『帰国子女の英語保持について 保護者の皆さんに知っておいてもらいたいこと』
去る2月15日、りんご会補習授業校において、第二言語習得と喪失研究の第一人者であり、公益財団法人海外子女教育振興財団の外国語保持教室アドバイザーを務める服部孝彦大妻女子大学教授(言語学博士)による表題の講演が同校保護者向けに開催された。服部先生ご自身が初等・中等・高等教育を日米両国で受けた帰国子女であり、かつ、帰国子女の保護者である経験から、「子供たちが苦労して習得した英語を喪失しないための情報を提供したい」との強い思いをもとに、親身さが伝わる講話が届けられた。受講者は150人に上り、村井校長先生が挨拶で述べたように、保護者にとっていかに切実な問題であるかが窺われた。
“第二言語喪失は自然。残ると思うのは間違い。”という大前提で、「何=どのような能力を」「いかに急速に」失うのかを分かり易く、理由を挙げつつ解説がなされた。結論を先に明かすと、第二言語喪失のメカニズムを知ることで、習得した第二言語の力を効果的に保持することが可能であることが説かれた。
以下、知っておくべきポイントを抜粋して紹介したい。
- アメリカでの英語習得より、日本に帰国してからの英語保持の方がはるかに難しい。3か月で喪失が進み、1年経つと取り返しがつかなくなる。⇒ 帰国後、すぐに英語保持のための学習を始めることが肝要。
- 年齢と言語の熟達度によって忘却の度合いやスピードが違う。
例:日常会話は比較的早く習得(2~3年でネイティブスピーカーレベル)、
一方、学校の学習に十分についていけるだけの高度な英語力は5~7年かかるとされる。小学校高学年以降の日本帰国で読み書きの力もかなりしっかり定着していると忘却は遅い。低学年以前は放っておくとすぐに忘れるが、読み書き能力が身につくまで学習することで忘却を遅らせることができる。
- 言語の4技能の内、能動的な力(話す力と書く力)より、受動的な力(読む力と聞く力)の方が圧倒的に保持しやすい。⇒ 家庭で受動的な力を失わない努力が必要。
- 帰国後、英語保持教室に通うだけでは不十分。英語の本を読むことが効果的。
- 語彙力や流暢さなどが衰えても、文法の力や発音などは忘れにくいので、「保持できている力が貴重な財産である」と子どもに伝え、自信を無くさせないことが大切。
- 保護者の英語に対する態度が子供の英語力保持に大きく影響する。帰国子女の英語力と保護者の英語に対する態度は相関性があるという研究データがある。子どもにばかり英語の学習をやらせるのではなく、親も英語を学び続ける、読み聞かせをするなど、共に取り組む姿勢を見せることが重要。
講演では他にも、ネイティブ(母語話者)の発音を身につけることができる臨界期は9歳から12歳までであることや、日米の言語的な差異についても解説があり、当地で子ども達が何を体得しているのかが提示された。また、言語忘却の順番やメカニズムの話もあり、表面上の技能で判断するのは誤りであることなども示唆された。
講演の後には質問応答の時間が設けられ、質問が殺到した。多くの保護者の懸念であろう「日本帰国後は日本語習得の方に力を入れるべきか?」との質問に対しては、言語力は片方が伸びるともう一方が落ちるものではないと回答し、英語力の保持努力を奨励。また、「親も一緒にとの話だが、日本人発音の英語を聞かせて問題はないか」との不安に対しては、「一旦身につけた(子供のネイティブ並の)発音などは抜けない」とのことであった。
さらに、日本では国が英語教育に力を入れ始めたが、英語力の将来展望に関する質問も上がった。服部先生は、日本では英語教育の必要性に欠けており、取り組みとしてはアジア諸国と比べても遅れていることを指摘しながらも、今後は英語力がますます必要になるであろうと述べた。
講演後、服部先生へのインタビューの機会を得たが、ご自身、一旦身につけた英語力を低下させてはまた苦労して学び直した苦い経験があり、他人ごとでは無いと述懐する。英語を保持する価値を身をもって実感し、仕事柄「もっと早く対処していれば・・・」といった保護者からの後悔の声を耳にすることも多い服部先生は「せっかく身につけた英語を保持する努力は親の責任」と強調。保持させたいとの願いがありながら第二言語喪失のメカニズムや英語保持教室の存在を親が知らなかった為に英語喪失が起きてしまうことを何とかして食い止めたいという思いが強く伝わってきた。
服部先生の著書『私たちはいかにして英語を失うか』(海外子女教育振興財団編/出版社 アルク)に、英語の保持と喪失に関する知識が収められている。成功実例も多く紹介されている。財団から海外発送が可能とのこと。
外国語保持教室について
帰国前に情報を入手し、少しでも早く通わせることが大切。
読む・書く・聞く・話す、の4技能は統合的に学ぶのが効果的であることが実証されているが、財団の外国語保持教室は長年の実績を持ち、第二言語喪失の理論に基づいた保持のための適切なカリキュラムを組んでいる。第二言語習得と喪失に関する知識を持ったネイティブスピーカーまたはバイリンガルの講師が指導にあたっている。同教室は40年ほどの歴史を持っている。
地域に教室が無い場合など、対面式で行うより効果は落ちるが、財団ではオンライン(=Webサテライト)教室も提供している。
現在、首都圏・中部・関西、合わせて全10教室とWebサテライト教室で1,500名以上の小学生・中学生・高校生が学んでいる。
詳細は以下、海外子女教育振興財団ホームページで。
