
日本の里山で毎年実施している日本語・日本文化体験学習プログラム「サマーキャンプ in ぎふ」(米日教育交流協議会主催)は10年目の実施を無事終了しました。7月3日から7月13日に行った第1期は6人、7月22日から28日に行った第2期には19人が参加し、10年間の総参加者数はのべ200人を超えました。その多くがアメリカ在住者で、カリフォルニア州が最も多く、次いでワシントン州、テキサス州、ニュージャージー州などが続きます。また、アメリカ以外の参加者も増加し、カナダ、メキシコ、イギリス、アイルランド、ベルギー、トルコ、タイ、中国、香港、台湾などと広がりを見せています。日本のインターナショナルスクールやアメリカンスクールに通学している子どもの参加もありました。
ここでは、今年のサマーキャンプで感じたこととこれまで10年間実施してきた中で感じたことなどを述べますが、その前に「サマーキャンプ in ぎふ2015」の概要を記します。
目的―海外に暮らし日本語学習中の子どもが日本の自然、文化、歴史に触れ、地元の人々と交流することによって日本語・日本文化を心と体で体感し、積極的に日本語を学習し、日本の生活習慣を習得しようとする意欲を芽生えさせる。
主な体験内容―日本の人々との交流、古民家の生活体験、農作業体験、ものつくり・食つくり体験、自然の中での遊び体験、寺院での座禅体験、地場産業や史跡の見学、地元民家でのホームステイ *第1期では学校体験、第2期ではホストファミリーとの川下り体験もある。
活動拠点―岐阜県山県(やまがた)市内の里山と呼ばれる山間部
参加対象―海外に暮らす日本語学習中の小学4~6年生、中学生、高校生
*第1期は中高校生、第2期は小中学生対象
実施期間
第1期:7月3日から13日(10泊11日)、第2期:7月22日から28日(6泊7日)
丁寧な日本語で話す指導も実践
第1期の参加者は6人で内訳は以下の通りです。高校生2人、中学生4人。男子4人、女子2人。アメリカ在住者3人、カナダ、香港、ベルギーが各1人。いずれの子どもたちも日本語での会話は問題なく、参加者同士でも日本語で会話していたことには驚きました。これまでは、講師やスタッフには日本語で話しますが、食事中や自由時間には英語が飛び交いましたし、活動中でも英語での補助が必要な場合もありました。今回参加者した6人は、補習校での学習経験があり、4人は現在も継続していること、また、6人とも家庭でも母親とは日本語で会話していること、さらに英語が第一言語でない参加者がいたため共通言語が日本語であったことも影響しています。参加者にとっては第二言語の日本語で会話をすることは窮屈ではあったかもしれませんが、日本語力の向上に役立ったと思います。
このように日本語での会話は問題なかったのですが、丁寧語は使えない参加者が目立ちましたので、キャンプ中は目上の人に対して丁寧な言葉で話すことを指導しました。特に、「お願いします」
「ありがとうございました」という丁寧語を使うこと、目上の人には「○○さん」と敬称をつけることを習慣づけるようにしました。このような言葉を遣うことは面倒です。しかし、日本の学校や職場では一つ年上でも先輩となり、丁寧な言葉遣いや敬称で呼ぶことが必要なので、将来、日本で暮らしたり、日本企業で働いたりする時に役に立つはずです。サマーキャンプでの経験を通じて実践的な日本語力を身につけて、グローバルな社会で活躍する人材に育ってほしいです。
英語での手助けが必要な子どもも
第2期の参加者は19人で内訳は以下の通りです。中学生7人、小学生12人。男子14人、女子5人。アメリカ在住者17人、香港、タイが各1人。
男子小学生の比率が高く、女子も含めて元気がよい子どもが多く、いつも活気に満ちていました。兄弟姉妹での参加は5組、過去に参加したことのあるリピーターは5人なので、ほとんどの子どもたちが初対面だったのに、集合場所から活動拠点に移動するバスの中ですでに打ち解けてしまい、とてもにぎやかだったのが印象的でした。
一方、第1期に比べると日本語の会話力が低い子どもが目立ち、3分の2が日本語での会話が難しい子どもでした。そのため、子どもたちの会話では英語が飛び交いましたし、日本語での説明が聞き取れず、何をしていいのかわからなかったり、説明中に英語で無駄話をしたりという子どももいました。そういう子どもたちは、日本語力の高い参加者に英語で手助けをしてもらったり、見様見真似で活動したりしていましたが、なかなか指示が徹底しないこともありました。したがって、当キャンプでは日本語のみを使用していますが、川遊びの注意のような重要な説明に限り英語で通訳をすることにしました。
集団生活が日本語力の向上につながる
