3月です。もう一度言います。3月です。なのにこの寒さは一体何なのでしょう。ミシガンは先月もそうでしたが、一日が雪でした。日本ではちらほら梅の便りが聞こえ始めているというのに、本当にこの冬の雪と寒さはしつこいです。皆で一緒に「は~るよ来い!」と叫びたいですね。ミシガンで凍えている我々を尻目にフロリダやアリゾナでは球春の足音が聞こえ、MLBのオープン戦がスタート。先日会った知人から拙稿に関して「もうマー君の話はいいから」と言われました。「ここで止めては男が廃る」などと大袈裟な話ではありませんが、書かぬ訳には参りません。その田中投手、ヤンキースに移籍となり既にオープン戦で無難な初登板。今後成績が良くても悪くても舌鋒鋭いビッグアップルのメディアの注目を浴びる存在ですが、苦手な英語を通訳なしでも何とか格好の付くレベルにしてメディアの面々と上手く折り合いをつけて欲しいものです。田中投手の性格からしてブルージェイズの川崎選手のようなお笑い路線は無理でも、インタビューには片言でも自分の言葉で受け応え出来るといいですね。
そう言えば、スーパー・ボウルは全く予想外の展開と結果でした。また、ソチの冬季五輪は心配していたテロによる混乱もなく無事に終わり、ほっとしました。男子フィギュアで金メダルの羽生選手、男子ジャンプ・ラージヒル個人で銀メダル、団体で銅メダルの葛西選手、惜しくもメダルは取れなかったですがSPで失敗したトリプルアクセルに拘り続けてフリーで見事飛び切って意地を見せた浅田選手が印象的でした。選手および応援した皆さん、お疲れ様。
さて、今回のテーマは『才能と努力』です。
『才能と努力』、スポーツを始め仕事や芸術、エンタメの世界など色々な場面で良く使われる言葉ですが、皆さんはこの言葉についてどんな経験や考えをお持ちでしょうか?「あの人は天才(あるいは天賦の才能の持ち主)だ」とか「才能があっても努力なしでは大成しない」とか言いますし、「努力は裏切らない」とか「努力である程度のレベルに行けても才能がないと限界がある」とも言いますね。それぞれ意味があり、相反するような表現であっても皆さんの今までの経験や人生の中で不思議と納得してしまい、思い当たる事例も一つや二つあるのではないでしょうか?
冒頭で触れた冬季五輪の葛西選手などは7度目の五輪出場で初のメダルという常人では考えも及ばないような記録で、才能云々よりも度重なる怪我や不運にめげずひたすら努力を続けた結果で「努力は裏切らない」の最たる例でしょう。もちろん才能なしでは成し得なかった事ですが、努力の部分が大きく私達の心に強く響きます。私が日本に居た頃から五輪や世界選手権に出場していましたから、最初にインターネットのニュースで五輪参加選手の名前を聞いた時には「えっ、葛西?まさか!」と一瞬思ってしまう程の驚きがありました。
一方、浅田選手は既にジュニアの時代からトリプルアクセルを飛べる才能豊かなスケーターとして衆目を集め、世界選手権やグランプリ・ファイナルで優勝、前回バンクーバー五輪で銀メダル獲得と才能と実績は申し分なく、内外に名前を知らしめて長年常にスポットライトの当たる場所で活躍を続けて来ました。そういう彼女でも少女から大人への成長と体格の変化に伴う心・技・体の微妙なバランスの違いへの対応でコーチが「止めなさい!」と制止するまで過剰なくらい練習を繰り返していたと聞きました。また、今回のソチ冬季五輪には佐藤コーチと一緒に原点に戻って自分の滑りとジャンプをゼロから作り直す決意で臨んだとのことで、最後のフリーで才能と努力が融合・昇華した見事な演技を世界中の人に見せてくれたのはご承知の通りです。
自分の好みでスポーツ選手に目が行ってしまいますが、野球界では直近3年間はやや成績ダウンしているものの、40歳現役のイチロー選手は天才と呼ばれる一方で人知れず創意工夫と練習を繰り返し、振り子打法という他が真似の出来ない独特の打法を引っ下げて、米国MLBでもシーズン最多安打、10年連続200本安打などとてつもない大記録を打ち立てています。試合日の球場入りのタイミングや到着後のベンチへの入り方、試合前の柔軟体操と練習の仕方など一つひとつの動作やきめ細かい手順とイチロー語録に垣間見える彼のストイックなまでの野球に対する考え方、取り組み方が天賦の才能を最高の形、最高のレベルで開花させる努力の結晶であることは間違いありません。
