
日本の里山で毎年実施している日本語・日本文化体験学習プログラム「サマーキャンプ in ぎふ」(米日教育交流協議会主催)は11年目の実施を無事終了しました。7月1日から7月11日に予定していた第1期は都合により実施しませんでした。7月27日から8月2日に行った第2期には14人が参加し、11年間の総参加者数はのべ215人です。その多くがアメリカ在住者で、カリフォルニア州が最も多く、次いでワシントン州、テキサス州、ニュージャージー州などが続きます。また、アメリカ以外の参加者も増加し、カナダ、メキシコ、イギリス、アイルランド、ベルギー、トルコ、タイ、中国、香港、台湾などと広がりを見せています。日本のインターナショナルスクールやアメリカンスクールに通学している子ども子どもや両親ともに日本人ではない子どもの参加もありました。
ここでは、今年のサマーキャンプで感じたこととこれまで11年間実施してきた中で感じたことなどを述べますが、その前に「サマーキャンプ in ぎふ 2016」の実施概要を記します。
目的:海外に暮らし日本語学習中の子どもが日本の自然、文化、歴史に触れ、地元の人々と交流することによって日本語・日本文化を心と体で体感し、積極的に日本語を学習し、日本の生活習慣を習得しようとする意欲を芽生えさせる。
主な体験内容―日本の人々との交流、古民家の生活体験、農作業体験、ものつくり・食つくり体験、自然の中での遊び体験、寺院での座禅体験、地場産業や史跡の見学、地元民家でのホームステイ *第1期では学校体験、第2期ではホストファミリーとの川下り体験もある。
活動拠点―岐阜県山県(やまがた)市内の里山(美山・伊自良地区)
参加対象―海外に暮らす日本語学習中の小学4~6年生、中学生、高校生 *第1期は中高校生、第2期は小中学生対象
実施期間―第1期:7月1日から11日(10泊11日)、第2期:7月27日から8月2日(6泊7日)
参加した子どもたちの様子
第2期の参加者14人の内訳は以下の通りです。高校生1人、中学生7人、小学生6人。男子7人、女子7人。男子は中学生が6人、女子は小学生が5人です。また、すべてがアメリカ在住で、カリフォルニア州が7人、ワシントン州が2人、ノースカロライナ州が2人、ニューヨーク州、ニュージャージー州、ミシガン州が各1人です。
過去に参加したことのあるリピーターは7人、兄弟での参加が2組4人、友人同士での参加が2人で、全くの初対面という子どもが少なかったせいか、あっという間に打ち解け、キャンプ地に向かうバスの中から大騒ぎでした。
第2期は例年同様に日本語会話力が低い子どもが目立ち、今年も過半数が日本語での会話が難しい子どもでした。そのため、子どもたちの会話では英語が飛び交いましたし、日本語での説明が聞き取れず、何をしていいのかわからないという子どももいました。そういう子どもたちは、日本語のできる参加者に英語で手助けをしてもらったり、見様見真似で活動したりしていましたが、なかなか指示が徹底しないこともありました。当キャンプでは日本語のみを使用していますが、川遊びの注意など重要な説明に限り英語でも説明することにしました。
「サマーキャンプ in ぎふ」の活動内容
ここで、今年実施した体験プログラムのいくつかを紹介します。
●スポーツ交流
最初に2泊する元小学校を改修した
「北山交流センター」の体育館にて、ドッジボールをしました。子どもたちだけでなく、インストラクターやスタッフもともに楽しみ、この後の体験での円滑な交流につながりました。
●古民家生活体験
築100年の古民家にて、薪割りをして、かまどでご飯を炊き、おにぎりを作りました。また、竹を利用してそうめん流し器を作り、そうめん流しも楽しみました。昼食後には、古民家の脇を流れる源流近くの川で泳いだり、水鉄砲をしたりしました。水はとてもきれいですが、とても冷たく寒くなるほどです。冷えた体は、薪で沸かした五右衛門風呂に入って温めました。親の世代でも経験がない昭和初期以前の生活を体感しました。
●農作業&食つくり体験
山の斜面の畑にて、地元のおばあさんやおじいさんの指導の下、なす、ピーマン、オクラなどを収穫し、炒め物や天ぷらなどの料理を作りました。収穫にも料理にも、集中して取り組み、作った料理もきれいに平らげ、ご飯もおかわりする子どもが目立ちました。日常では感じられない野菜のおいしさを実感できました。
●ものつくり体験
