
「カレーパンとシャケ弁当がいいな!」
今回のNASCARフェニックス戦に行くにあたって、「何か持っていくものあります?」に対する、日本人唯一の現役NASCARドライバー尾形明紀選手からの返信。
昨年から尾形選手はデトロイト日本まつりに駆けつけてくれていて、すっかりノバイの日本食がお気に入り。ノバイに来ると必ずカレーパンやクリームパン、ときには弁当も買って帰途につくのが習慣になっている。
そこで友人と二人、カレーパン、お茶、そしてシャケ弁当をかかえて、3000キロ先のフェニックスにフライト。
ちょうど一年前、ここフェニックスで尾形選手はNASCARのメジャーリーグである
Nationalシリーズの一角、NASCAR CAMPING WORLD TRUCK Series にデビューを果たした。今年前半は出場機会に恵まれなかったが後半から参戦。すでにニューハンプシャー、ラスベガスを完走。今日は昨年に続き二回目のフェニックス参戦である。
午前中の予選。轟音が響き渡り、一台ずつコースに。現在ランキングトップ、新進気鋭の若手、#4エリック・ジョーンズ。今回がデビュー戦となる若干17歳、#9ウィリアム・バイロン。四肢にハンディを持ちながらもダートでは一流の成績を収める#31リコ・アブリュー。そして2年連続王者、#88マット・クラフトン。
そこに見慣れたENEOSカラーの#63、尾形選手がピットアウト。まずは1周目、なかなかの速度で目の前のターン1をクリアしていく。いい感じだ。
ところが2周目、アクセルペダルにトラブル。これ以上走れず、決勝は最下位からのスタートとなった。
尾形選手は比較的明るい表情。友人の「全部抜いちゃいましょう!」に苦笑いしながら「がんばります!」
ランチを終えて再びガレージを訪ねると、トレーラーの上から尾形選手が手招き。
ハシゴを上ると、そこではレースウェイの全周を見渡すことができた。天気にも恵まれ実に爽快。尾形選手が笑みを浮かべながら指さした足元にはノバイから持ってきたシャケ弁当。レースウェイのど真ん中、青空の下で食べるシャケ弁当は最高!と笑ってみせた。時速230キロオーバーのバトルが始まる前ののどかなひととき・・・。
夕方の決勝。セレモニーまでの間、ドライバーはインタビューやファンの声援に応えたりと忙しい。隣に並ぶ#74ジョーダン・アンダーソン。尾形選手を撮影するテレビカメラの後ろから笑わせようとおどける。「調子はどう?」と尋ねると「アキノリには負けない!」
明るい!これがNASCAR。
Start Your Engines!
32台が轟音とともにコースイン、低速で隊列を整えていく。このスタート前の数周というのは何度観ても緊張する。尾形選手が出ていないレースは純粋にワクワクする高揚感だが今日は違う。デトロイト地区でサポートさせてもらうようになってから、NASCARをなんとも身近に感じるようになった。デトロイトでテレビで観ている方々も同じだと思う。期待と不安が交錯する何物にも代えがたい経験だ。
グリーンフラッグが振り下ろされスタート!32台が一斉にエンジン全開、大気がビリビリと震え、耳が受け取れる音量を超える!
いきなりターン1への飛び込みで4台を抜き去り28位。さらに戻ってきた2周目にはもう1台かわして27位。見事!
6周目、3台がクラッシュ。新人のバイロンが巻き込まれた。練習ではTop10に入るスピードを見せていたがさっそく洗礼を受ける。
さらに44周目にはアブリューもクラッシュ。2人とも厳しいトラックシリーズデビューとなった。
そうした数々のアクシデントをすべてかわしながら、バトルを繰り広げる尾形選手。ターン1で若干アウトにはらみ気味になるも、ターン3は誰よりも速く、ここで差を詰める。1周30秒そこそこ。息つく暇が無い手に汗握る展開。
レース中盤、20位まで順位を上げてきた。実は正直、今回のクルマではこのあたりが限界かと思っていた。しかしスタート前、尾形選手と話したとき、
「トップ20、行きますか?」
「冗談でしょ?15は狙う。」
その言葉通り、クルマの性能を超えて攻めるつもりなのだ。
残り50周を切ったターン3の飛び込み、3列、いや4列??ムリだ、スペースがない!
一番アウトに居た#63が壁にヒット、ダメージを負った。
観ていたメインスタンドから慌ててピットに向かう。ノバイでテレビを見ていた別の友人から電話が入り、「尾形さん、走ってないよ!」
そこでピットではなくガレージに戻るとクルマが。トレーラーの中では尾形選手とクルーが難しい表情で何か話している。すでにレースは終盤、ここで終わりか・・・。
我々には会いたくないだろうな、とメールだけ打って帰ろうとしたら尾形選手が顔を出してくれた。
「3ワイドになってるところで、後ろからぶつけられて。あそこはスピードが出てるから、一瞬でカベに弾き飛ばされる。」
「サスペンションが壊れた。直してもすぐにゴールだから。」
「残念!仕方ないね!」
笑顔を浮かべてはいるが・・・。
これが2015年シーズン最後のレース。2016年シーズンはぜひとも勝利、ノバイで日本食を楽しみながら祝杯を上げられれば、と願いながらミシガンへの帰途についた。