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~中島和子トロント大学名誉教授 特別インタビュー・デトロイトりんご会補習授業校での講演会を終えて~

「グローバル人材育成 — 海外に育つ子どもたちのために」

(聞き手:桶谷仁美、イースタンミシガン大学教授)

去る10月4日、デトロイトりんご会補習授業校において「グローバル人材育成とバイリンガル教育 — これからの補習授業校のあり方」と題して、現在トロント補習授業校高等部校長である、中島和子トロント大学名誉教授を講師に迎え、講演会が開催された。今回は、中島先生に紙面にもご登場いただき、日本政府が最近「グローバル人材育成」をさかんに提唱するなか、海外に育つ子どもたちのために、保護者や関係者ができることはどのようなことなのかを、グローバル人材育成およびバイリンガル教育の視点から語っていただいた。

桶谷:今日はお忙しい中をありがとうございます。さて、安倍内閣が3本の矢を提唱し、文科省では「グローバル人材育成」を押し進めていますが、先生は、将来に貢献する「グローバル人材」とは、どのような人のことをいうとお考えですか。

中島:そうですね。グローバル人材育成ということで、海外留学、留学生受入れ、国際バカロレアプログラムなどが奨励されていますね。英語教育も低年齢化が進んでいます。今後国際社会の一員として日本が貢献するためには、複数言語のコミュミュケーション力を備え、地域から地球規模までさまざまなグローカル*な課題について、異なった価値観を持った人たちと対等の立場で解決策を見出していかなければなりませんね。ですから、高い語学力に加えて、思考力、創造性、協調性、そしてリーダーシップが問われる時代です。

  トロント補習授業校の高等部校長に今年の4月から就任したのですが、補習校の実情を知れば知るほど、「現地校+補習校」という組み合わせの教育こそ、濃密な異文化、異言語体験であり、グローバル人材育成の最前線と言えると思うのです。日本育ち、日本で教育を受けた親との文化摩擦を毎日のように経験、現地校では日々米国育ちの教師や級友に囲まれて、その考え方や価値観を吸収します。そして土曜日には、同じような環境に育つ子どもたちといっしょに、年齢相応の教科学習を日本語でしているのです。このように、学齢期を通して2つの文化を体験した子どもたちこそ、グローバル人材の貴重な「たまご」と言えるのではないでしょうか。

  ただ補習校の目的は、帰国の際にスムーズに日本の学校に馴染むようにということが第1ですね。それはもちろんそのままにして、同時に第2の目的として、海外で育つ子どもたちを「グローバル人材」として育てることをしっかり教師も親も認識する必要があるのではないでしょうか。その意味で地元のデトロイトりんご会補習授業校が取り組んでいる「国際人財育成プロジェクト」(りんご会では、その重要性を考慮し人“財”と表記)は、先駆的な補習校のあり方と言えるでしょう。

  年に約250時間(年42回)しかない補習校で、第1と第2の目的を達成するのは困難なことですが、教科書中心の授業や練習問題に加えて、思考力、創造力、協調性を培うグループ活動や調べ学習、意見文発表など、グローバル人材育成を意識した取り組みを入れることによって、子どもたちがより生き生きと学習するようになるのではないかと思います。

桶谷:先生のおっしゃる「グローバル人材育成」ですが、特に海外で育つ子どもを持つ親たちは、このことをどのように受け止め,子育てする上でどのようなことに気をつけ、どのようなことを具体的にしていけばいいのでしょうか。先生もご子息を海外で立派に国際人に育てられたご経験をお持ちですので、それらの点を教えていただけますか。

中島:そうですね。英語が圧倒的に優勢な北米では、英語は育ちやすいコトバで、日本語は育ちにくいコトバです。ですから英語は子どもに任せても、日本語は親が意図的に使わないと5歳までに消えると言われます。「グローバル人材」の第1条件である、日・英バイリンガル育成には、どうしても家庭の努力が必要です。まず学校に上がる前が大事で、英語に触れさせながらも、しっかり日本語の基礎を作っておくことが肝要です。でも日本語を教えるのではありません。親がすべきことは、日本語で話しかけ、話し合い、(絵)本の読み聞かせをすることです。読み書きの基礎は4歳ごろから育ちます。絵本を通して文字に触れ、本が大好きな子どもにしておくと、読み書きまでできるバイリンガルの基礎づくりになります。

  以上は両親が日本人の家庭の場合ですが、子どもが現地の学校に通い始めて2年ぐらい経つと現地校に根を下ろして、英語の方が楽になり、家の中にも英語を持ち込みます。そのときに親が譲らずに、「親子の会話は日本語」というように、それぞれのご家庭のコトバの使い方のルールを作って実践されるといいでしょう。言語の使い分けは家庭の中からと言われますが、それがゆくゆく2つの文化を背負うハイブリッドなアイデンティティを育てることに繋がります。国際結婚のお子さんの場合は、父・子では英語、母・子は日本語、みんないっしょのときは何語にするか、家族で話し合って決めるといいでしょう。

  ここで強調しておきたいのは、2つの言語、2つの学校に対する親の態度・姿勢です。大事なのは、英語も大事、日本語も大事、現地校の勉強も大事、補習校の勉強も大事という「両言型」の姿勢です。子どもは親の後ろ姿を見て育つと言われますが、親の期待を子どもは肌で感じ、その期待に応えようとするものです。確かに学年が上がるにつれ、現地校の勉強と補習校の勉強の両方をこなすのが難しくなります。「2つあって大変、不可能!」と投げ出すのではなく、「2つの学校体験ができて幸運」という捉え方はできないものでしょうか。バイリンガル育成には、2歳から20歳ぐらいまでかかります。完全を期すのではなくベストを尽くせばいいのだというような、長期的構えで余裕を持って臨まれたらどうでしょうか。

桶谷:最後に、このミシガンに住む読者の皆さんに、先生の方から何かメッセージがあれば、よろしくお願いします。

中島:ミシガンは、まさに自動車産業の世界の中心ですね。その関連で大事な日本企業が集まっています。文科省とは関係なく、これまで日本で「グローバル人材」を育てて来たのは企業ですし、また現在一番「グローバル人材」が活躍しているのも企業ですね。ですから、私は、ここミシガンで育つ子どもは幸運だと思うのです。「グローバル人材」のロールモデルの光と影に身近に触れることができるからです。

  デトロイト補習授業校を見学して1つ感心したことがあります。それは、お父さんたちが忙しい仕事の合間を縫って、補習校教育に積極的に参加されていることです。土曜に補習校に現れる父親を子どもはどう見ているのでしょうか。いつも忙しく仕事に追われる父親が、土曜日という貴重な時間を割く補習校とは、きっと大事なところに違いないと思うのではないでしょうか。子どもが補習校を支える父親、母親の姿を目にするのは、補習校の価値の吊り上げにつながるように私は思います。

  最後に1つ付け加えたいことがあります。それは、バイリンガルを育てるという観点は新しいものですから、現地校も補習校もその視点から子どもを見ていません。「グローバル人材」育成に向けて、それぞれのコトバが順調に伸びているかどうか、教師と親が協力して定期的にモニターをしつつ、子どもの成長を見守っていく必要があるでしょう。

桶谷:今日は、お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。