9月は中秋の名月とスーパームーンで幕を閉じましたが、米国在住の皆さんも9月最後の日曜日と月曜日は所により曇りの天気でしたが、しばし忙しさを忘れて連夜のお月見が出来ましたでしょうか?日本でも窓際にススキと月見団子を飾って月を愛でる慣習は都会では過去のものになりつつありますが、米国では尚更縁遠いですね。畳の部屋や飾り盆がないですし、月見団子の代わりにドーナツホールを飾るわけにもいきません。(下戸の私は月見酒の楽しみもありません。)

さて、スポーツ界では、米男子ゴルフ、フェデックス・カップのプレイオフ最終戦の結果がこの原稿作成時には出ていませんでしたが、果たして誰が頂点を極めたでしょうか?テニスではUSオープンでまさかの初戦敗退を喫した錦織選手、直後はかなり落ち込んでモチベーションが下がっていたそうですが、国別団体対抗戦のデビスカップでは、気持ちを切り替えてコロンビア相手のワールドグループ入れ替え戦のシングルスで2勝し残留に貢献。来年3月の本戦1回戦ではアンディー・マレー選手を筆頭とする英国チームとの対戦が決まりました。今期37年振りに決勝に進出した難敵ですが、錦織選手がシングルスでマレー選手に勝てばチャンスありです。当面は年内残りのトーナメントで好成績を上げ、年間ポイントランキング8位以内をキープして、昨年初出場したロンドンのATPツアーファイナル再出場資格を得ることです。もうひと踏ん張りです。ケッパレ!

それでは、今回は『北風と太陽』というテーマで筆を進めます。

『北風と太陽』、皆さんも子供の頃に絵本で読んだことがおありではないかと思いますが、有名なイソップ寓話の一つです。あらすじは、北風と太陽が通りがかりの旅人の外套をどちらが脱がすことが出来るかを競うことになり、北風はビュービューと寒風を旅人に吹きつけて力ずくで外套を吹き飛ばそうとしますが、旅人は寒さに耐えるために外套をしっかりとたくし込んで決して離そうとしません。次に太陽がポカポカと暖かい陽射しを旅人に浴びせると、汗を掻くほど体が温かくなった旅人はためらい無く外套を脱ぎ去った、という話です。人を動かすには力ずくで押し付けたり、冷たく厳しい態度で接するのではなく、優しく寛容な態度で相手が無理なく納得出来るように説明・説得することが大事、という教訓的たとえ話として使われます。

何でこんなたとえ話を持ち出したかと言いますと、つい先日9月の下旬に一週間ほど来米したフランシス(日本ではフランシスコが一般的?)ローマ法王の人柄がまるで太陽のようだと感じたからです。

9月22日にキューバから空路ワシントンD.C.入りし、ニューヨーク、フィラデルフィアを歴訪後9月27日に帰路に付くまで、マスメディアの報道は法王関連のニュース一色でした。ほぼ同じ時期に米国入りした中国の習国家主席がやはり初めての来米にも拘らずほとんどニュースにならなかったのとは対照的でしたが、たとえ話と同様に所詮北風は太陽には勝てない展開でしょうか?(笑)

特にニュース専門チャンネルのCNNでは文字通り朝から晩まで現場からの実況中継と録画を流しながらのキャスターやゲストのコメント番組で終始したと言っても過言ではないほどでした。私は普段ニュースやスポーツ番組、特別番組以外は余りテレビを観ないのですが、現法王の初来米、ホワイトハウス表敬訪問、各訪問先で数回のミサ実施、史上初の米国議会上下院合同セッションでのスピーチ、ホームレスの人達とのランチ、国連でのスピーチ、イーストハーレムの大半の生徒が移民の学校訪問など盛り沢山のスケジュールに興味津々で、ついつい観る時間が長くなってしまいました。

アルゼンチン生まれの法王は、母国語であるスペイン語と来米に備えて特訓を重ねた不慣れな英語の両方でお祈りとスピーチをされました。私はスペイン語は出来ないので生の英語と、同時通訳の英語の部分だけ聴き入っていましたが、カトリック教徒でもキリスト教徒でもない(余り信心深いとは言えない仏教徒ですが)私や一般の人達でも平易で分かり易い言葉を使ったスピーチでした。出来る限り民衆と共に過ごす、民衆の近くに行って言葉をかける、手を握る、特に恵まれない境遇の人々や子供達の顔や頭に手を当てるなど、常に慈愛に満ちた優しい言動で人々に接する『庶民の法王』と呼ばれる所以ですね。

また、法王の生の声は聞き取り易く温かみのあるもので、ゆっくりと優しく語り掛けるその姿が正に太陽だと私に感じさせることになったのだと思います。集まった数多くの聴衆も老若男女、人種、信ずる宗教や所属政党、貧富の差に拘らず皆ただ静かに聴き入って、それぞれの身分や立場、個人の損得などを一切忘れて素直な一人ひとりの人間に戻ったような感じがしました。上院議長である(今はあったと言うべきでしょうか)ベイナー氏が議会でのスピーチ後バルコニーに出て聴衆に挨拶した法王の横で感極まって涙ぐんでいたのが印象的でした。翌日に突然議長退任と議員辞職をアナウンスした彼の心には様々な思いと感情が湧き上がったものと想像しますが、きっと法王のスピーチを聞いて素直に自分を見つめ直し、議会と所属政党である共和党、更に家族と国民のためにどうするのがベストかと自問自答した結果、その結論に達したのではないかと思います。

退任・辞職の正式発表記者会見の席上では、議会での法王のスピーチ後二人だけになって話した内容と法王の優しい仕草を語るエピソードも披露され、その時も彼は涙ぐんでいました。「鬼の目にも涙」ではないですが、それは党内外でずっと強面で通して来たベイナー議長が素直なジョン・ベイナー個人に戻った心静かで厳かな瞬間だったのではないでしょうか?

法王のお膝元であるバチカンや欧州内では、尊厳と規律を重んじる一部の伝統的なカトリックの重鎮や古手メンバーから異端視されているとも言われていますが、我々と同じ生身の人間臭さを漂わせながら尊厳を保ち、人々に敬慕の念を抱かせる愛すべき偉大な法王であると感じたのは私だけではないと思います。

現在78歳、この12月で79歳になられる法王ですが、移動と数々のイベントの連続にも疲れを見せない精力的な活動を続けられ、バチカンに無事戻られた後に疲れが出ませんように。これからも『庶民の法王』と太陽であり続けられますように。法王が望まれるように、ささやかながら私もお祈り申し上げます。

執筆者紹介:小久保陽三

Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。