<!--:en-->挑む〜番外編: 尾形選手ナショナルシリーズ デビュー戦 観戦レポート<!--:--><!--:ja-->挑む〜番外編: 尾形選手ナショナルシリーズ デビュー戦 観戦レポート<!--:--> 1

文 : 城 俊之   写真 : 城 俊之 / 池知 友希

初日、朝からフェニックス・インターナショナル・レースウェイに入ると、すでに今回共に戦うWin-Tron Racing のメンバーが整備を進めていた。尾形選手の新しいクルマ「ENEOSトヨタ・タンドラ」のサスペンションのセッティングを入念に繰り返している。

尾形選手はやや緊張の面持ち。普段とそう大きくは違わないように見えるが言葉数が少ない。

「コースを観に行こう」。第一コーナーを眺めるピットウォールに立ち、下位カテゴリーのレースの練習風景を見つめる。ピットロードを歩き、立ち止まってまた走行ラインに目をやる。確認すべきところは頭の中に描けているようだ。そのまま1周、歩いた様子。私は表彰台の写真を撮りたかったのでここで別れた。いつもの軽口で「尾形さん!明日の決勝が終わったら、ここで待ち合わせ!」。笑顔が見えた。

Rookie Meetingに同行。写真を撮りたいから、と中に入れてもらった。

そこには、当然ながらアメリカ人ばかり。我々会社員は、アメリカ人と言えば同僚。つまり「仲間」として接してくれる。しかしここは違う。「尾形さんはこんな中で、こんな連中を相手に10年も戦ってきたのか・・・」それと同時に、ルーキーと言ってもNASCAR特別プログラムで上がってきたBen Rhodesや、チャンピオン候補のMatt Craftonなど今までテレビで観てきた「ヒーロー」が今、尾形選手の前に立ちふさがっている。「こんな連中と闘わなければいけないのか!」

あらためて、「ナショナルシリーズに上がる」ということの凄さに、背筋が凍った。

練習走行が始まる。なにしろ初めてのクルマに初めてのコース。まったく想像がつかない。私の感覚では「まっすぐ走ることすら難しいのでは?」。しかしローカルシリーズ、リージョナルシリーズと、NASCARを10年乗りこなしてきた尾形選手は「今までのクルマより乗りやすいって聞いてるよ」。不安半分と言いながら楽しみ半分、というところだったのだろうか。

走り出してみれば、若干抑え気味にも見えたが、走りはスムーズ。見てるほうとしてはむしろ安心できるくらいだった。1回目としては悪くない。このあたり、キャリアの差だろう。

1回目はホームストレートで観て、2回目は第一コーナーで観てみた。ここも他車と遜色あるとは思えない。突っ込んでくるスピードに大きな差はない。

練習走行が終わると入念に打ち合わせ。夕方の下位シリーズのレースでは、チームメンバーといっしょにトレーラーの上にあがり、レースを観ながら走り方を話し合った。明日が楽しみだ。

翌日、AKINORI OGATA SUPPORTERS DETROITの仲間と合流、観戦。午後の予選では遅いクルマに引っかかりタイムを伸ばせなかったが走る毎に手ごたえ。

夕方からいよいよ決勝。セレモニーで「AKINORI OGATA!」と紹介され壇上から降りてくる尾形選手にあたたかい声援と拍手。アメリカに移り住み、10年かけてNASCARに「居場所」を作ってきた尾形選手。「受け入れられているんだな」と思うと同時に、これは新しい道が開かれた瞬間なんだ、と感じた。

コースにスタンバイしたものの停電でしばらく待機。おかげで尾形選手のご家族はじめメインスポンサーのENEOSの方々、コ・スポンサーのMITSUBAの方と話をしたり記念写真を撮ったり。しかしいよいよ乗り込むことになるとピンと空気が張り詰めた。

我々はピットウォールの外から、尾形選手が車に乗り込み準備するのを見守った。

「Drivers! Start Your Engines!」

轟音とともに、なんとも言えない感情が。「どうか無事で!」「走りきって!」そして「ついにここまで来た!」。

何も言葉にできなかった。ただ左手を大きく挙げてサムアップすると、なんと尾形選手もコクピットからサムアップを返してくれた。もう、何もいらなかった。

スタート!5700cc V8を積んだ34台が一斉に全開。その轟音とスピードの中に尾形選手はしっかりとついていった。

我々はWin-Tron Racingのピットに移動。指令席から戦況を見守る。

早々のクラッシュでオイルがまかれ、その除去剤でさらにクラッシュするクルマが続出。Timothy PetersやJeb Burtonといったトップドライバーが犠牲になっていくなかで、尾形選手は堅実な走りでそのクラッシュをかわしていく。一度、目の前のクラッシュを避けるのに大きく振られたがクリア。このあたり、若さが先行して無謀なアタックが繰り広げられるWhelen All AmericanシリーズやK&Nプロシリーズという下位カテゴリーを戦い抜いてきた尾形選手ならではであろう。このとき、スタート時の28位から10位上げて18位。「デビュー戦でTOP20フィニッシュしたらスゴイことだぞ!」

しかし45周目、帰ってこない。後ろのビジョンモニターを見るとゆっくりと最終コーナーをまわってくる#35 ENEOS タンドラ。そのままガレージに向かう入口でストップ。Win-Tronのメンバーが駆け寄る。

やがていったんガレージに入っていった。

私はガレージに行かなかった。クルーに「彼は戻れるのか?」「パーツを換えてる。戻ってくる。」その言葉と、モニターの「OFF」(OUTはリタイヤ。)を信じたかった。戻ってくるのを、ここで待つことに決めた。

クルーが残念そうに片付けを始めた。損傷が大きく、間に合わないと判断された。それでも私はガレージに戻るのを躊躇した。かける言葉がなかったからだ。

仲間と、「あいさつだけして帰ろう」とガレージに向かった。

トレーラーの中の一番奥の事務所に、奥様の姿が見えた。私に気づくと「入ってきても大丈夫。」と手招きしてくださった。

「尾形さん、お疲れ様でした。我々はホテルに戻ります。」

「みんな居るの?」

そういうと一緒に外に出てきてくれた。

「残念。悔しいね。すごい音がしてね。リヤギヤが壊れちゃった。」

「でも18位まで上げましたよね!すごかったです!」

「TOP10いけるかな?と思ったんだよね。 よくばり過ぎたかな?」

ようやく笑みがこぼれた。内容がよかっただけに、手ごたえを感じたはず。初めてのクルマ、初めてのコース。わずか2回の練習と予選の間に、十分に戦えるだけの技術を身に付けていったのだ。まさに驚異的。それだけに悔しかっただろうが、大きな自信につながったのではないだろうか。

私はそのあとどうやって別れたのか覚えていない。

尾形選手の10年の挑戦と、それを支えてきてくれた多くの人たちの思いが詰まったこの2日間。あまりにも多くの感情、自分では抱えきれなかった。抱えきれるはずがない。

尾形選手は多くの応援してくださる方々に支えられて、そして一緒に喜びも悲しみも分かち合いながらここまで来たのだ。今日のデビュー戦、祈ってくれた方々が世界中にたくさん居たことだろう。いつかそういった方々とこの気持ちを分かち合えたら、と思いレースウェイを後にした。