
表題、日本人の自殺をテーマにした3日にわたるイベントが2015年2月にミシガン大学日本研究センターの特別イベントとして、在デトロイト日本国総領事館ならびにデトロイト日本商工会の協賛で開催された。
「一万人を救う戦い」とはギョッとさせられるが、日本人の自殺者は毎年約3万人にのぼり、それは米国の2倍近い率だという。20~44歳の男性、15~34歳の女性の死因の1位となっている。今回のイベントは、自殺問題についての理解を広める目的で、医学や看護学、そして文学や人類学など様々な切り口での講演やプレゼンテーション、映画上映、討論フォーラムを組み合わせたプログラムが企画された。いずれも一般公開で、日本人に携わる機会のある医療関係者の参加も多数見られた。
イベント初日は「切腹の向こうに~日本における自殺問題の背景を学際的に読み解く」とのテーマで、前半は文学、人類学、看護学、医学の4名の専門家による短いプレゼンテーション、後半は医療関係者によるセミナーとパネルディスカッションが行われた。
人類学研究者の視点から挙げられた日本独特な文化や慣習として、侍の切腹や特攻隊など自殺や自決に対して肯定的あるいは善しとする思想が歴史的に存在し、それは近現代でも経営者などの引責自殺に通じていること、また、情死心中、親による無理心中が法的に(一定の時期を除き)厳しく禁止されず、子殺しでありながら同情が集まることさえあるなどの指摘があった。母子心中の背景にある女性の地位や保護システムといった社会問題にも言及した。
文学研究者は「日本の小説を理解する為には“自殺”を知ることが大切」と切り出した。日本の小説のストーリーには自殺が多く、小説家自身の自殺または自殺志向も多くみられ、自殺を「美しい」と捉えていることもあるとの傾向を解説した。
看護の専門家は自殺原因の日本事情を解説。男性においては失業という昨今増加した社会問題に絡んでおり、女性に関してはうつ病がかなりの割合を占めており、(当地で)うつの女性が抱えている症状のレベルは驚くべきものであると語った。日本人が「うつは弱さのせい」と捉える傾向や、自立のための十分なスキルを持たないことが多い点などを挙げた。Sharing(聴いてもらうこと)で楽になるが、立ち入るほどの間柄かどうかを吟味し関係に距離を置くといった日本的な考えなど、心の痛みを軽減しにくい背景に触れた。
4人目にプレゼンテーションを行なった佐野医師は、急激に増加した日本の“新しい自殺”について、男性の自殺原因の多くは経済問題であり、女性は健康問題であると解説。特に、20代の就職失敗による自殺はこの3年で2.7倍の増加にあり、心の脆さを懸念。生活の概要として、家族関係、都会の核家族化と地方の過疎、老人の孤独などの現状、また、小中学校で同じ体操着や制服を着る例を挙げ、違うことを否定される傾向、また、いじめ問題、一回の試験で人生が左右される大学入試などについても説明した。「こうあるべき」とのルールや期待レベルと、それに適応できないことが苦しみを生んでいることを示唆した。
4人四様に、日本人の自殺しやすさの背景を示すプレゼンテーションであった。質疑応答の中で、米人が、「友人をこのイベントに誘ったが、暗い話題は避けたい。自分は大丈夫だから参加しない」と返答されたと語った。傾向を知ってこそ対策できること=知識を得る大切さが強調された。
2日目と3日目のイベントは同様の内容で2日目は英語、3日目は日本で実施され、自殺防止に関する講義、ドキュメンタリー映画「自殺者一万人を救う戦い」(日本語音声・英語字幕付き)上映の後、医療専門家4名による質疑応答の時間が持たれた。
危機状態にある人を助ける方法 講演者: Alan R. Teo, M.D., M.S.
講義は、精神科医および研究者としての訓練を受けて自殺防止の活動もしているテオ医師が、自殺防止の声掛けのスキルを学ぶことを主な目標に掲げ、プレゼンテーションを行った。後半には聴講者全員によるロールプレイ(役に分かれ対話練習)も取り入れられた。
研究によると多くの場合、人は家族や親しい友人といった大切な人から励まされた後に、メンタルヘルスの治療を受ける傾向があることが報告されており、これは日本人を含むアジア系の人々の間では特に顕著であるとのこと。その人にとって大切な人が治療を勧めることで、相談先・ケアを探そうとする可能性が高い。自殺の疑いを話に持ち出すことが難しいが、「どのように質問するかよりも、質問をすること自体が重要」と行動することを奨励した。以下、講義のポイントを列挙。
自殺のリスクを示す基本的な兆候3つ
- 言葉・・・「死んだほうがましだ」「家族にとって私がいないほうがいい。」など
- 態度・行動・・・自殺の方法を調べる。うつ病、またはアルコール/薬物乱用
- 状況的要因・・・大切な関係の喪失(例:離婚)、破産または失業
質問:どのように自殺に関する質問をするか
① より間接的に尋ねるやり方
「自分を傷つけることを考えていますか? 」「最近不幸せですか?」など
② 直接的な尋ね方
「最近あまりにも不幸せで、自ら人生を終わらせることを考えていますか? 」など
③ してはいけない尋ね方
「自殺はばかげた考えです。まさかあなたは、自殺を考えていないでしょうね。」など。
打ち明けることが出来なくなる。
☆プライベートな場で個人的に話す。じっくりと時間をかける。
説得:効果的に説得するための2大要素
○ その人と良好な関係にあること
○ その人の話をよく聞くこと
*言い争わない。どのような形でもいいので希望を与える。
言い方:「あなたが助けを得られるように、手伝わせてくれますか? 」など。
紹介:専門家の相談先を相手に紹介する
GOOD: 相談先・紹介先の情報を渡す
BETTER: 助けを受け入れるよう約束してもらい、その段取りをするのを手伝う
BEST: 直接助けを得ることができる人または場所に連れて行く
相談先
◇自殺予防ライフライン(全米ホットライン:Suicide Prevention Lifeline)
1-800-273-8255 *本人ではなく、家族や友人による相談でもよい。
◇いのちの電話(日本全国)日本語のみ
当地の病院または診療所
◇日本家庭医療プログラム Japanese Family Health Program
日本語ライン(734) 647-6523 英語または日本語
◇ミシガン大学病院 精神科救急サービス
(University of Michigan Health System Psychiatric Emergency Services)
緊急電話相談サービス(24時間365日体制)
734-936-5900 英語のみ(医療通訳が利用できる)