<!--:en-->デトロイト美術館にて “Samurai: Beyond the Sword” 好評開催中<!--:--><!--:ja-->デトロイト美術館にて “Samurai: Beyond the Sword” 好評開催中<!--:--> 1

 デトロイト美術館で日本美術の特別展「Samurai: Beyond the Sword」が3月9日から6月1日まで開催されている。この展覧会では、カリフォルニアのクラーク日本美術・文化研究センターのために監修された “Lethal Beauty”展を基に、デトロイト美術館(以下DIA)の所蔵品を加え、125点余の美術品を一挙に公開している。3月6日(会員のためのプレビュー)から16日までの10日間だけで入場者数5,195人を数え、別入場料がかかる特別展として記録的なものとなった。

 海外では“サムライの芸術”というと鎧・兜・刀剣などの武具のイメージが強いが、この度の展覧会ではそれらに加えて、文武両道をめざした高級武士が関わったからこそ花開いた美の世界にも理解が深まるような品々を揃え、武士の剛健さと優美さの両面を紹介している。

 「海外にある品など大したことはないだろう」とお考えの読者、侮ることなかれ。今回の展示品は、DIAの壮大な日本美術所蔵品より初公開される作品をはじめ、メトロポリタン美術館、ネルソン・アトキンズ美術館、ミシガン大学人類学博物館、個人所蔵からの貴重な名作で構成されている。源平合戦や源氏物語を題材にした屏風、禅画、優美な能装束や面、茶道の名品、そして美麗な琳派の作品などが並んでいる。

 一般公開の始まる前夜(3月8日)にはオープニングセレモニーが催され、一足先にこれらの展示を鑑賞した人々がこれらのバラエティー豊かな展示品に対する感嘆とともに、ゆとりを保たれた展示方法への称賛の声を漏らしていた。晩餐会では館長のグレアム・ビール氏が挨拶にたち、素晴らしい特別展が実現した喜びとスポンサー及び篤志家に対する謝辞のほか、この展示会を通してサムライの文化や歴史に関する誤解が取り除かれることを願っていると伝えた。サムライ展の監修を務めたバージッタ・オーガスティン氏(DIAアジア美術担当の准学芸員)からは、開催に至るまで1年の道のりがあったことが告げられ、展示の趣旨や内容について要約が述べられた。

 この特別展のために日本語の音声ガイドが用意されている。これは館長とオーガスティン氏そして解説員(メーガン・ディリエンゾ氏)により、展示品自体の解説に留まらず、例えば、刀は単なる凶器ではなく武士の特権的地位を象徴する物であり芸術作品でもあることなど時代背景や意図についても説明を織り込んでいる。特に甲冑や兜については材料や技法、装飾について分かり易い詳細な解説が加えられており、今後の別な鑑賞時の楽しみにも繋がるに違いない。

 開催初日には、この展覧会の監修を務めた特別顧問の渡辺雅子博士(元ニューヨークメトロポリタン美術館アジア美術部門主任研究員、学習院大学招聘研究員)による日本語ツアーが催され、日本人の美術愛好家向きの、よりピンポイントな解説が提供された。そのツアーに参加された、DIAアジア・イスラム・アート・フォーラム委員の稲葉美恵子さんに展示品の見所について寄稿していただいた(次頁)。既に展示会に足を運ばれた方も知識を仕入れ、見方を変えて再度訪問あれ。

 また、会期中には、サムライ文化を中心とした日本文化を紹介する催しや講演会をほぼ毎週末に開催。公開初日には、邦楽グループ“雅”による琴の演奏が披露され、来訪者は目と耳で日本の優雅さを堪能する機会を得た。3月中に茶の湯の実演が既に行われてしまったが、生け花実演(4/6)、剣道実演(5/4)、邦楽演奏(5/11)、そして最終日曜日にはロサンジェルスの和太鼓グループ“Matsuri Taiko”の演奏が予定されている。4月から5月にかけて、「用心棒(Yojimbo)」(4/19)、「たそがれ清兵衛(The Twilight Samurai)」(5/30)を含む5本の侍映画の上映も行われる。