北山交流センターの近くで、檜や杉の枝を切り、その他の山の木々も利用して、鉛筆とボールペンを作りました。指導者は、岐阜大学の先生と学生さんです。木の枝の中心に穴をあけたり、先をカッターナイフで削ったりする作業は難しいのですが、子どもたちは集中して取り組み、山の自然に触れる良い機会となりました。
●ホームステイ
2泊3日でお世話になりますが、半日は川下りで乗船するいかだを一緒に作り、もう1日はいかだで川を下りました。家庭で過ごす時間は少なかったですが、夜は、花火やバーベキューを楽しみました。子どもたちにとっては、里山の家庭での生活を知る良い機会となりましたし、地元の人々にとっては、海外の子どもとの交流を楽しんでいただけました。
今年は14人に対し、10家庭のホストファミリーが受け入れをしてくれました。その内半数は、過去にも受け入れをしてくれた家庭です。過去のサマーキャンプの子どもたちを気に入ってくださったのだと嬉しく思います。
●いかだ川下り体験
鵜飼で有名な長良川の支流の武芸川で28年間にわたって行われているイベント「美山いかだ川下り」(YACC主催) に参加しました。ホストファミリーとともに半日かけて作ったいかだは、途中で転覆したり、破損したりというトラブルもありましたが、岐阜の自慢の清流を肌で感じることができました。川下りの後は、バーベキューを楽しみながら、心行くまで川遊びをしました。
●伝統工芸体験
山県市特産の渋柿を利用した柿渋染めを体験しました。柿渋独特のにおいにもすぐになれ、思い思いの作品(手ぬぐいとランチョンマット)を仕上げました。指導者は、地域おこしのために横浜から移住した方です。子どもたちのオリジナリティーあふれる作品を高評くださいました。
●寺院体験
450年前に創建された禅宗の寺院にて、座禅と習字を体験しました。座禅では、いつもおしゃべりの多い子どもたちも、住職の話にしっかり耳を傾け、真剣に取り組んでいたのが印象的でした。座禅の後は、好きな字や言葉を筆で書く練習をし、最後はうちわに清書をしました。思い出に残る良いお土産になりました。
「サマーキャンプ in ぎふ」の成果と課題
これまでの11年間の実施にて、日本の里山で日本文化を体感しながら日本語に触れることで、参加した子どもたちの日本語学習のモチベーションが上がったということは、保護者からのご報告によって実感していますし、参加者のリピーターの日本語での会話も、過去に比べると向上しているのを感じます。そういう意味では、「サマーキャンプ in ぎふ」は確実に成果を上げているといえます。
また、ホストファミリーや宿泊施設、各種体験の指導者の皆さんなど、受け入れ機関や受け入れ者の皆さんが、歓迎してくれ、毎年楽しみにしてくれているのも感じます。そして、共催者のNPO法人山県楽しいプロジェクト、山里生活推進委員会、協力団体のYACCでは、20 ~40代の方々が、ボランティアで協力をしてくださいます。子どもたちとの年齢も近く、一緒に遊んでくれるので大喜びです。皆さんは、お仕事を持っておられますが、休日や仕事が終わってから時間を作ってくださいますし、中には仕事をお休みして協力くださる方もおられ、本当に頭の下がる思いです。
また、当キャンプは、2年前から岐阜県、岐阜県教育委員会、山県市、山県市教育委員会という行政機関の後援もいただいています。海外在住の子どもたちのためのプログラムですが、今後は、地元の活性化、グローバル化にも貢献することを目指したいと考えています。
執筆者のプロフィール:河合塾で十数年間にわたり、大学入試データ分析、大学情報の収集・提供、大学入試情報誌「栄冠めざして」などの編集に携わるとともに、大学受験科クラス担任として多くの塾生を大学合格に導いた。また、全国の高等学校での進学講演も多数行った。一方、米国・英国大学進学や海外サマーセミナーなどの国際教育事業も担当。米国移住後は、CA、NJ、NY、MI州の補習校・学習塾講師を務め、2006年に「米日教育交流協議会(UJEEC)」を設立し、日本での日本語・日本文化体験学習プログラム「サマー・キャンプ in ぎふ」など、国際的な交流活動を実践。また、帰国生入試や帰国後の学校選びのアドバイスも行っており、北米各地で進学講演も行っている。河合塾海外帰国生コース北米事務所アドバイザー、名古屋国際中学校・高等学校アドミッションオフィサー北米地域担当、名古屋商科大学アドミッションオフィサー北米地域担当、デトロイトりんご会補習授業校講師(教務主任兼進路指導担当)
◆米日教育交流協議会(U J E E C ) Website:www.u j e e c .org