
「マイヤー・ガーデン」と聞き、スーパーマーケットのマイヤーを連想する方も多いだろう。その名の通り、Meijerの創立者であるフレデリック・マイヤー氏がグランドラピッズに築いたマイヤー・ガーデン(正式名:Frederik Meijer Gardens & Sculpture Park)の中に、この度日本庭園を造り、先日、6月13日の一般公開に先駆けて、オープニング・セレモニーがあった。そこで、その庭園のデザインと建設を請け負ったクリス・インターナショナル社(オレゴン州, 代表:栗栖宝一氏) で、同氏の右腕アシスタントとして働く木幡貴光さんにお話を伺う事ができた。この日本庭園、もともとは、お茶好きな夫人のために「茶室を作ってあげたい」というマイヤー氏の想いから始まり、「茶室だけあるのも変なので、それに合う庭園も作ろう」という所にまで発展した壮大なプロジェクトなのである。デザインに2年、建設に3年、オープンまでに延べ5年という歳月がかかった。残念ながらマイヤー氏は、完成を見る事なく他界してしまうのだが、彼のその熱い想いは今年の6月に形となり、盛大なオープニングとなった。
そもそもミシガンに日本庭園を造ろうという事自体、無謀と言えば無謀である。日本庭園に欠かす事のできない桜や紅葉、杉、つつじが、ミシガンの厳しい冬を無事に越せるのか。木幡氏によると、5 年の間に、オレゴン州より送られてきた植物のうち、3分の1が枯れてしまったという。また、トラックで他州から送られてきた植物の中に、1株、ミシガンへは輸入禁止の植物が混在しており、その1株のために、トラックに乗っていた全ての植物を埋める結果となった大参事もあった。「あれは可哀想な事をした」と木幡氏は肩を落とす。
また、外国人にはなかなか理解されない「苔」の魅力。飛び石の隙間に、きれいに敷かれた深緑色の小さな苔たち。敷いても、敷いても、人に踏まれてしまう。「わびさび」を理解してもらうのは、なかなか難しいようで・・・。でも、竹の隙間を通るそよ風と、滝から流れる水の音に癒されるのは、日本人だけではきっとない。来場されていた外国人の方からは、「日本庭園を多く見ているが、ここは素晴らしい」と大絶賛のお言葉をもらった。木幡氏がオレゴン州のポートランド日本庭園、フロリダ州のモリカミ日本庭園にも携わっていると知り、尊敬の眼差しを向ける。その方からは、「外国人による、日本庭園ランキングの有名なサイトがある」と聞き、こちらのRichard and Helen DeVos Japanese Gardenは果たして何位にランキングされるのか、今から楽しみである。
庭園の中には、よく見ると、言葉が彫られた岩があちらこちらに配置されている。それらの岩は、アーティストの好きな言葉が、職人達の手作業により、こつこつと刻まれたものである。手作業なので、1日に数文字しか掘る事ができない。まさに魂を込めた作品である。木幡氏によると、日差しや寒さから身を守るために、人一人が入るくらいのテントの中での作業だったらしい。それを知らなかった頃、「なんでこんな所にテントが?」と思いテントを覗き込んだら、作業中の石堀職人と目が合い、「どうも」と挨拶をしたという笑い話付き。岩に刻まれた想い。それがどんな想いなのか、ひとつひとつ岩を探してみるのも面白いかもしれない。
多くの苦労を乗り越え、やっと完成した日本庭園。日本から輸入した瓦は、職人が作り上げた真っ白で美しい枯山水を素敵に彩っている。日本から呼び寄せた25名の職人さん達、酒好きが多かったらしく、当時は小さな日本人村さながらの賑わいだったとか。禅庭園の「静」を生み出す職人からは想像しにくい光景かもしれないが、毎夜毎夜楽しまれたようで。ミシガンの良い思い出を持ち帰ってくれた事を祈るのみ。因みに、こちらの禅庭園に展示されている盆栽コーナーは、「盆栽、盆栽が置かれている台や床の石を敷き詰めた箇所を合わせると、この庭園の中で一番お金がかかっている!と言っても過言ではない」と木幡氏は笑う。お手を触れないように気を付けましょう。
最後に、マイヤー氏の夫人への想いが感じられるエピソードがある。こちらのお茶室、実は通常の間より、畳部分の床が高く、それを囲むように広いスペースが取られている。それは、すでに車イスを使用している夫人が車イスに座ったままお点前を見学できるよう配慮されたデザインであるという事。お友達と一緒にお茶を楽しんでいる夫人の姿を思い浮かべながら、茶室を見るのも楽しいかもしれない。夫人の名が付けられた美しい池には蓮の葉が静かに浮かんでいる。
文/写真:長瀬かの
Frederik Meijer Gardens & Sculpture Park
【公式サイト】http://www.meijergardens.org/
【住所】1000 East Beltline Ave NE, Grand Rapids, MI
特別展 Splendors of Shiga
マイヤー・ガーデンのギャラリーで、8 月1 6日まで
『滋賀特別展~珠玉の美~』を開催中。古くは8世紀から現代のものまで、ミシガン州の姉妹友好県である滋賀県の仏像、絵画、陶器等の美術品や文化財、6 0 点以上を集め、冬、春、夏の3期に分け展示している。信楽焼を始め、掛け軸、着物などを通して、滋賀の美や景色、暮らしを紹介するとともに、日本の文化を紹介している。滋賀の歴史、地理を紹介するビデオもある。
