米国で学んでいる高校生が日本の大学を受験する場合、帰国生入試を利用できます。この入試では、海外での在学年数や海外の高校の卒業の有無、各国の大学入学資格試験の合格やスコア(米国ではSATやACT、TOEFLなどのスコア)など、大学ごとに異なった条件を定めています。また、秋入学の大学では北米の大学と同様に高校の成績や推薦書、大学入学資格試験の合格やスコアなどの書類審査のみで合否が判定されますが、春入学の大学では書類の提出に加え、学科試験が課されるケースが目立ちます。学科試験の科目は大学・学部によって異なりますが、概ね文科系学部では小論文と英語、理科系学部では小論文と数学、理科が課されます。さらに多くの大学・学部で面接も行われます。
現地校の学習も入試対策として必要
では、帰国生入試に合格するためには、どのような準備をしておけばよいでしょうか。
日本の○○大学に合格するためには、高校の成績(=GPA)はどの程度必要かというようなご質問を受けることがあります。確かに米国の大学ではそれぞれ必要とするGPAの数値が示されています。ただし、日本の大学の場合にはそのような数値は示されていません。書類審査のみの秋入学の大学の選考では高校の成績が重視されるともいえますが、春入学の大学ではあまり合否には大きく影響していません。しかし、高校での成績が悪くてもよいかというとそうではありません。当然卒業に必要な単位が取得できなければ大学受験資格を失いますし、科目ごとの成績を見た際に極端に悪い成績があれば目立つため、面接でそこを指摘されたりします。
また、高校での学習は大学での学習の基礎にもなりますし、社会人としての教養にもなりますのでとても大切です。入試においても小論文作成のために必要な知識にもなりますし、日本の大学の入試問題の数学や理科の問題を解くときにも米国の高校で履修した数学や理科の知識が役に立ちます。さらに高校での学習は帰国生入試に必要な英語力の向上にもつながります。帰国生入試では出願の際にSATやACT、TOEFLなどのスコアが必要となる大学もあります。これらのスコアアップのための英語力を上げるためには高校での学習が重要です。多様な科目を英語で学習しているのですから、自然に英語力を上げるのには高校の授業や宿題で使った英語を着実に習得することが効率的です。
日本語での学力向上は必要不可欠
一方、日本語での学習もとても大切です。学科試験の科目の多くは日本語で出題され日本語で解答します。面接の質疑応答もほとんどが日本語です。入学後の講義やリポート・論文作成、定期テストなども同様です。日本の大学なのですから当然とも言えます。帰国生入試は9月初めから始まりますので、高校卒業後の準備期間は約2カ月しかありません。海外にいる今から日本語での学習を始めておかないと間に合いません。小論文の対策には時間がかかります。小論文は作文とは異なり、体験や感想だけではなく自分の意見を述べなければなりません。自分の意見を構築するためには豊富な知識が必要です。小論文で与えられるテーマや課題文、図表の内容は大学や受験する学部によって異なり、最近の時事問題が提示される大学・学部と学部の専門領域に関する問題が提示される大学とがあります。どちらかというと私立大では前者が多く、国公立大では後者が目立ちます。時事問題をテーマとする小論文作成のためには、社会で起こっているニュースに目を向ける必要があります。また、現代社会のキーワードとなっているグローバリゼーション、ナショナリズム、福祉国家、労働や貧困、女性の社会進出などに関する知識もほしいです。
一方で学部の専門領域をテーマとする小論文作成のためには、専門領域に関する書籍や雑誌などを積極的に読むことが必要です。学識者の論文を掲載している新書を読むこともよいですが、志望する専門分野に関係がある内容で興味が持てる書籍を多数読むことをお勧めします。例えば理科系志望者なら科学雑誌、経済系志望者ならば経済誌を読むのもよいでしょう。日本語書籍や雑誌が入手できなければ英語のものを読んでも構いません。まずは知識を増やすことの方が大切です。また、新聞やテレビなどで報道されている学問領域に関連するニュースもキャッチしておきましょう。
そして、知識を得るだけではなく、書籍に書かれている事象や筆者の意見、キャッチしたニュースについて問題意識を持ち、自分の意見を考えることを習慣づけましょう。それが小論文作成に大切な自分の意見を論ずることのできる力を養うことにつながります。
