(前回)米大統領選2016の見所
http://www.japannewsclub.com/2015/11/米大統領選2016の見所/
The “get Hillary” committee did not get Hillary:
2015年10月22日(木)、民主党の猛烈な反対にもかかわらず開かれた下院のベンガジ特別委員会(Benghazi House Committee)は、11時間に亘り、共和党主導の激しい論戦が繰り広げられました。この委員会は“get Hillary”と呼ばれ、共和党のヒラりークリントン氏の「しっぽをつかむ」という意図がありありの委員会でした。その発端となったベンガジ事件が起きたのは2012年9月のことであり、当事の内務長官であったヒラリークリントン氏が、すでに責任はとっていると繰り返し述べたが、事実誤認があるといって共和党の委員は追求の手を緩めず、長々と質問を浴びせかけたのです。CNNを通して同委員会の様子が延々と実況中継されておりました。11時間に亘る論戦の中で、時折憔悴しきった表情を見せることもありましたが、クリントン氏はほとんど全ての質問に淀みなく答えていたのが印象的でした。結果的に共和党が期待する新たな証言は出てこなかったというのが大方の見方です。その中で“grill”という言葉が度々出てきましたが、「焼く」という本来の意味ではなく、「厳しく尋問する」という意味で使われていたのです。従ってベンガジ委員会は、「殺人事件の検察官が、厳しい尋問をしているようだった」という、多くのメディアの論調は言い得て妙でした。
3rd Republican Presidential Debate:
10月28日に開かれた第3回目の共和党大統領候補10名によるディベートは、いくつかの点で今までのディベートとは違っておりました。それぞれのディベートは主要なメディアが持ち回りで企画し運営に当たっております。第一回目はFOXが担当し、第二回目はCNNが、そして第三番目はCNBCが担当しました。特に今回はビジネス報道で知られるCNBCですので、税制や財政が中心に論議されるものと期待されておりましたが、実際に蓋を開けてみると、ディベートの司会者(moderator)からそれぞれの候補者に対し辛辣な質問が続々と浴びせかけられたのです。それに対し、ディベートの参加者からは、罠が仕組まれているようで、卑劣な質問“gotcha question”が多かっただけでなく、革新派(liberal)に有利で、保守派(conservative)に不利な内容の質問が多かった、という声が殆ど全員の参加者からよせられたのです。(その表現の中に出てくる“gotcha”は、“I’ve got you”が短くなり、“got you”となり、その発音に併せた綴り字のことです。)その後、一部のデベート参加者が集まり、CNBCをボイコットすると同時に、政策中心のディベートが出来るようなフォーマットへの改善を、共和党全国委員会(Republican National Committee, 略してRNCという。それに対して、民主党全国委員会はDemocratic National Committee, 略してDNCという。)に申し入れたのです。
GOP tells NBC next debate suspended over ‘gotcha questions’:
共和党全国委員会(RNC)は、CNBC主催で行われた、第三回目の共和党候補者のディベートで酷い扱いを受けたという理由で、次回からは辞退する(suspend)と発表しました。それに対し、NBCは、誠意を以って(in good faith)対処すると応えたのです。その表現(in good faith)は、RNC側が、ディベートは、司会者による悪意を以って(in bad faith)行われたという見解に呼応する表現のように思えました。
How your political views are decided by Fox and CNN?