更にもう一人、「努力は裏切らない」を地で行く女子サッカーの澤選手。15歳から昨年まで日本代表として丸20年。今年もまだ続いています。自身は今でも「私は才能があるとも上手いとも思わない」と言い続ける努力家。少し前の話になりますが、米国と戦った2011年女子ワールドカップドイツ大会の決勝戦、延長戦まで終わって2-2の同点。PK戦前のチームの輪の中で監督に「ペナルティーキックは自信がないから蹴る順番は最後にして」とお願いし、「澤さん、ずるい~」と笑わせて皆の緊張を和らげたとか。PKは自信がないと言いながら男女を通じて歴代日本代表の通産得点王です。得点王とMVPにもなり、優勝に花を添えたそのドイツ大会で見せた彼女の一番凄いところは、攻撃でも守備でも走り続けて重要な場面でボールの出そうな所、来そうな所に決まって彼女が居るのです。何度も相手のパスコースを読んでカットしたり、ゴール前でシュートをブロックしています。彼女がそこにいなかったら相手は多分2、3点ゴールしています。これは本当に凄い直感的で動物的な才能です。他のプレイヤーは持っていません。実況中継やビデオを何度も観た訳ではないのですが、それが強烈な印象として残っています。嘘だと思ったら、ご自分で準決勝の対スウェーデン戦と決勝の米国戦のビデオをご覧下さい。準決勝ではゴール近くで自分の不用意なパスを相手にカットされてから先に失点しましたが、「私が絶対取り返すから」と言って本当に得点して同点にし、最終勝って決勝に進出。決勝では皆さんもご記憶の通り規定時間内後半残り3分で起死回生の同点弾。最終PK戦では2度も勝ったと思ったのに追いつかれた米国選手がはっきり気落ちしてキックの失敗と日本のゴールキーパー海堀選手の好守でなでしこ初優勝となった次第です。
『才能と努力』どちらも人を輝かせます。他にもテニスで話題にしたい現役・引退選手が数人いますが、紙面が足りなくなりましたので、また別な機会があれば再論したいと思います。
執筆者紹介:小久保陽三
Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。
3月です。もう一度言います。3月です。なのにこの寒さは一体何なのでしょう。ミシガンは先月もそうでしたが、一日が雪でした。日本ではちらほら梅の便りが聞こえ始めているというのに、本当にこの冬の雪と寒さはしつこいです。皆で一緒に「は~るよ来い!」と叫びたいですね。ミシガンで凍えている我々を尻目にフロリダやアリゾナでは球春の足音が聞こえ、MLBのオープン戦がスタート。先日会った知人から拙稿に関して「もうマー君の話はいいから」と言われました。「ここで止めては男が廃る」などと大袈裟な話ではありませんが、書かぬ訳には参りません。その田中投手、ヤンキースに移籍となり既にオープン戦で無難な初登板。今後成績が良くても悪くても舌鋒鋭いビッグアップルのメディアの注目を浴びる存在ですが、苦手な英語を通訳なしでも何とか格好の付くレベルにしてメディアの面々と上手く折り合いをつけて欲しいものです。田中投手の性格からしてブルージェイズの川崎選手のようなお笑い路線は無理でも、インタビューには片言でも自分の言葉で受け応え出来るといいですね。
そう言えば、スーパー・ボウルは全く予想外の展開と結果でした。また、ソチの冬季五輪は心配していたテロによる混乱もなく無事に終わり、ほっとしました。男子フィギュアで金メダルの羽生選手、男子ジャンプ・ラージヒル個人で銀メダル、団体で銅メダルの葛西選手、惜しくもメダルは取れなかったですがSPで失敗したトリプルアクセルに拘り続けてフリーで見事飛び切って意地を見せた浅田選手が印象的でした。選手および応援した皆さん、お疲れ様。
さて、今回のテーマは『才能と努力』です。
『才能と努力』、スポーツを始め仕事や芸術、エンタメの世界など色々な場面で良く使われる言葉ですが、皆さんはこの言葉についてどんな経験や考えをお持ちでしょうか?「あの人は天才(あるいは天賦の才能の持ち主)だ」とか「才能があっても努力なしでは大成しない」とか言いますし、「努力は裏切らない」とか「努力である程度のレベルに行けても才能がないと限界がある」とも言いますね。それぞれ意味があり、相反するような表現であっても皆さんの今までの経験や人生の中で不思議と納得してしまい、思い当たる事例も一つや二つあるのではないでしょうか?