理科系学部志望者にとっては、数学と理科の学力も必要です。数学や理科は現地校でも学んでいますが、日本の高校の数学や理科の教科書や参考書、問題集に目を通し、そこで使われている日本語の用語や問題の解き方に慣れることが大切です。また、米国の高校では履修していない分野があるかどうかを知っておくことも必要です。帰国生入試の英語は、TOEFL形式で出題する大学が目立ちますが、中には国内生と同一問題を使用する大学もあります。この場合、日本の大学受験英語=高校英語を学習せねばなりません。過去の入試問題に目を通し、出題傾向を把握して対策をする必要があります。
志望大学や学部について知ることも重要
もう一つ大切なことは、志望する大学や学部のことを十分に理解しておくことです。帰国生入試ではほとんどの大学で面接があります。また、出願書類として「志望理由書」を提出させる大学もあります。なぜその大学や学部に入学したいのかという理由を説得力あるものにするため、志望する大学や学部に関する情報収集をしましょう。
大学のウェブサイトを訪問すれば、多種多様な情報がキャッチできます。これも海外にいる今からできることの一つです。このように米国にいるときからすべきことは多数ありますので、帰国が迫ってから慌てることのないように早めに準備を進めるといいですね。
執筆者/ 河合塾 海外帰国生コース 北米事務所 丹羽 筆人
河合塾で十数年間にわたり、大学入試データ分析、大学情報の収集・ 提供、大学入試情報誌「栄冠めざして」などの編集に携わるとともに、 大学受験科クラス担任として多くの塾生を大学合格に導いた。また、 現役高校生や保護者対象の進学講演も多数行った。一方、米国・英国 大学進学や海外サマーセミナーなどの国際的企画も担当。1999年に米国移住後は、CA、NJ、NY、M I 州の補習校・学習塾講師を務めた。2006年に「米日教育交流協 議会(UJEEC)」を設立し、日本での日本語・日本文化体験学習プログラム「サマー・キャンプ in ぎふ」など、国際的な交流活動を実践。さらに、河合塾海外帰国生コース北米事務所アドバイザ ーとして帰国生大学入試情報提供と進学相談も担当し、北米各地での進学講演も行っている。 また、文京学院大学女子中学校・高等学校北米事務所アドバイザー、名古屋国際中学校・高等 学校アドミッションオフィサー北米地域担当、デトロイトりんご会補習授業校講師も務めている。
<問い合わせ先>
河合塾北米事務所 1-866-460-1023 E-mail:kikoku@ujeec.org
米国で学んでいる高校生が日本の大学を受験する場合、帰国生入試を利用できます。この入試では、海外での在学年数や海外の高校の卒業の有無、各国の大学入学資格試験の合格やスコア(米国ではSATやACT、TOEFLなどのスコア)など、大学ごとに異なった条件を定めています。また、秋入学の大学では北米の大学と同様に高校の成績や推薦書、大学入学資格試験の合格やスコアなどの書類審査のみで合否が判定されますが、春入学の大学では書類の提出に加え、学科試験が課されるケースが目立ちます。学科試験の科目は大学・学部によって異なりますが、概ね文科系学部では小論文と英語、理科系学部では小論文と数学、理科が課されます。さらに多くの大学・学部で面接も行われます。
現地校の学習も入試対策として必要
では、帰国生入試に合格するためには、どのような準備をしておけばよいでしょうか。
日本の○○大学に合格するためには、高校の成績(=GPA)はどの程度必要かというようなご質問を受けることがあります。確かに米国の大学ではそれぞれ必要とするGPAの数値が示されています。ただし、日本の大学の場合にはそのような数値は示されていません。書類審査のみの秋入学の大学の選考では高校の成績が重視されるともいえますが、春入学の大学ではあまり合否には大きく影響していません。しかし、高校での成績が悪くてもよいかというとそうではありません。当然卒業に必要な単位が取得できなければ大学受験資格を失いますし、科目ごとの成績を見た際に極端に悪い成績があれば目立つため、面接でそこを指摘されたりします。
また、高校での学習は大学での学習の基礎にもなりますし、社会人としての教養にもなりますのでとても大切です。入試においても小論文作成のために必要な知識にもなりますし、日本の大学の入試問題の数学や理科の問題を解くときにも米国の高校で履修した数学や理科の知識が役に立ちます。さらに高校での学習は帰国生入試に必要な英語力の向上にもつながります。帰国生入試では出願の際にSATやACT、TOEFLなどのスコアが必要となる大学もあります。これらのスコアアップのための英語力を上げるためには高校での学習が重要です。多様な科目を英語で学習しているのですから、自然に英語力を上げるのには高校の授業や宿題で使った英語を着実に習得することが効率的です。
日本語での学力向上は必要不可欠
