
9月2日~9月5日に開催された「第37 回デトロイトジャズフェスティバル2 0 1 6 」に、今年からスタートした横浜ジャズプロムナードとデトロイトジャズフェスティバルとのアーティスト交流プログラムの第1弾アーティストとして、日本のピアノ・トリオ Trisonique(トライソニーク)が出演した。
地元デトロイトはもとより、有名なアーティストが多数出演するこのフェスティバルは今年37回を数える。1980年当時廃虚化が進行していたデトロイトの復興プロジェクトの一環としてスタート。「あらゆる人種・階級の人々を街に呼び込み、世界一流のエンターテインメントを提供する」というテーマのもと、デトロイト指折りの大イベントとして定着し、今年は(主催者発表) 延べ75万人もが訪れた。
トリオTrisoniqueを率いるジャズ・ピアニスト、ハクエイ・キム氏は日本人と韓国人のクォーターとして京都市に生まれ、5歳の頃からピアノを始め、高校時代にはロックに傾倒した後、オーストラリア・シドニー大学音楽院に学び、当地の名ジャズ・ピアニスト、マイク・ノックに師事し多大な影響を受けた。2005年に初アルバム『Open the Green Door』を発表。2009年にピアノ・トリオである Trisoniqueを、杉本智和
(ベース)、大槻”KALTA”英宣(ドラムス) と共に結成。2011年にはユニバーサルミュージック ジャパンの新レーベル「area azzurra」の第1弾作品として『トライソニーク』をリリース、タイトル曲はテレビ東京系全国ネット『美の巨人たち』エンディング・テーマに採用された。キム氏は2012年には日韓合作の映画『道~白磁の人』(高橋伴明監督作品)のエンディング・テーマの作曲と演奏を担当した経歴も持つ。現在は東京に拠点を置き、国内外をツアーで回り、活躍の場を広げている。
「激しくて、ロマンティック。音が景色になっていく。 時に強く、時に儚く、エレクトリック・サウンドで描かれる圧倒的な音世界」と評価を受けている。
9月3日(土)、デトロイトリバー沿いのハートプラザ公園と、そこからやや離れた街中、合わせて数カ所設置された大小のステージのうち、Trisoniqueはコンクリートで囲まれた石段が客席のステージを会場に1 時間1 5 分に及ぶ演奏を行なった。フェスティバル全体としてはアフリカ系を主とする様々な人種が入り乱れていたが、彼らの演奏では白人のオーディエンスが9割ほどであった。
3人の卓越した技と見事な調和が生み出したパフォーマンスは観客を釘づけ。
『コートエンジン』という曲では、3人の演奏とは思えないビッグバンドのような重厚な音色を響かせた一方、繊細なメロディーと音色が優しい曲もあり、実に変化自在な演奏を見せてくれた。「ジャッキー・チェンが走り回るような曲」とキム氏が紹介した『ジャッキー・オン・ザ・ラン』の演奏では、音楽に乗せて楽しそうに体を揺する人の姿が多く見られた。ラストソングが終了した途端、惜しみない拍手と喝采が湧いた。日本のグループと知って聞くからか、「和を感じるサウンド」との感想も聞こえた。
特別インタビュー
演奏後、時間を割いて、弊紙のインタビューに応えていただいた。
― ハクエイ・キム氏 (ピアノ)
うまく合いの手をいれてもらって、温かさとアメリカらしさを感じました。ジャズが文化として根付いているなと思いました。
― 杉本智和氏 (ベース)
楽器はすべて借り物で、音もどう反響するか分からない会場で、良くも悪くも変化が起きました。ジャズ本場のアメリカ、しかも由緒ある硬派なフェスティバルで、緊張しました。
― 大槻 “KALTA” 英宣氏 (ドラムス)
5年までに自分のグループで出場し、その時は別の街中のステージでしたが、人の多さはこれ程では無かった。街の変化を感じました。オーディエンスが優しく有難く、安心でした。
3人共に、スタッフや出会った人々の人の良さを口にし、同イベントで演奏の機会を得た喜びをかみしめていた。また来たい、来れたら嬉しいとも。
T r i s o n i q u e は、2 日後には、「E a s t Meets West」と称されたプログラムのゲストとして出演し、地元デトロイトのアーティスト等と共にジャズセッションを行なった。この日の演奏はダウンタウンの道路を閉鎖して設置されたメインステージが会場。サックス、トランペット、マリンバなどのプレイヤー、そしてシンガーが加わり、高層ビルの谷間に艶やかな音色を反響させた。のメンバーの表情、演奏は前々日より“熱”が高めの印象。即席のジョイント演奏、中でも各々のソロ演奏に息を合わせるために、視線も鋭く、神経を張り巡らせている様子が見られた。スタンダードな演奏となり、「一昨日の方が個性が出ていてのびやかで良かった」との声も聞かれたが、ジャズらしいジャズで、演奏者も聴衆も、この一期一会のパフォーマンスを満喫していることが窺えた。「あらゆる枠を超える“音”を是非みなさんと共有出来るよう願っております」と事前に述べていたキム氏の願いは実現されたようであった。
追加情報
横濱ジャズプロムナードも、市民とミュージシャンが一体となって1993年にスタートして以来、多くの市民ボランティアに支えられ毎年その規模を拡大し、地域の活性化に貢献してきている。今年(2016年)の開催は10月8-9日。
☆T r i s o n i q u e の曲『トライソニーク』 『道~白磁の人』など、iTunesでダウンロードが可能。
☆初のエレクトリック・サウンド『ボーダレス・アワー(A BORDERLESS HOUR)』はamazon.comやBest Buyのオンラインで購入する方法もある。