『帰国子女の英語保持について 保護者の皆さんに知っておいてもらいたいこと』
去る2月15日、りんご会補習授業校において、第二言語習得と喪失研究の第一人者であり、公益財団法人海外子女教育振興財団の外国語保持教室アドバイザーを務める服部孝彦大妻女子大学教授(言語学博士)による表題の講演が同校保護者向けに開催された。服部先生ご自身が初等・中等・高等教育を日米両国で受けた帰国子女であり、かつ、帰国子女の保護者である経験から、「子供たちが苦労して習得した英語を喪失しないための情報を提供したい」との強い思いをもとに、親身さが伝わる講話が届けられた。受講者は150人に上り、村井校長先生が挨拶で述べたように、保護者にとっていかに切実な問題であるかが窺われた。
“第二言語喪失は自然。残ると思うのは間違い。”という大前提で、「何=どのような能力を」「いかに急速に」失うのかを分かり易く、理由を挙げつつ解説がなされた。結論を先に明かすと、第二言語喪失のメカニズムを知ることで、習得した第二言語の力を効果的に保持することが可能であることが説かれた。
以下、知っておくべきポイントを抜粋して紹介したい。
- アメリカでの英語習得より、日本に帰国してからの英語保持の方がはるかに難しい。3か月で喪失が進み、1年経つと取り返しがつかなくなる。⇒ 帰国後、すぐに英語保持のための学習を始めることが肝要。
- 年齢と言語の熟達度によって忘却の度合いやスピードが違う。
例:日常会話は比較的早く習得(2~3年でネイティブスピーカーレベル)、
一方、学校の学習に十分についていけるだけの高度な英語力は5~7年かかるとされる。小学校高学年以降の日本帰国で読み書きの力もかなりしっかり定着していると忘却は遅い。低学年以前は放っておくとすぐに忘れるが、読み書き能力が身につくまで学習することで忘却を遅らせることができる。
- 言語の4技能の内、能動的な力(話す力と書く力)より、受動的な力(読む力と聞く力)の方が圧倒的に保持しやすい。⇒ 家庭で受動的な力を失わない努力が必要。
- 帰国後、英語保持教室に通うだけでは不十分。英語の本を読むことが効果的。
- 語彙力や流暢さなどが衰えても、文法の力や発音などは忘れにくいので、「保持できている力が貴重な財産である」と子どもに伝え、自信を無くさせないことが大切。
- 保護者の英語に対する態度が子供の英語力保持に大きく影響する。帰国子女の英語力と保護者の英語に対する態度は相関性があるという研究データがある。子どもにばかり英語の学習をやらせるのではなく、親も英語を学び続ける、読み聞かせをするなど、共に取り組む姿勢を見せることが重要。
講演では他にも、ネイティブ(母語話者)の発音を身につけることができる臨界期は9歳から12歳までであることや、日米の言語的な差異についても解説があり、当地で子ども達が何を体得しているのかが提示された。また、言語忘却の順番やメカニズムの話もあり、表面上の技能で判断するのは誤りであることなども示唆された。
講演の後には質問応答の時間が設けられ、質問が殺到した。多くの保護者の懸念であろう「日本帰国後は日本語習得の方に力を入れるべきか?」との質問に対しては、言語力は片方が伸びるともう一方が落ちるものではないと回答し、英語力の保持努力を奨励。また、「親も一緒にとの話だが、日本人発音の英語を聞かせて問題はないか」との不安に対しては、「一旦身につけた(子供のネイティブ並の)発音などは抜けない」とのことであった。
さらに、日本では国が英語教育に力を入れ始めたが、英語力の将来展望に関する質問も上がった。服部先生は、日本では英語教育の必要性に欠けており、取り組みとしてはアジア諸国と比べても遅れていることを指摘しながらも、今後は英語力がますます必要になるであろうと述べた。
講演後、服部先生へのインタビューの機会を得たが、ご自身、一旦身につけた英語力を低下させてはまた苦労して学び直した苦い経験があり、他人ごとでは無いと述懐する。英語を保持する価値を身をもって実感し、仕事柄「もっと早く対処していれば・・・」といった保護者からの後悔の声を耳にすることも多い服部先生は「せっかく身につけた英語を保持する努力は親の責任」と強調。保持させたいとの願いがありながら第二言語喪失のメカニズムや英語保持教室の存在を親が知らなかった為に英語喪失が起きてしまうことを何とかして食い止めたいという思いが強く伝わってきた。
服部先生の著書『私たちはいかにして英語を失うか』(海外子女教育振興財団編/出版社 アルク)に、英語の保持と喪失に関する知識が収められている。成功実例も多く紹介されている。財団から海外発送が可能とのこと。
外国語保持教室について
帰国前に情報を入手し、少しでも早く通わせることが大切。
読む・書く・聞く・話す、の4技能は統合的に学ぶのが効果的であることが実証されているが、財団の外国語保持教室は長年の実績を持ち、第二言語喪失の理論に基づいた保持のための適切なカリキュラムを組んでいる。第二言語習得と喪失に関する知識を持ったネイティブスピーカーまたはバイリンガルの講師が指導にあたっている。同教室は40年ほどの歴史を持っている。
地域に教室が無い場合など、対面式で行うより効果は落ちるが、財団ではオンライン(=Webサテライト)教室も提供している。
現在、首都圏・中部・関西、合わせて全10教室とWebサテライト教室で1,500名以上の小学生・中学生・高校生が学んでいる。
詳細は以下、海外子女教育振興財団ホームページで。