連盟理事を務める福本修二範士八段と、田川氏の大学の先輩であり品川区剣道連盟会長および全日本剣道連盟の普及委員を務める林宏道教士八段のお二方を日本からゲストに迎えた。
トーナメント当日の早朝は雨模様であったが、近隣はもとより、遠くヒューストンの道場をはじめ50近くの米国各地及びカナダの道場からの遠征を迎えて、約300名の選手が参加し、会場には活気があふれた。
開会式では、日本・カナダ・米国、3国の国家独唱の後、主催代表者である田川範士による歓迎の辞ならびに「本大会は熱く激しい戦いの場であると同時に友情を広げる場である」などの戒めと激励の言葉が伝えられた。続いて、在デトロイト日本国総領事館の野田首席領事ならびに日本からのゲストである福本修二範士八段がスピーチに上がり、野田領事は20年に及ぶ当道場の発展を称える言葉に加えて、田川氏の2016年度外務大臣表彰受賞の話題に触れ、改めて祝辞を届けた。福本範士からは、当地で20年間にわたり剣道を盛り上げてきた苦労を慮って敬意と謝意が述べられたほか、「技術のみを高めるのではなく人間性を高めるのが剣道」「惻隠の情をもち、相手の意を汲む人に成長して欲しい」と、剣道の精神性の大切さが伝えられた。1本を取る5つの条件に言及し、いかに奥深いか説き、「人間形成のための練習と努力を示し、今後、より良い剣道人生を築いていくのが今日の場」と語り、剣士らの健闘、そして、道場の盛況を祈念した言葉で締めくくった。
田川・林両八段の刀(真剣)を使った形の実演が行われ、高段者の淀みない見事な演武に剣士たちの真摯なまなざしが注がれた。
形の実演で水を打ったかのような静けさと緊迫感に包まれた後、一転して、本大会初めてとなった和太鼓チーム“五大湖ドラマーズ”の演奏が空気を震わせた。
トーナメントは6面のコートを設けて同時に行なわれた。各試合に3人要する審判員には各道場の師範や上段者が、その多くは午後からの自身の試合にも挑みつつ交代で審判にあたり、また、60数名に及ぶ保護者を中心としたボランティアスタッフが各種の係を担当し、膨大な人数の運営によって、大規模かつスムーズなトーナメントが実施された。各コートで、日ごろの練習の成果を発揮するべく気迫ある勝負が繰り広げられていた。
日本からのゲストにお話を伺う機会をいただいたが、福本範士は全日本剣道連盟の代表として米国には何度が来ているとのことで、本大会のレベルの高さ、特に子供と女性のレベルが高いことに感心し、「姿勢や構えがきちんとしていて、試合内容も良く、場外での態度も良い」「指導者が育っていることと、特にデトロイトでは田川先生が指導者に正しく伝えているからこそ」と称賛。また、デトロイトダウンタウンを見学した感想として「新しいパワーが生まれつつある。自動車産業を中心に、復興が進んでいると感じた」と好印象を語ってくださった。
林教士は以前に学生を率いてデトロイト道場を訪れたことがあるそうで、やはり、同道場の盛況ぶりに頷き、子供らの礼儀の良さにも触れた。林教士は、前日に開かれた審判に関するセミナーで指導にあたり、当地の剣道レベルの向上に尽力した。
審判の難しさについては、開会式での福本範士の挨拶でも触れられたように“1本を取るには5つの条件”があり、当たれば良いのは無く、“充実した気勢、適正な姿勢、竹刀の部位、刃筋、残心”に拘わる。勝って万歳などしたりしては、相手の悲しさや悔しさを汲めていないとのことで(1本を)取り消しされることもあると語った。
開会の挨拶で野田領事が両士からの伝聞として紹介した話題でもあるが、修行の過程を大切にし人間形成の道である剣道は、結果のみを競うオリンピックの種目にするには難しさがあるとの話もあった。
両士が評価したように、レポーターも取材中、子どもや若い剣士たちの礼儀の良さに感心させられた。撮影の妨げにならない配慮に度々遭遇したが、周りの人の動きに合わせてタイミングや行動を自分で工夫・判断できており、生活の中でも剣道で学んだことが生かされていることが見て取れた。
今回、デトロイト剣道道場を除いて最も大勢で遠征してきていたのはオハイオ州コロンバスの剣道クラブで、50名ほどのメンバーの内、20名以上が参加した。設立してからわずか5年ほどとの話。にもかかわらず、昨年の同トーナメントではユースの団体戦ならびに4段以上の個人戦で優勝、一昨年は大人とユース両方の団体戦で優勝を飾っている。今年も果敢に戦う子どもたちの姿が目立っていた。男子にも全く臆せずに挑んでいた少女の応援をしていた母親に話を伺ったところ、姉妹3人とも剣道を習っており、現在4年生の三女は5才から始めたそうで、大人しい性格だったが人に溶け込んだり前向きになったり、変化がみられたとのこと。上下関係やお辞儀など礼儀が身について有難いとも話していた。
デトロイト剣道道場は70数名のメンバーの内、本大会には50人以上が参加。年齢を越えてチームメンバーを応援し、結果を労う姿が見られた。本大会での同道場の入賞結果は下記の通り。
心身を練磨するのみならず礼節や信義を尊ぶ剣道の心構えを正しく教示する指導者によって、当地で理念を失わずに浸透していることを痛感した本大会であった。それらの心や行ないは剣道をたしなまない者にも影響を与え波及していくことであろう。
2016デトロイト剣道道場 入賞結果
団体戦:
Adult 3位 デトロイト剣道道場 A
Youth 2位 デトロイト剣道道場 A
3位 デトロイト剣道道場 C
個人戦:
Senior 1位 Masayasu Miyajima
2段 3位C olin Sherrod
1段 1位 Daichi Sakuma
3位 Taku Murase
無段Adult 2位 Ryan Choi
無段Sr. Youth 2位 Keiya Kato
3位 Andrew Swanson
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