*催しの時間や場所など詳細はホームページhttp://www.dia.org/をご覧ください。

Detroit Institute of Arts (DIA)

5200 Woodward Ave, Detroit, Michigan
入場券:16才以上  $16 / 6歳以上 $8
★DIA メンバーは無料。

 

デトロイト美術館 サムライ:ビヨンド・ザ・ソード展

平家物語より The Battles of Ichinotani and Yashima (detail) unknown artist, mid-1600s, ink and gold on paper. Minneapolis
Institute of Arts; Gift of Elizabeth and Willard Clark.

ここは鑑賞しておこう! 展示品の見所をご紹介

DIAアジア・イスラム・アート・フォーラム委員 稲葉美恵子

  今回のサムライ:ビヨンド・ザ・ソード展(以下サムライ展)における展示品の約半数は、デトロイト美術館の所蔵品であるが、「源氏物語図屏風」始めほとんどのものは、会期終了後は保存のためまた所蔵庫へ収容されてしまう。そして、これから当面は公開予定が無いとのことなので、この展覧会はまたと無いお宝を鑑賞するチャンスだといえる。

 3月8日に、サムライ展の特別顧問であり、学習院大学招聘研究員である渡辺雅子博士によるサムライ展日本語ツアーが開催された。渡辺氏は、現職前2012年までメトロポリタン美術館(以下MET)でアジア美術部門主任研究員として「日本の絵巻物展」や「日本美術に於ける物語展」など企画された方でもある。DIAアジア美術部門の准学芸員であり、サムライ展の監修者であるバージッタ・オーガスティン氏とは、METの同じ部門で働く同僚であったことから、当展の特別顧問に就任されたという経緯がある。

色紙 (DIA所蔵) 198 Poem from the Shin Kokinshu. Poem from the Shin Kokinshu, Hon’ami Koetsu and Nonomura Sotatsu, early 1600s, gold, silver, and ink on paper

 30名のツアー参加者と共に、渡辺氏の熱く、時にはユーモラスな解説を聞きながら見学した濃~い1時間半は、自分だけで見学したのでは理解できなかったであろう、作品の背景や意図、鑑賞のポイントであるサムライの美がどこにあるのかを、なるほどと思いながら堪能したひと時であった。渡辺氏のスケジュールの都合で一回のみのツアー開催であったのは、本当に残念なことだった。そこで、この紙面をお借りして、ツアーでのお話をもとに、特に見方が変わり興味をもった、屏風や掛け軸などの日本画を中心にいくつかの作品の見所を、主観も交えて以下展示順にご紹介させていただく。より楽しめるサムライ展へのご案内に少しでもなりますように・・・。

 展覧会場の構成は、前半を「武」として鎧・兜・刀を中心に戦うサムライの中の美を。後半を「文」として文化人、芸術家、もしくは芸術のパトロンとしてサムライが創り上げた美の展示となっている。日本語での音声ガイドが無料で貸し出されているのでそちらを聞きながら周ることになる。

1.「平家物語図屏風」  (MET所蔵)  鎌倉幕府というサムライの政権の成立に至る、平家滅亡に導いた2つの戦いを描いた屏風のどこに平家物語の名場面があるのか探してみよう!