冒頭で触れた冬季五輪の葛西選手などは7度目の五輪出場で初のメダルという常人では考えも及ばないような記録で、才能云々よりも度重なる怪我や不運にめげずひたすら努力を続けた結果で「努力は裏切らない」の最たる例でしょう。もちろん才能なしでは成し得なかった事ですが、努力の部分が大きく私達の心に強く響きます。私が日本に居た頃から五輪や世界選手権に出場していましたから、最初にインターネットのニュースで五輪参加選手の名前を聞いた時には「えっ、葛西?まさか!」と一瞬思ってしまう程の驚きがありました。
一方、浅田選手は既にジュニアの時代からトリプルアクセルを飛べる才能豊かなスケーターとして衆目を集め、世界選手権やグランプリ・ファイナルで優勝、前回バンクーバー五輪で銀メダル獲得と才能と実績は申し分なく、内外に名前を知らしめて長年常にスポットライトの当たる場所で活躍を続けて来ました。そういう彼女でも少女から大人への成長と体格の変化に伴う心・技・体の微妙なバランスの違いへの対応でコーチが「止めなさい!」と制止するまで過剰なくらい練習を繰り返していたと聞きました。また、今回のソチ冬季五輪には佐藤コーチと一緒に原点に戻って自分の滑りとジャンプをゼロから作り直す決意で臨んだとのことで、最後のフリーで才能と努力が融合・昇華した見事な演技を世界中の人に見せてくれたのはご承知の通りです。
自分の好みでスポーツ選手に目が行ってしまいますが、野球界では直近3年間はやや成績ダウンしているものの、40歳現役のイチロー選手は天才と呼ばれる一方で人知れず創意工夫と練習を繰り返し、振り子打法という他が真似の出来ない独特の打法を引っ下げて、米国MLBでもシーズン最多安打、10年連続200本安打などとてつもない大記録を打ち立てています。試合日の球場入りのタイミングや到着後のベンチへの入り方、試合前の柔軟体操と練習の仕方など一つひとつの動作やきめ細かい手順とイチロー語録に垣間見える彼のストイックなまでの野球に対する考え方、取り組み方が天賦の才能を最高の形、最高のレベルで開花させる努力の結晶であることは間違いありません。
更にもう一人、「努力は裏切らない」を地で行く女子サッカーの澤選手。15歳から昨年まで日本代表として丸20年。今年もまだ続いています。自身は今でも「私は才能があるとも上手いとも思わない」と言い続ける努力家。少し前の話になりますが、米国と戦った2011年女子ワールドカップドイツ大会の決勝戦、延長戦まで終わって2-2の同点。PK戦前のチームの輪の中で監督に「ペナルティーキックは自信がないから蹴る順番は最後にして」とお願いし、「澤さん、ずるい~」と笑わせて皆の緊張を和らげたとか。PKは自信がないと言いながら男女を通じて歴代日本代表の通産得点王です。得点王とMVPにもなり、優勝に花を添えたそのドイツ大会で見せた彼女の一番凄いところは、攻撃でも守備でも走り続けて重要な場面でボールの出そうな所、来そうな所に決まって彼女が居るのです。何度も相手のパスコースを読んでカットしたり、ゴール前でシュートをブロックしています。彼女がそこにいなかったら相手は多分2、3点ゴールしています。これは本当に凄い直感的で動物的な才能です。他のプレイヤーは持っていません。実況中継やビデオを何度も観た訳ではないのですが、それが強烈な印象として残っています。嘘だと思ったら、ご自分で準決勝の対スウェーデン戦と決勝の米国戦のビデオをご覧下さい。準決勝ではゴール近くで自分の不用意なパスを相手にカットされてから先に失点しましたが、「私が絶対取り返すから」と言って本当に得点して同点にし、最終勝って決勝に進出。決勝では皆さんもご記憶の通り規定時間内後半残り3分で起死回生の同点弾。最終PK戦では2度も勝ったと思ったのに追いつかれた米国選手がはっきり気落ちしてキックの失敗と日本のゴールキーパー海堀選手の好守でなでしこ初優勝となった次第です。
『才能と努力』どちらも人を輝かせます。他にもテニスで話題にしたい現役・引退選手が数人いますが、紙面が足りなくなりましたので、また別な機会があれば再論したいと思います。
執筆者紹介:小久保陽三
Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。