ここで、子どもたちの日本語力について過去10年間の参加者の様子を振り返ってみると、日本語力の低い子どもは家庭で日本語を使用する頻度が低い傾向にあります。母親と日本語で会話している子どもは比較的円滑に会話ができますが、英語も併用している場合には会話力が落ちます。一方、父親と日本語で会話していても、母親とは英語のみの場合には会話力は高くはない子どもが目立ちます。また、両親と日本語で会話している子どもの会話力は比較的高いですが、兄弟姉妹では英語で会話している場合は日本語会話力が落ちます。ただし、一人っ子の場合はそうでもないケースもあります。
日本語会話力の高い子どもの状況を見ると、学齢期に日本に在住していたとか、補習校に通学している(していた)というように、日本語で学習した経験のあるケースが目立ちます。一方で、日本語の個人レッスンを受けているようなケースでは、日本語会話力はそれほど高くはありません。つまり、日本語を話す子どもたちとの集団生活が会話力の向上につながっているということです。
「サマーキャンプ in ぎふ」の成果
「サマーキャンプ in ぎふ」に子どもを参加させる保護者の思いは様々ですが、多くの方々は、少しでも日本語力が向上してほしいと願っています。子どもにとっては、日本語以外の第一言語ができれば、自国において何不自由なく暮らせるので、日本語を学習する意義がわからないということはよくあることです。当キャンプの参加者の中にも、そういう子どもが多数います。しかし、多くの子どもは、キャンプに参加して日本語でしか会話ができない環境で過ごしたことによって、日本語ができたほうがよいと感じるようです。また、自国に戻った後も、日本語の本(漫画が多いようです)を読んだり、日本語のテレビやビデオを観たりするようになったとか、家庭でも日本語で話す頻度が高くなったというご報告をいただくこともあります。
また、「サマーキャンプ in ぎふ」には、複数回参加する子どもも目立つのですが、2年前や3年前と比べると、日本語力が伸びていると感じる子どももいます。こういう子どもはキャンプ終了後に日本語の学習に力を入れています。このように日本語学習のモチベーションになることが、「サマーキャンプ in ぎふ」の意義だと感じています。このためには、子どもたちが楽しく活動できることが重要です。これからも子ども目線での活動を実践できるよう尽力したいと考えています。 日本の里山で毎年実施している日本語・日本文化体験学習プログラム「サマーキャンプ in ぎふ」(米日教育交流協議会主催)は10年目の実施を無事終了しました。7月3日から7月13日に行った第1期は6人、7月22日から28日に行った第2期には19人が参加し、10年間の総参加者数はのべ200人を超えました。その多くがアメリカ在住者で、カリフォルニア州が最も多く、次いでワシントン州、テキサス州、ニュージャージー州などが続きます。また、アメリカ以外の参加者も増加し、カナダ、メキシコ、イギリス、アイルランド、ベルギー、トルコ、タイ、中国、香港、台湾などと広がりを見せています。日本のインターナショナルスクールやアメリカンスクールに通学している子どもの参加もありました。
ここでは、今年のサマーキャンプで感じたこととこれまで10年間実施してきた中で感じたことなどを述べますが、その前に「サマーキャンプ in ぎふ2015」の概要を記します。
目的―海外に暮らし日本語学習中の子どもが日本の自然、文化、歴史に触れ、地元の人々と交流することによって日本語・日本文化を心と体で体感し、積極的に日本語を学習し、日本の生活習慣を習得しようとする意欲を芽生えさせる。
主な体験内容―日本の人々との交流、古民家の生活体験、農作業体験、ものつくり・食つくり体験、自然の中での遊び体験、寺院での座禅体験、地場産業や史跡の見学、地元民家でのホームステイ *第1期では学校体験、第2期ではホストファミリーとの川下り体験もある。
活動拠点―岐阜県山県(やまがた)市内の里山と呼ばれる山間部
参加対象―海外に暮らす日本語学習中の小学4~6年生、中学生、高校生
*第1期は中高校生、第2期は小中学生対象
実施期間
第1期:7月3日から13日(10泊11日)、第2期:7月22日から28日(6泊7日)
丁寧な日本語で話す指導も実践
第1期の参加者は6人で内訳は以下の通りです。高校生2人、中学生4人。男子4人、女子2人。アメリカ在住者3人、カナダ、香港、ベルギーが各1人。いずれの子どもたちも日本語での会話は問題なく、参加者同士でも日本語で会話していたことには驚きました。これまでは、講師やスタッフには日本語で話しますが、食事中や自由時間には英語が飛び交いましたし、活動中でも英語での補助が必要な場合もありました。今回参加者した6人は、補習校での学習経験があり、4人は現在も継続していること、また、6人とも家庭でも母親とは日本語で会話していること、さらに英語が第一言語でない参加者がいたため共通言語が日本語であったことも影響しています。参加者にとっては第二言語の日本語で会話をすることは窮屈ではあったかもしれませんが、日本語力の向上に役立ったと思います。
