「春のフルートデュオコンサート」を終えて考えること 3

IMG_4892アンサンブル・ブリランテ主宰 小西孝和

春の気配が、灰色の風景の中に少しずつ、かすかに感じられるようになってきていたかと思っていると、あっという間に木々も芽吹いた5月下旬。柔らかな日差しの日曜の午後、そんな春にふさわしい、軽快なフルート・デュオ・リサイタルを開催しました。

フルート奏者の岡田夏穂さんは現在Harrisonハイスクール3年生で、日本では中学に入るとブラスバンド部に所属しフルートを始めました。2013年渡米、以来私のレッスンに熱心に通っています。しっかりした基礎テクニックとフルートに欠かせないしなやかでしっかりした指、ただしい息遣い、フレキシブルでバランスのとれた上肢を持ち、ご家族のバックアップもあり、音楽面もテクニック的にも最近腕を上げてきていましたが、残念ながら今年の夏大学受験のため帰国することになりました。そこで帰国前に私とのジョイントコンサートで演奏披露してもらうことにしました。

岡田さんのソロ演奏曲は19世紀後期にフランスで活躍したフルーティストで作曲家のポール・アグリコール・ジュナン(1832-1903)の『ヴェニスの謝肉祭 作品14』です。この曲は、フルートの躍動感と軽やかさが存分に生かせる曲です。バレエ曲でも使われる有名なイタリア民謡の主題による序奏と間奏曲を交えた8つの変奏曲からなる、確実なテクニックと音楽性を必要とされる、大曲です。

IMG_9416私とのフルート・デュエットは3曲演奏しました。ハイライトはフルート愛好家にはおなじみの『ハンガリー田園狂想曲』を作曲した、ハンガリー人のフルーティスト・作曲家であったフランツ・ドップラー (1821–1883) の作曲した2本のフルートとピアノのための『アンダンテとロンド』です。この曲は田園的なアンダンテの主題とエキゾチックなロンド主題の対比が聴き手を異空間に誘い込むような魅力にあふれた曲です。

IMG_4856また、今回はスペシャルゲストとして若いチューバ奏者による東欧の舞踏音楽を題材にした小品2曲をピアノとのデュオで演奏してもらいました。チューバ奏者のJosue Jimenez氏はコスタリカ出身で、2015年からクリーブランド・オペラ劇場のチューバ首席奏者。これまでAtlantic Classical Orchestra及び South Florida Symphonyの首席奏者を務め、現在クリーブランド・オーケストラのYasuhito Sugiyama氏のもと、クリーブランド音楽院で修士課程在学中です。

IMG_9414ピアノ奏者の中村ひかりさんはフロリダ州のLynn Conservatory of Music在学中で、2012年にはスタインウェイ・ピアノコンクールの受賞記念ソロコンサートを行ないました。これまでレナード・スラートキン賞受賞記念コンサートをデトロイト交響楽団、ワレン交響楽団と共演しています。
私のソロは有名なモーツアルトのフルート協奏曲第2番の第1楽章と小品2曲を演奏しました。

若い演奏家たちの伸びやかな演奏を目の当たりにすると、心和らぐと同時に、これまでのかれらの長い孤独な道のりと情熱に思いを馳せずにはいられません。

音楽演奏家は他のアーティストと同じく孤独な作業の積み重ねなくしては聴衆の前に立って演奏する喜びを知ることができません。楽譜をよく読み他の演奏よく聞き試行錯誤を繰り返しまた楽譜に戻るという作業を何度も何度も繰り返す粘り強さと音楽に対する思い入れが必要です。残念ながらたくさんの生徒さんがその喜びを知らずにフルートを断念することを寂しく思います。

brillante20160522しかしながら、音楽を愛し、貴重な時間と労力を音楽に注いでくれる若手演奏家たちがいてくれるのだと思うと心がなごみます。若い人々の晴れ晴れしい演奏を目の当たりにすると頼もしく思うと同時にこうやって次のジェネレーションへ音楽の遺産を受け継いでいってもらうのだと言う自然の摂理の偉大さを改めて思い起こされました。これからも積極的に若い才能ある人々とのコラボを企画したいと思います。

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