
寒さが緩んだ3月6日の日曜日、デトロイト美術館(以下:DIA)の恒例イベントとなった日本の雛(ひな)祭りイベントが開催された。在デトロイト日本国総領事館によるプログラムで、雛人形の展示の他、JSDウィメンズクラブや当地で日本の芸能文化をたしなむ人々等の協力を得て日本の伝統文化を紹介している。
今回は、DIA館内に来年オープニングが予定されている日本ギャラリーのプロモーションも行なわれ、DIAが誇る荘厳なスペース「リベラ・コート」での茶の湯や日本舞踊、邦楽、生け花の実演の他、隣のエントランス広間には豪華な雛壇の他、打掛の着物の展示、アート紹介ブース、そして折り紙のワークショップコーナーが設けられ、例年より盛りだくさんな内容を大勢の来訪者が楽しんだ。
日本ギャラリーのプロモーションとして、DIAのアジア美術の担当者であるビルギッタさんより、日本ギャラリーの規模や、それに向けて行なわれているプロジェクト並びにイベントの紹介がなされた。開設に向けては、日本人を含む「コミュニティ・コンサルタント」が特別に組織され、プロジェクトの推進に尽力していることも伝えられた。
総領事館の文化担当者より、雛祭りは女の子の成長を祝うと同時に春の訪れを祝う意味もあるといった概要や伝統的な祝い方の解説などが伝えられた。
実演は、日本舞踊で幕開け。以前ミシガンに住んでいた縁で、花柳流の名取である小山みち江さん(花柳徳猿)がオハイオ州から駆けつけて、祝いの席の舞「松の緑」と、軽快な民謡舞踊「おてもやん」を衣装を替えて披露した。小山さんは、ミシガン滞在中に、日本祭りの第1回目の盆踊りの指導にあたったとのこと。縁によって、貴重な伝統芸能を鑑賞する機会が得られた。
JSDウィメンズクラブによる茶道実演では、巨大壁画に囲まれた即席の茶席ながらも、落ち着いた雰囲気を生み出していた。凛とした美しい立ち振る舞いや点前に惹きこまれ、観客席にも粛々とした気配が漂った。お点前の進行に合わせた所作の意味の他、茶道具や掛け軸に関わる日本の美意識や考え方についても説明が添えられた。
邦楽演奏は、当地で活躍する邦楽グループ『雅(みやび)』の琴に弦楽器が加わって、琴曲「春の海」と「秋の言の葉」を華麗に披露。和洋の絶妙なコラボに来訪者はうっとりと耳を傾けていた。雛祭りイベントとあって、子供の観客も多く見られたが、じっと見入っている姿が印象に残った。
後半には、いけばなインターナショナルデトロイト支部のメンバーによる生け花の披露が行なわれ、花材の数や色を制限しつつアレンジして世界観を造り出す生け花の真髄を紹介。美しい作品に多くの称賛が寄せられた。
折り紙を楽しんでいた母娘に声をかけたところ、日系4世だという母あけみさんはカルフォルニアから当地へ来て1年ほどで、カルフォルニアに比べて日本文化に触れる機会が少ないミシガンでのこのイベントに感謝。日本語は話せないそうだが、日本文化は娘にしっかり伝えたいと語った。米人の来訪者からは、雛人形の繊細さや着物の優美さに感嘆の声が集まった。
桃の節句とも呼ばれ、春の訪れを伝える行事でもある雛祭り。今年は暖冬といわれ、この日も天気に恵まれたものの、桃の花が咲く春にはまだ遠いミシガンの午後であったが、和服姿で実演や手伝いにあたる女性の姿も彩を添え、明るさと優雅さが溢れるイベントであった。
デトロイト美術館は、自動車産業の繁栄のもと1885年に開館し、以来着実にコレクションを形成し、美術品の所有数と幅広いコレクションで知られる、アメリカ屈指の美術館の一つである。
DIA後援グルーブの一つに「フレンズ・オブ アジアン・アート&カルチャー(Friends of Asian Arts & Cultures:FAAC)」があり、アジアならびに古代中東やイスラム世界の地域を広くアジアと定義して、その多様な視覚的物質的文化の理解と評価を促進することを目的に活動をしている。日本ギャラリーのオープニングを来年に控え、FAACでは、特にミシガンの日本コミュニティーの人々への入会を呼びかけている。
DIAウェブサイト:http://www.dia.org/