このように日本語での会話は問題なかったのですが、丁寧語は使えない参加者が目立ちましたので、キャンプ中は目上の人に対して丁寧な言葉で話すことを指導しました。特に、「お願いします」
「ありがとうございました」という丁寧語を使うこと、目上の人には「○○さん」と敬称をつけることを習慣づけるようにしました。このような言葉を遣うことは面倒です。しかし、日本の学校や職場では一つ年上でも先輩となり、丁寧な言葉遣いや敬称で呼ぶことが必要なので、将来、日本で暮らしたり、日本企業で働いたりする時に役に立つはずです。サマーキャンプでの経験を通じて実践的な日本語力を身につけて、グローバルな社会で活躍する人材に育ってほしいです。
英語での手助けが必要な子どもも
第2期の参加者は19人で内訳は以下の通りです。中学生7人、小学生12人。男子14人、女子5人。アメリカ在住者17人、香港、タイが各1人。
男子小学生の比率が高く、女子も含めて元気がよい子どもが多く、いつも活気に満ちていました。兄弟姉妹での参加は5組、過去に参加したことのあるリピーターは5人なので、ほとんどの子どもたちが初対面だったのに、集合場所から活動拠点に移動するバスの中ですでに打ち解けてしまい、とてもにぎやかだったのが印象的でした。
一方、第1期に比べると日本語の会話力が低い子どもが目立ち、3分の2が日本語での会話が難しい子どもでした。そのため、子どもたちの会話では英語が飛び交いましたし、日本語での説明が聞き取れず、何をしていいのかわからなかったり、説明中に英語で無駄話をしたりという子どももいました。そういう子どもたちは、日本語力の高い参加者に英語で手助けをしてもらったり、見様見真似で活動したりしていましたが、なかなか指示が徹底しないこともありました。したがって、当キャンプでは日本語のみを使用していますが、川遊びの注意のような重要な説明に限り英語で通訳をすることにしました。
集団生活が日本語力の向上につながる
ここで、子どもたちの日本語力について過去10年間の参加者の様子を振り返ってみると、日本語力の低い子どもは家庭で日本語を使用する頻度が低い傾向にあります。母親と日本語で会話している子どもは比較的円滑に会話ができますが、英語も併用している場合には会話力が落ちます。一方、父親と日本語で会話していても、母親とは英語のみの場合には会話力は高くはない子どもが目立ちます。また、両親と日本語で会話している子どもの会話力は比較的高いですが、兄弟姉妹では英語で会話している場合は日本語会話力が落ちます。ただし、一人っ子の場合はそうでもないケースもあります。
日本語会話力の高い子どもの状況を見ると、学齢期に日本に在住していたとか、補習校に通学している(していた)というように、日本語で学習した経験のあるケースが目立ちます。一方で、日本語の個人レッスンを受けているようなケースでは、日本語会話力はそれほど高くはありません。つまり、日本語を話す子どもたちとの集団生活が会話力の向上につながっているということです。
「サマーキャンプ in ぎふ」の成果
「サマーキャンプ in ぎふ」に子どもを参加させる保護者の思いは様々ですが、多くの方々は、少しでも日本語力が向上してほしいと願っています。子どもにとっては、日本語以外の第一言語ができれば、自国において何不自由なく暮らせるので、日本語を学習する意義がわからないということはよくあることです。当キャンプの参加者の中にも、そういう子どもが多数います。しかし、多くの子どもは、キャンプに参加して日本語でしか会話ができない環境で過ごしたことによって、日本語ができたほうがよいと感じるようです。また、自国に戻った後も、日本語の本(漫画が多いようです)を読んだり、日本語のテレビやビデオを観たりするようになったとか、家庭でも日本語で話す頻度が高くなったというご報告をいただくこともあります。
また、「サマーキャンプ in ぎふ」には、複数回参加する子どもも目立つのですが、2年前や3年前と比べると、日本語力が伸びていると感じる子どももいます。こういう子どもはキャンプ終了後に日本語の学習に力を入れています。このように日本語学習のモチベーションになることが、「サマーキャンプ in ぎふ」の意義だと感じています。このためには、子どもたちが楽しく活動できることが重要です。これからも子ども目線での活動を実践できるよう尽力したいと考えています。