
この言葉は‘山木屋太鼓’の演奏を聞いた観客の声であり、太鼓メンバーの声でもある。
去る3月下旬、福島を拠点とする和太鼓グループ‘山木屋太鼓’のメンバー10名がミシガンを訪れ、福島の今、故郷の現状を音楽の力で発信するために、大小のコンサート、学校や音楽スクールでのワークショップを行なった。
3月22日(火)にアナーバーのパワーセンターで催された「福島トリビュート・コンサート」には、平日の夜にも拘わらず概算650人の観客が会場を埋めた。
幕開けは、和太鼓の貸出・運搬などで協力した当地の和太鼓センター‘五大湖太鼓センター:Great Lakes Taiko Center’(Novi拠点)のパフォーマンスグループ‘雷音:Raion’ならびに‘五大湖ドラマーズ’による演奏でスタート。3曲目の『五大湖』というオリジナル曲は両グループの合同で総勢15名の迫力ある演奏となり、会場に轟きを響かせた。
山木屋太鼓は、グループのリーダーでもある遠藤元気さんの作曲による6曲を含む10曲を披露。『灯』『郷愁』など、題名も故郷や日本の情緒を表すもので、篠笛や多様な太鼓の音色を組み合わせて、自然の繊細さや雄大さを豊かに伝えた。
「福島トリビュート・コンサート」ということで、被災地支援のつもりで訪れたという観客の一人は、「生き生きとした姿や響きに、むしろ力をもらいました。日本のこと、人の強さ、いろいろなことに思いを馳せながら、涙が溢れました」と感動の思いを寄せた。「魂が屋根を突き抜けて飛んでいくのが見えるような凄い演奏でした。子供の演奏は、魂が純粋なので、どんなプロでもかなわないような凄いものが出てきます。逆境が彼らをここまで昇華させたかなと思いました」と、音楽指導者でもある女性が言葉にした。
山木屋太鼓は2001年に地域に根差す若者の育成と発展を目的に結成され、以来故郷の自然をテーマに曲を創作し活動を続けている。活動の本拠地を構えていた福島県川俣町の山木屋地区は東日本大震災による東京電力福島第1原発事故に伴い、震災後やや経ってから避難区域に指定された。人々が散り散りになり混乱と不安のなかにあって、「太鼓の灯を消したくない」という強い思いによって、2カ月後に移転先で半数ほどのメンバーで活動を再開。困難を乗り越え結束を強め、最近は日本各地で精力的に演奏活動をしている。2012年4月にはワシントンDCの100周年桜祭りに招まれて演奏した経験もある。その北米での演奏機会を通して、「招待して元気づけてくれたアメリカの地で恩返しの想いも込めて演奏したい」「和太鼓の持つ力を認識し、力を得た。還元したい」という熱意を抱いて、このたび当地を訪れた。今回の遠征に参加したのは高校生から27歳までの若者たち。リーダーの遠藤さんと同じく最年長の菅野優さんは、「日本とは感動の仕方が違うところで演奏し、太鼓に対して『あらたな希望』を感じて欲しい」と後輩に期待を寄せた。若手メンバー達はその想いを共にし、改めて「太鼓のパワーを再認識した」「観客の顔が見えて、心の底から燃えてくるものがありました」
「日本で演奏するのとは違う興奮を感じました。しっかりと伝えなくちゃ、という気持ちもあった」と話してくれた。
演奏が終わった途端に上がった観客の歓声と爆発的な拍手が、彼らの想いやパワーがしっかり届いたことを表わしていた。
彼らとミシガンとの繋がりの発端となったのは、ミシガン在住のww。美術、音楽など多彩なアーティストである椎木さんは東日本大震災以来、アート作品で東北と海外とを繋ぐプロジェクトや義捐金集めの音楽イベントなどを実施してきたが、2013年、福島にボランティア活動で訪れた後、福島に住む人々の声を海外に届けたいとドキュメンタリー映画制作に取り組み始めた。その取材で山木屋太鼓のメンバーはインタビューに応じ、映画にも登場している。
