9月の中秋の名月、お彼岸が過ぎて10月となりました。「暑さ寒さも彼岸まで」とは良く言ったもので、彼岸が過ぎた翌週は昼間も暑い日がなくなり、朝晩は肌寒いくらいになりました。街中では既に一部の木々で葉の色が変わり始めているのを目にすると、時の移ろい、季節の変わり目を感じます。

先月後半スポーツ界の大きなニュースと言えば、イチロー選手の所属するフロリダ・マーリンズの若きエース、ホセ・フェルナンデス投手のボート事故死に続いて、ゴルフ界のキングと呼ばれたアーノルド・パーマー氏が亡くなりました。米国だけでなく世界中のプロゴルファーの身分や待遇改善、プロツアーのテレビ放送企画・運営化、ゴルフチャンネルの設立、若手ゴルファーの育成基金、病院や教育センターの設立などゴルフ以外の分野でも数々の貢献をしましたが、彼なしには今のゴルフ界は存在しないと言っても過言ではありません。生涯ゴルフを愛し、仲間とファンを大切にした偉大なゴルファーが静かに去って逝きました。ご冥福をお祈りします。明るい話題では、日本のプロ野球セリーグで広島東洋カープの25年ぶりの優勝、追い掛ける様にパリーグで日本ハムファイターズの4年ぶりの優勝でしょうか。シーズン前の評判ではエース前田投手のMLB移籍で戦力ダウンが予想されましたが、ベテラン黒田投手と若手投手陣が踏ん張り、野手陣も序・中盤リードされていても終盤に追いつき、追い越す粘り強い打撃で援護し、セパ交流戦直後から首位を独走。一時勢いが衰えて

追いつかれた時期もありましたが、再び勢いを取り戻して見事優勝。その前田投手は日本での優勝は一緒に味わえませんでしたが、移籍先のロスアンゼルス・ドジャースで新人として大活躍し、ナリーグ西地区優勝を果たしてプレーオフ進出が確定しています。ファイターズはシーズン前半予想通りの圧倒的強さで独走していたソフトバンクホークスに最大11.5ゲーム差をつけられていましたが、こちらも交流戦終わり頃から破竹の15連勝で一気に差を縮め、僅差の首位に立った後の終盤紙一重の首位攻防戦を勝ち抜き、142試合目で奇跡の優勝。この試合で先発した『2刀流』で話題の大谷投手は被安打1、15奪三振の完封で1-0で勝利し、優勝投手となりました。打者としての成績も合わせるとシーズン10勝、20本塁打、100安打という長い歴史のMLBでも見られない前代未聞の記録を残しました。『二刀流』に拘ってファイターズに入団し、工夫と努力を重ねて今シーズン通してやり抜いた本人も立派ですが、まるで野球漫画のストーリーのような『二刀流』を絵空事ではなく見事に実現させた栗山監督の手腕も大いに称賛されるべきです。

今回のテーマはその辺に焦点を当てた『常識の限界と非常識の創造性』です。

上述の大谷選手と栗山監督の話に戻ります。ご記憶の方も多いと思いますが、大谷選手は当初高校卒業後日本のプロ野球入りをせず、MLB行きを希望しその旨はっきり明言していましたので、それを知りながらファイターズが彼をドラフトで1位指名した事を正直迷惑と思っていたと思います。MLB側でもかねてからスカウトを送り込んで情報収集していた複数球団が興味を示し、獲得のためのオファーを準備していましたが、当時確か監督就任1年目の栗山監督が入団後『二刀流』容認を条件の一つに粘り強く説得し、ファイターズ入団となった経緯があります。

巷では、二刀流容認は大谷選手のMLB行きを諦めさせ、ファイターズに入団させるためのリップサービスで、球団側は本気で実現させるつもりはなく、春先のキャンプやオープン戦で数回試してもレギュラーシーズン開幕後長くは続けないと予想したり、大谷選手自身も二刀流を自分の思い通りにこなせず途中で挫折し諦めるのではないかと予想していた人も多かったと思いますが、栗山監督も大谷選手もそれを良い意味で見事に裏切りました。

入団後すぐに一軍入りやレギュラーを目指さず、じっくり二軍キャンプでプロに必要な基礎体力や心構え、考え方、野球に対する取り組み方をなどをじっくり身に付けさせ、投手としての練習、トレーニングと野手としてのそれらのメニューを慎重に計画し、実践しながら大谷選手の現有能力と将来レベルアップの可能性を探りながら時間を掛けて育成したのが功を奏したと思われます。

一軍レギュラーとしてプレーする姿を早く見たい、話題として大きく取り上げたいというファンやメディアの声や気持ちを知りながら、計画を曲げずに根気強く継続するのは相当の忍耐と覚悟が必要だったと思いますが、それを実現出来たのは栗山監督だからこそではないかと思います。

ご記憶の通り、栗山監督は就任前は野球解説者の仕事はしてましたが、監督またはコーチの現場・実務経験がなく、机上の理論だけでは空回りして選手の監督・指導や若手の育成、選手とのコミュニケーション、試合・プレーの指示・運営が上手く行かないのではないかと疑問視する向きもありました。実際は解説者当時からシーズン前後のキャンプやオープン戦、公式戦の現場に足繁く通い、ベテランから若手まで多くの選手と接して本音の話を聞き、選手の率直な考えや気持ちを選手の目線と立場から理解しようとしていたとの事で、そういう地道な努力が監督になってから「我々一人ひとりの事を良く見て考えてくれる」という選手間の監督評に繋がっているのでしょう。あのやんちゃで我が道を行く一匹狼的な中田選手でもつい最近優勝決定後の告白ブログで栗山監督に対する絶大な信頼感と尊敬の念を述べていましたから、監督の手腕は疑いようがありません。

栗山監督が常識的なコーチ、監督の経験を経ずいきなり解説者から監督になった非常識の中に常識の世界では限界と思われる『二刀流』を実現してしまうという非常識な創造性が生まれたのかもしれません。監督の手腕と大谷選手の実績を見せられては、「二刀流で兼業の彼があれだけやっているのに自分は・・・」と投手や野手を専業としている他のチームメンバーも奮起して余計に頑張らざるを得ません。効果絶大な目に見える動機付けとなってチーム全体・全員の自覚と士気が高まり、常識的には無理、限界を超えると思われた11.5ゲーム差を覆す奇跡の大逆転優勝になったと確信します。

野球の世界だけでなく、冒頭で述べたゴルフのパーマー氏、電球など数多くの発明をしたトーマス・エジソン、日本で江戸時代にエレキテルなどを発明した平賀源内、世界初のトランジスターラジオやウォークマンを製品化したソニーの盛田昭夫氏、巨大なコンピューターを一人に一台のパソコンに変えたスティーブ・ジョブズなど、常識の世界から抜け出し当時は非常識と思われた新たな発想で新発明、新製品を世に送り出しました。42歳現役で今も数々の新記録を打ち立て続けているイチロー選手も他の選手としては常識外の発想で自己管理、トレーニングを続けて誰もなし得なかった領域に踏み込めているのだと思います。

皆さんもたまには常識を外れた思考・発想方法で非常識でかつ便利で役に立つ創造性発揮にトライしてみませんか?但し、何でもかんでも常識外の行動を取って良いと言ってる訳ではありません。そこは常識の範囲でお願いします。(笑)

執筆者紹介:小久保陽三

Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。