一方、日本語での学習もとても大切です。学科試験の科目の多くは日本語で出題され日本語で解答します。面接の質疑応答もほとんどが日本語です。入学後の講義やリポート・論文作成、定期テストなども同様です。日本の大学なのですから当然とも言えます。帰国生入試は9月初めから始まりますので、高校卒業後の準備期間は約2カ月しかありません。海外にいる今から日本語での学習を始めておかないと間に合いません。小論文の対策には時間がかかります。小論文は作文とは異なり、体験や感想だけではなく自分の意見を述べなければなりません。自分の意見を構築するためには豊富な知識が必要です。小論文で与えられるテーマや課題文、図表の内容は大学や受験する学部によって異なり、最近の時事問題が提示される大学・学部と学部の専門領域に関する問題が提示される大学とがあります。どちらかというと私立大では前者が多く、国公立大では後者が目立ちます。時事問題をテーマとする小論文作成のためには、社会で起こっているニュースに目を向ける必要があります。また、現代社会のキーワードとなっているグローバリゼーション、ナショナリズム、福祉国家、労働や貧困、女性の社会進出などに関する知識もほしいです。
一方で学部の専門領域をテーマとする小論文作成のためには、専門領域に関する書籍や雑誌などを積極的に読むことが必要です。学識者の論文を掲載している新書を読むこともよいですが、志望する専門分野に関係がある内容で興味が持てる書籍を多数読むことをお勧めします。例えば理科系志望者なら科学雑誌、経済系志望者ならば経済誌を読むのもよいでしょう。日本語書籍や雑誌が入手できなければ英語のものを読んでも構いません。まずは知識を増やすことの方が大切です。また、新聞やテレビなどで報道されている学問領域に関連するニュースもキャッチしておきましょう。
そして、知識を得るだけではなく、書籍に書かれている事象や筆者の意見、キャッチしたニュースについて問題意識を持ち、自分の意見を考えることを習慣づけましょう。それが小論文作成に大切な自分の意見を論ずることのできる力を養うことにつながります。
理科系学部志望者にとっては、数学と理科の学力も必要です。数学や理科は現地校でも学んでいますが、日本の高校の数学や理科の教科書や参考書、問題集に目を通し、そこで使われている日本語の用語や問題の解き方に慣れることが大切です。また、米国の高校では履修していない分野があるかどうかを知っておくことも必要です。帰国生入試の英語は、TOEFL形式で出題する大学が目立ちますが、中には国内生と同一問題を使用する大学もあります。この場合、日本の大学受験英語=高校英語を学習せねばなりません。過去の入試問題に目を通し、出題傾向を把握して対策をする必要があります。
志望大学や学部について知ることも重要
もう一つ大切なことは、志望する大学や学部のことを十分に理解しておくことです。帰国生入試ではほとんどの大学で面接があります。また、出願書類として「志望理由書」を提出させる大学もあります。なぜその大学や学部に入学したいのかという理由を説得力あるものにするため、志望する大学や学部に関する情報収集をしましょう。
大学のウェブサイトを訪問すれば、多種多様な情報がキャッチできます。これも海外にいる今からできることの一つです。このように米国にいるときからすべきことは多数ありますので、帰国が迫ってから慌てることのないように早めに準備を進めるといいですね。
執筆者/ 河合塾 海外帰国生コース 北米事務所 丹羽 筆人
河合塾で十数年間にわたり、大学入試データ分析、大学情報の収集・ 提供、大学入試情報誌「栄冠めざして」などの編集に携わるとともに、 大学受験科クラス担任として多くの塾生を大学合格に導いた。また、 現役高校生や保護者対象の進学講演も多数行った。一方、米国・英国 大学進学や海外サマーセミナーなどの国際的企画も担当。1999年に米国移住後は、CA、NJ、NY、M I 州の補習校・学習塾講師を務めた。2006年に「米日教育交流協 議会(UJEEC)」を設立し、日本での日本語・日本文化体験学習プログラム「サマー・キャンプ in ぎふ」など、国際的な交流活動を実践。さらに、河合塾海外帰国生コース北米事務所アドバイザ ーとして帰国生大学入試情報提供と進学相談も担当し、北米各地での進学講演も行っている。 また、文京学院大学女子中学校・高等学校北米事務所アドバイザー、名古屋国際中学校・高等 学校アドミッションオフィサー北米地域担当、デトロイトりんご会補習授業校講師も務めている。
<問い合わせ先>
河合塾北米事務所 1-866-460-1023 E-mail:kikoku@ujeec.org