六曲一双の屏風(六枚繋がりの屏風が二つで一対となる作品)。右隻の「一の谷合戦屏風」には、(源氏は白い旗、平家は赤い旗)①義経が山から平家を奇襲した鵯越(ひよどりごえ)の逆落とし、そして②熊谷直実が馬に乗って海に入り船へ向かう平敦盛を呼び止める場面を見ることができる。左隻の「屋島の戦い」では、一の谷の合戦の翌年に屋島にこもった平家との戦いで、③那須与一が船上の女性が持つ的を見事に射る場面、④平教経が船から陸の義経に向かって射た矢の矢面になって落馬する佐藤継信、と物語の名場面が他の戦いの場面と共に金箔と色彩で鮮やかに印象深く、また細密に描かれている。

3.「北条氏長 像」 土佐光起  (DIA所蔵)

その時代、サムライは、絵師に2つの種類の肖像画を描かせていた。王朝の貴族に憧れ、王朝の伝統的な装束をまとったもの、そして鎧兜を身に着けたものだ。顔を精密に描き、特徴をもたせる一方、装束は無機的に描いている。この人がどういう人であるかという、賛が人物像の上に書かれている。禅宗大本山の大徳寺の禅僧、琢玄宗璋のもの。北条氏長は戦術に長けていたという。

4.「布袋」 狩野孝信 (MET所蔵)  狩野派

大絵師、狩野永徳の次男で息子は天才と言わた狩野探幽である孝信の作。墨の濃いところ薄いところ、強いところ、杖のリズム、髭、襟から袖への筆さばきに注目だ。上を向いて見ているのは月(未来)であるらしい。サムライに好まれた画題だそうだ。賛は大徳寺の鉄山宗鈍。

5.「色紙」 (DIA所蔵)  琳派の創始者2人の合作。俵屋宗達デザインの色紙に本阿弥光悦が和歌を書いた。金と墨のにじみや濃淡でぶどうを描写。中心から和歌を書き出すという大胆な配置。

6.「鍋島焼皿」 (DIA所蔵)  鍋島焼は鍋島藩の藩釜で製作された高級磁器。藩内でだけ流通、一般に出回らず、将軍・大名用の高級贈答品としての品格を保つため製作に関して多くの決まりごとがあった。 (巻頭、右下写真)

7.「源氏物語図屏風」  (DIA所蔵)  狩野派

六曲―隻の屏風は、他の源氏物語図屏風と違い、物語の場面ではなく、素晴らしい庭を中心に想像の六条院の雅が描かれている。右手前に桜があり光源氏と紫の上が住む春の町の御殿。左手には、夏の草花が咲き、厩には白馬が見えることから、花散里が住む夏の町の御殿を表しているという。秋と冬の町を描いた対になるもう一双があったに違いないと考えられている。寝殿造の特徴で寝殿(主人の居間・客人の応接間)の正面に池を伴う庭を造り、中島を築き、中央に遣り水(小川)を流し、前栽が植えられている。

ここで、サムライの時代に隆盛をなした日本画4派についてまとめておこう

《土佐派》  日本の絵画の流れ「大和絵」の様式をとる。宮廷の御用絵師。日本の事象風物、物語の挿絵や絵巻を手掛けた。人物は引目鉤鼻細密描法(目は墨で細長く、眉は細い線を重ねて、鼻はくの字、口は朱の点)が特徴。

《狩野派》  水墨画が基になる「漢画」の様式をとる。上手く武士と結んで徳川時代に隆盛。幕府の御用絵師の一大組織になった。鋭い描線と豪壮で格式のある画。大和絵の画法も取り入れた。絵師たちは粉本(お手本)で絵を習う。襖絵、屏風に多く見られる。

《南画》  中国の南宋画に由来。水墨淡彩で柔らかい描線。墨の濃淡による遠近、筆使いによる表現方法。生き生きとした情緒や風格がただよう絵。

《琳派》  組織ではなく、様式を指す。大和絵を基盤に斬新な構図や画面展開、革新的なデザイン感覚に富んだ独自の様式。

虎渓三笑、林逋 Lin Heqing and the
Three Laughters at Tiger RavineIke
Taiga, Japanese, 1723 – 1776 18th
Century, Colors, gold and ink on silk.

