
デトロイトのダウンタウンにある人形劇のシアター「PuppetART」で、日本の昔話『鶴の恩返し』が恒例の演目の一つに加えられている。英語タイトルは“The Crane Maiden”。PuppetARTはロシアのモスクアなどで経験を積んだ人形劇集団が1998年に当地で設立。70席ほどのシアターの他、世界各地の操り人形を展示するミュージアム、人形制作教室や講演などを行なうスタジオスペースも保持している。
現在11のレパートリーがあり、1~2カ月ごとに演目を替えて上演している。これまでに、ロシアのユダヤ人の話、アラビアやアフリカの民話を元にしたものなど、題材は様々で、大人向けに創作されたオリジナル作品もあるという。
今年4月に上演された『鶴の恩返し』は15年前からの恒例の演目。同館創設者の一人であるイーゴアさん(Mr.Igor Gozman)がこの作品のディレクターを務めているが、アート性が高く、精神的な要素も多分に織り込まれている。舞台もストーリーも暗めにまとめている。『鶴の恩返し』は動物報恩の話であるが、イーゴアさんは開演前に「西洋ではハッピーエンドの話が多いが、日本の話は必ずしもそうではない」「失敗してもOKと言うことがよくあるが、この作品では自分の行動には責任と結果が伴い、時には運命が一変することもあることを示唆している」と、ややギョッとする解説を伝えた。開幕時に会場が真っ暗になった途端に泣き出した子がいたが、少々おどろおどろしく劇が始まると泣き止み、どの子も少しもざわつくことなく鑑賞し続けていた。「人形劇は格好の伝達方法」と明言するイーゴアさんの言葉が裏付けられた子どもたちのリアクションであった。人形劇ではあるが、本演目では操り人形師の二人は、善と悪という二つの精神の象徴として時には人形から離れて役者として演じたり舞ったりしていた。
『鶴の恩返し』の公演はJBSD基金が例年スポンサーになっており、イーゴアさんは「このサポートが無ければ、今あるPuppetARTの活動は続かなった」「日本の民話を題材にした劇を通して、文学や文化を紹介することができて光栄」と語った。初演当時は課題だらけであったが、試行錯誤と改良を重ね、栄えある賞も受賞したとのこと。工夫の一つはエンディング。鶴の化身である愛妻との約束を「秘密を見たい」という思いを抑えられずに守れず、妻に去られた主人公(ごんぞう)は自責の念と傷心のなかで事切れ、最後は2羽の鶴が空を飛翔していく。
日本人にとっては選曲など、やや違和感のある扱い方もみられたが、俳句、琴や能楽の音楽なども挿入され、当地の人々に日本文化に対して興味を抱いてもらうには良いイントロダクションといえる。
人形劇は文化や知恵を後世に伝える手段として、また娯楽として、世界各地で、おそらくは何千年も前から人々に親しまれてきたそうである。人々にその良さや、他では味わえない経験と感動を届け続けたいとイーゴアさんは熱心に語った。
館内には所狭しと操り人形を中心に多様な人形が並んでいる。素材やスタイル、表情はバラエティーに富んでいる。それぞれの人形劇の形式も様々であるとのこと。
今シーズン、7月8月には『BANANA FOR TURTLE』という動物の冒険もの、9月にはロシア民話の上映が予定されている。
日時など詳細はwww.puppetart.orgで。
PuppetART Theater & Museum
25 East Grand River Ave., Detroit MI. 48226
313-961-7777 / fax 313-961-8771
*公演鑑賞は要予約、有料。ミュージアムは原則、上演時間の前後に無料一般公開している。