FOXやCNNをはじめとする主要なメディアが、視聴者の政治的見解をどう決定するのかを示す面白いデータがあります。これはPew Research Journalism Projectが、
2015年の3月から4月にかけてインターネット上で行ったものです。それによると、左右の両極化は著しく、その上、かなり深化しているということです。
保守派を自認する人々の47%がFOXを主なニュース源としており、88%がFOXは信頼できるが、その他のニュース源は信頼できないと答えております。又、革新派を自認する人々は、一つに限らず、複数のニュース源を挙げております。例えば、CNN、MSNBC、PBS、などです。確かに、FOX系統のメディアには、ビルオーライリー(Bill O’Reilly)、メーガンケリー(Megyn Kelly)、ショーンハニティ( Sean Hannity)などそうそうたる保守派の論客がひしめいており、それぞれが自らの名前を冠した番組を持っており、保守派の色合いが濃い主張が、TVやラジオを通して、連日、展開されております。又、オバマ政権に批判的である事も周知の事実です。
4th Republican Presidential Debate:
第四回目の共和党候補者のディベートは、世論調査で上位8名に限定され、外交・財政、金融、その他が討議されました。最初に、1,100万人いるといわれる違法移民を全員送り返すというトランプ氏の提案が、ジェブブッシュ氏(Jeb Bush)やジョンケーシック氏(John Kesich)などが、人的資源に限りがあり、違法移民を特定する難しさを指摘し、非現実的だと反論することから討議が始まったのです。そして、本選に集中しないと、民主党候補は、われわれの議論を聞いて、“high-fives”をしながら喜んでいることだろう、と自嘲気味に述べておりました。その後は、トランプ氏が、司会者を勤めるような形で議事は進行していったのです。更に、テッドクルーズ氏(Ted Cruz)は五つの省庁を廃止するといいながら、それらの名前を正確に言う事が出来ずに、‘oops’で締めくくる場面もありました。‘oops’は、皆さんご存知の、驚き・狼狽・謝罪の気持ちを表す表現です。その後、ランドポール氏(Rand Paul) とマークルビオ氏(Mark Rubio) の間で、軍事費をめぐる論争があり、ルビオ氏は、税金を大幅に減らし、あらゆる規制を緩和させることで、企業の競争力を増し、アメリカの豊かさと偉大さを再び取り戻す、という、いつもと同じ論理の主張を繰り返すと同時に、中東では、過激な思想を持つイスラム教徒(radical jihadists)が、人民の首を切り(behead)、キリスト教徒を弾圧しているので、かれらに対抗する軍事力を増強する必要があるというルビオ氏の考えに対し、ポール氏は、一方で、入りを制しながら、他方では、一兆ドルの軍事費の増加を図るというのは、保守派の思想に根底から背くという議論でした。又、TPPが話題なると、トランプ氏は、『中国は中国の通貨を不当に操作している』と、日ごろの主張を繰返したが、ポール氏が、この条約に、中国は加盟していないと指摘すると、参加者から失笑が漏れる一幕もありました。カーソン氏はクリントン氏のベンガジ事件にふれ、いつものことながら、『彼女はうそつき(liar)だ』と何度も言い放ったのは、政治という脈絡の中であるとはいえ、大人げないと感じました。
2nd Democratic Presidential Debate:
民主党の大統領選候補者による、第二回目のディベートは、11月14日(土曜)に行われましたが、その直前に、パリで同時テロが発生し、全米を恐怖のどん底に巻き込みました。従って、民主党のディベートも、そのあおりを受けて、外交政策に的が絞られました。そこで、パリの同時テロが起こる前の記者会見で、オバマ大統領は、『米国はISISを封じ込めた(contained)』という発言をしていたのです。それを受けて、クリントン氏は、『封じ込める』のではなく、『壊滅すべき(defeat)だ』と主張し 大統領との距離を強調したのです。その一方で、サンダース氏は、前回のディベートでは、友好的な態度で臨みましたが、今回は反撃に転じたのです。それをメディアは、『口げんかをする』という意味で“brawl”という表現を使っています。そして彼は、『クリントン氏は、ウォール街の言いなりである(in the pocket of Wall Street)』とか、多額の選挙費用を、石油、ウォール街、軍事産業等から受け取っており、彼らが反対給付を求めてくるのは明らかだという疑問を呈したのです。しかし、サンダース氏は、抑制をきかし(hold back)、本気で喧嘩しようとしたわけではない(Sanders didn’t take off his gloves.)と、各種メデアは伝えております。さらに、クリントン氏は、パリの同時テロをを受けて、『選挙は大統領を選ぶだけでなく、陸海空軍の総司令官を選ぶのだ』ということを強調しておりました。テロは、今後も、大きな話題となるであろうことは明らかです。
Ted Cruz makes a big leap in Iowa polls:
来年の2月1日に、アイオワ州で最初に実施される、米国大統領選共和党予備選(Iowa Caucus)で、投票に行くと答えた共和党員を対象とするQuinnipiac Universityの世論調査によると、今まではトランプ氏に大きく水をあけられていた、テキサス州の上院議員で、共和党の大統領選候補者でもある、Ted Cruz氏が、Ben Carson氏、Mark Rubio氏、その他の候補者を抑えて、トランプ氏に僅差で迫る2位に浮上してきたということです。今まで先頭集団は、外部者(outsider)が占めてきたが、いよいよこれからは、外部者と内部者( insider) の直接対決が始まろうとしております。(続く)
筆:小林 義尚
著者略歴: 語学学校KOBY USAの校長。1987年に来米しMMUCに通訳として入社(6年間勤務)。早稲田大学第一商学部中退。立教大学経済学部卒業。働きながら、デトロイト大学大学院に学びMAとMBAを取得。ウェイン州立大学の経済学博士課程に進学すると同時に経済学部講師に就任。中途で病気の為退学。1993年に、コービィインターナショナルアカデミーを創立。2004年に第三者に経営権を譲渡。2012年にKOBY USA INCを設立。コービィランゲージセンターとコービィラーニングセンターの運営に従事。在米経験は約30年に亘る。