8.「虎渓三笑」、「林逋」 池大雅 (DIA所蔵)  南画の大成者である大雅の作品が並ぶ。筆がリズムを持って勝手に動いているような筆遣い、溶けるような墨使いで、山も岩も人も丸みを帯びたおおらかで楽しい絵である。漢詩「山園小梅」で有名な孤高の詩人林逋は、「梅鶴妻子」すなわち梅を妻とし鶴を子として隠棲した。それもあって、林逋が絵の題材になる時には、どこかに梅や鶴が出てくるのが定番だ。中国の故事「虎渓三笑」も有名な画題である。

9.「桜花」、「月に群青」、「積雪の松」 (DIA所蔵)

尾形光琳の作品から琳派を学んだ、武家の次男坊、酒井抱一の作品。それぞれの季節がすっきりと描かれている。“典雅の華“と謳われる作風。

10.「葦と鶴」 (DIA所蔵)  琳派で酒井抱一に学んだ鈴木其一の作品。

11.「葦と雁」 (DIA所蔵)  江戸幕府に使えた御用絵師であり狩野派四大家の一人狩野常信の作品。

10と11は、共に六曲一双という2組の大きな屏風絵で横に並んで展示されている。明快な色彩と構図で描かれた鶴はやはり琳派らしいし、細かい描写の雁と強い線の岩は狩野派らしい。年代は違うがライバルの競演といった感じの壮観な並びである。

12.「サムライ像」 (MET所蔵)素性は?  展覧会のラストを飾る大きな掛け軸、他では見ない髯をさわるというポーズをとるサムライ像である。古い形の刀をさし、紫の着物の柄が格調高い精緻な織物の蜀江文(しょっこうもん)であること、また半衿部分が墨絵で花柄を描いた辻が花風の柄であることから、かなりの身分の高名なサムライであると推察されるのだが、未だ素性が判明していない。着物に描かれた溝口菱(五階菱)もしくは松皮菱と思われる中に橘が描かれた紋が付いているのがヒントになるかと考えられていたのだが

・・・。解明された方は是非ご一報をお願いしたい。

見学を終えて展覧会場を出ると、巷でなかなかの品揃えと話題のサムライ展特設ギフトショップだ。今もののフィギュアやアニメの商品、お菓子も販売している。展示品の前で真剣な顔だった人達がを楽しげに品物を眺めている。多くの人に日本の文化へ興味を持ってもらえることは嬉しく、ありがたいという気分になった。

*メンバーシップのご案内

  DIAのメンバーシップ(年会費:65㌦)に加えて、DIA内インターナショナル部門の組織、
アジア・イスラム・アート・フォーラム(年会費:50㌦)会員へも、DIAもしくはウェブサイトから申し込みできる。入会されてサムライのように文化のパトロンとなってみられてはいかがだろう。会費は新しい所蔵品の購入、講演会の開催等に役立てられる(税控除有り)。メンバー特典は、DIAでの展覧会、講演会、イベントのご案内、常設展と特別展への無料入場、ギフトショップ&カフェでの10%割引などがある。メンバーだから、お休みの日や平日時間のある時に、DIAへ出かけてちょっとゆったりとした良い時間を過ごそうか・・・というのはいがだろう。
  サムライ展は、トヨタ自動車株式会社、デンソー・インターナショナル・アメリカ株式会社、E. Rhodes and Leona B. Carpenter Foundation、ヤザキ・ノースアメリカ株式会社よりのスポンサーシップを得て開催されている。また、3月8日にDIAにてアジア・イスラム・アート・フォーラム主催で在デトロイト日本国総領事館片山和之総領事を名誉会長にお迎えして開催された、サムライ展オープニング・イベントでは、いすゞ自動車株式会社、イムラ・アメリカ株式会社、トヨタ紡織株式会社、豊田合成株式会社、株式会社日立製作所、プライスウォータハウス・クーパース株式会社、三井物産株式会社、デトロイト剣道場よりのご賛助をいただいた。こちらの収益はDIAにおける日本の文化と美術プログラムの発展に利用されることとなっている。