映画では触れていないが、「皆の夢はなんですか?」という透子さんの質問に対して、「震災後すぐに招待してくれ演奏の機会を作ってくれて元気づけてくれたアメリカの地でもう一度恩返しの想いも込めて演奏したい」と答えた彼らに、「是非ミシガンで演奏してもらいたい」と伝え、それに山木屋太鼓が賛同し、今回の訪米企画がスタートしたのだそうだ。
福島を数回再訪し取材を重ねて撮影・制作した映画『スレッショルド:福島のつぶやき』は昨年2015年に完成し、当地の上映会で反響を呼んだ。今回のトリビュートコンサートの2日後にも上映会が行われた。映画には、自宅からの避難を余儀なくされた人、福島から遠くへ離れる選択をした人、または福島で住み続ける人など、立場や事情の異なる多くの人々が登場する。原発事故によって住み慣れた故郷を離れたり、日々の活動、人との繋がりも断ち切られたことの痛み等だけでなく、今を模索しながらも精一杯生きる喜びもが語られる。
透子さんの訪日に同伴したご主人も音楽家であり、音楽好きの魂が呼び合うのか、出会った人々=登場する人たちも音楽を愛する人が多数を占める。中学のブラスバンド、魂の声を歌うミュージシャン、そして山木屋太鼓。逆境の中での音楽の力が強く伝わる。
今回の上映会の後にも山木屋太鼓の演奏が披露され、数曲ではありながら、持てる力を振り絞るかのような迫力ある音が会場を満たし、観客は心を鷲掴みされたような表情で聴き入っていた。目頭を押さえる観客の姿も多く見られた。
今回のツアーは、透子さんとミシガン大学音楽スクール教授であるご主人がコンサートやワークショップの準備のみならず、滞在先などのアレンジも行ない実現にこぎつけた。上映会の最後に、多数のミシガン大学関連の機関、賛同者の名前を挙げ、謝意と喜びを伝えた。
今回のツアーの資金の提供は、主にミシガン大学のスクール・オブ・ミュージック・シアター&ダンス、センター・フォー・ジャパニーズ・スタディーズ、センター・フォー・ワールド・パフォーマンス・スタディーズが行なったが、当地の日本人女性を中心とするNPOミシガン雫の会も協賛。かねてから東北支援のために行ってきた募金活動やバザーなどの収益金および東北支援活動の目的で拝受したJBSD基金やシカゴ会からの毎年の寄付金から、渡航や、コンサート会場の照明の費用等を援助した。歓迎交流会の料理も提供し、在米日本人女性のパワーを発揮した。ちなみに、リーダーである遠藤さんは昨夏に単身で下見とコネクションづくりのために当地を訪れており、その支援にも雫の会が尽力した。また、ミシガン大学の学生の組織であるJSA(Japan Student Association)が、現地での緊急な出費などのサポートをしたことも特筆に値する。
和太鼓のパワーは広がる。ワークショップにも協力し、山木屋太鼓の活動や演奏にほぼ連日同行した五大湖太鼓センター主宰者であるブライアン・ソウル氏は、「自分が数年前に、低迷するデトロイトを力づけたいという思いで和太鼓センターを開いたときの初心を思い出した」「コンサートで、観客やメンバーの表情を見て、和太鼓をやってきて良かったと心から思った」としみじみと語った。その言葉を受けて、山木屋太鼓のリーダー遠藤元気さんは、
「お借りした太鼓に魂を吹き込んで打ちました」「これからは私達の想いと合わせて演奏して頂けたら嬉しい」とエールを送った。
山木屋太鼓のツアーはミシガンを去って終了ではなかった。日本で渡航のための寄付や応援をしてくれた人々へのお礼の意をこめたコンサートを5月の連休中に開催したとのこと。
「故郷の鼓動、そして震災から学んだことを和太鼓の響きとともに発信する為に、ミシガンに遠征し演奏したい」と、支援金を呼びかけるネット上に心情を表していたリーダーの遠藤さんに、演奏後の感想や山木屋太鼓の近況を寄せていただいた。
*facebookで「Yamakiya Taiko Video Compilation山木屋太鼓ツアー・ダイジェスト」の視聴が可能。