「マイヤー・ガーデン」と聞き、スーパーマーケットのマイヤーを連想する方も多いだろう。その名の通り、Meijerの創立者であるフレデリック・マイヤー氏がグランドラピッズに築いたマイヤー・ガーデン(正式名:Frederik Meijer Gardens & Sculpture Park)の中に、この度日本庭園を造り、先日、6月13日の一般公開に先駆けて、オープニング・セレモニーがあった。そこで、その庭園のデザインと建設を請け負ったクリス・インターナショナル社(オレゴン州, 代表:栗栖宝一氏) で、同氏の右腕アシスタントとして働く木幡貴光さんにお話を伺う事ができた。この日本庭園、もともとは、お茶好きな夫人のために「茶室を作ってあげたい」というマイヤー氏の想いから始まり、「茶室だけあるのも変なので、それに合う庭園も作ろう」という所にまで発展した壮大なプロジェクトなのである。デザインに2年、建設に3年、オープンまでに延べ5年という歳月がかかった。残念ながらマイヤー氏は、完成を見る事なく他界してしまうのだが、彼のその熱い想いは今年の6月に形となり、盛大なオープニングとなった。
そもそもミシガンに日本庭園を造ろうという事自体、無謀と言えば無謀である。日本庭園に欠かす事のできない桜や紅葉、杉、つつじが、ミシガンの厳しい冬を無事に越せるのか。木幡氏によると、5 年の間に、オレゴン州より送られてきた植物のうち、3分の1が枯れてしまったという。また、トラックで他州から送られてきた植物の中に、1株、ミシガンへは輸入禁止の植物が混在しており、その1株のために、トラックに乗っていた全ての植物を埋める結果となった大参事もあった。「あれは可哀想な事をした」と木幡氏は肩を落とす。
また、外国人にはなかなか理解されない「苔」の魅力。飛び石の隙間に、きれいに敷かれた深緑色の小さな苔たち。敷いても、敷いても、人に踏まれてしまう。「わびさび」を理解してもらうのは、なかなか難しいようで・・・。でも、竹の隙間を通るそよ風と、滝から流れる水の音に癒されるのは、日本人だけではきっとない。来場されていた外国人の方からは、「日本庭園を多く見ているが、ここは素晴らしい」と大絶賛のお言葉をもらった。木幡氏がオレゴン州のポートランド日本庭園、フロリダ州のモリカミ日本庭園にも携わっていると知り、尊敬の眼差しを向ける。その方からは、「外国人による、日本庭園ランキングの有名なサイトがある」と聞き、こちらのRichard and Helen DeVos Japanese Gardenは果たして何位にランキングされるのか、今から楽しみである。
庭園の中には、よく見ると、言葉が彫られた岩があちらこちらに配置されている。それらの岩は、アーティストの好きな言葉が、職人達の手作業により、こつこつと刻まれたものである。手作業なので、1日に数文字しか掘る事ができない。まさに魂を込めた作品である。木幡氏によると、日差しや寒さから身を守るために、人一人が入るくらいのテントの中での作業だったらしい。それを知らなかった頃、「なんでこんな所にテントが?」と思いテントを覗き込んだら、作業中の石堀職人と目が合い、「どうも」と挨拶をしたという笑い話付き。岩に刻まれた想い。それがどんな想いなのか、ひとつひとつ岩を探してみるのも面白いかもしれない。
多くの苦労を乗り越え、やっと完成した日本庭園。日本から輸入した瓦は、職人が作り上げた真っ白で美しい枯山水を素敵に彩っている。日本から呼び寄せた25名の職人さん達、酒好きが多かったらしく、当時は小さな日本人村さながらの賑わいだったとか。禅庭園の「静」を生み出す職人からは想像しにくい光景かもしれないが、毎夜毎夜楽しまれたようで。ミシガンの良い思い出を持ち帰ってくれた事を祈るのみ。因みに、こちらの禅庭園に展示されている盆栽コーナーは、「盆栽、盆栽が置かれている台や床の石を敷き詰めた箇所を合わせると、この庭園の中で一番お金がかかっている!と言っても過言ではない」と木幡氏は笑う。お手を触れないように気を付けましょう。
最後に、マイヤー氏の夫人への想いが感じられるエピソードがある。こちらのお茶室、実は通常の間より、畳部分の床が高く、それを囲むように広いスペースが取られている。それは、すでに車イスを使用している夫人が車イスに座ったままお点前を見学できるよう配慮されたデザインであるという事。お友達と一緒にお茶を楽しんでいる夫人の姿を思い浮かべながら、茶室を見るのも楽しいかもしれない。夫人の名が付けられた美しい池には蓮の葉が静かに浮かんでいる。
文/写真:長瀬かの
Frederik Meijer Gardens & Sculpture Park
【公式サイト】http://www.meijergardens.org/
【住所】1000 East Beltline Ave NE, Grand Rapids, MI
特別展 Splendors of Shiga
マイヤー・ガーデンのギャラリーで、8 月1 6日まで
『滋賀特別展~珠玉の美~』を開催中。古くは8世紀から現代のものまで、ミシガン州の姉妹友好県である滋賀県の仏像、絵画、陶器等の美術品や文化財、6 0 点以上を集め、冬、春、夏の3期に分け展示している。信楽焼を始め、掛け軸、着物などを通して、滋賀の美や景色、暮らしを紹介するとともに、日本の文化を紹介している。滋賀の歴史、地理を紹介するビデオもある。