
昨年11月号に掲載したオハイオ州コロンバスの観光に関する記事の中で Franklin Park Conservatory and Botanical Gardensについて紹介し、ガラスアーチストであるデイル・チフーリのガラスコレクションが点在していることに触れたが、そのチフーリによる膨大な数の作品を展示している『チフーリ・ガーデン・アンド・ガラス』がシアトルに存在する。シアトルのランドマークの一つ、スペースニードルがあるシアトル・センターに2012年にオープンして以来、ガラスアートの愛好者はもとより、多数の観光客を呼び寄せている。
1.5エーカー(千八百坪以上)という敷地に、8つのギャラリー、ガラスハウス、庭園があり、手で持てるほどの大きさの器から、巨大なインスタレーション(空間美術)まで、大小の数えきれない量の作品を展示している。
“自然の中から生まれたかのような作品”を目指しているチフーリの作品には植物や貝を模した物が多い。代表的なシリーズである「シャンデリア」だけでも屋内と屋外に、様々な色とディテールのものが何点もある。
日本人として特に興味を惹かれたのが“生け花”をモチーフにした大胆かつ華やかでありながら凛とした静けさを感じさせられる大作品。“生け花”をはじめ、ギャラリー(室内)の作品は鏡や電光によって、ガラスの持つ美しさを倍増させる効果が駆使されているものも多く、これがまた幻想的で魅了される。
庭園の作品は植物を模して草花と調和していたり、自然の緑の中で鮮やかな色を放っていたり、室内とは別の表情。ガラスの色や形と、季節の花の種類や色との組合わせも絶妙。自然と無機質なガラス、互いが引き立て合い、独特な世界がそこに生まれている。
この施設には明るい時間帯から夜まで居ることをお勧めしたい。ガラスハウスの天井に広がるインスタレーションが夜には異なる輝きを放ちだす。再入場が可能なので日中と夜という訪れ方も可能ではあるが、夕暮れ時の庭園は刻々と雰囲気が変わっていき格別。写真を見るだけでも鮮明な美しさが思い出されて惹き込まれるが、きらめきを内包している実物は見飽きることがなく、離れがたい程。再度足を運びたくなる空間なのである。
デイル・チフーリは1941年ワシントン州タコマ市生まれ。ワシントン大学でインテリア・デザイン、ウイスコンシン大学で彫刻を学んだ後、1968年にイタリアのベネチアに渡り、名門ベニーニガラス工房で働く初のアメリカ人となった。1971年、故郷ワシントン州にガラススクール(Pilchuck Glass School) を他のガラス彫刻家達と共に設立。その後才能を発揮し、現代ガラス工芸の第一人者と言われるまでに上りつめた。
Chihuly Garden and Glass
住所:305 Harrison Street, Seattle WA
サイト:www.chihulygardenandglass.com
*開館時間は季節、曜日によって異なるので、上記ウェブサイトでご確認を。
おまけ情報。チフーリの出身地タコマ(Tacoma)には
ガラス・ミュージアム: Museum of Glassがあり、館内に常設作品は無いが、ダウンタウンに通じる橋の上にChihuly Bridge of Glassと名付けられた作品群がある。海の生き物をモチーフにした作品が天井に散りばめられているSeaform Pavilion。ガラスのフラワーアレンジメントが百以上並ぶ Venetian Wal。巨大氷砂糖を集めたようなCrystal Towers。なかなかの見ごたえだ。公道なので無料で鑑賞できる。タコマはシアトルから南へ車で1時間程。