
東日本大震災から2年経過した2013年3月11日、ミシガン大学のアジア言語文化学部日本語学科の教師らの企画によるメモリアルイベントがキャンパス内で開催された。会場には日本語クラスを履修しているミシガン大学の学生を中心に、外部からも人が訪れ、2時間半にわたって被災地の経過や支援の情報を学び合った。
イベントは “LIGHT UP NIPPON” と題する映画の上映でスタートした。これは、「東北を、日本を、花火で元気に」をスローガンに、東日本大震災から5カ月後の2011年8月11日、地元の多くの人々の協力を得て、東北の太平洋沿岸10ヵ所で一斉に花火を打上げたプロジェクト「LIGHT UP NIPPON」に密着したドキュメンタリー映画。一人の想いから始まり、被災地の人々の声を聴きつつプロジェクトを実現するまでを辿っており、想像を超す惨状や人々の迷いや願いが伝わる。映画の終盤で花火を見つめる人々の表情が印象的であると同時に、直接的な支援でなくとも、様々な応援の形が存在することが認識できた。
尚、この日上映された英語版“LIGHT UP NIPPON — Recovery from the Great East Japan Earthquake”(英語の字幕とナレーター付き)は You Tube で視聴が可能。また、追悼の意をこめた花火大会は2012年にも開催され、今後も継続してゆく予定で募金活動が続けられている。http://lightupnippon.jp/
上映後、岡まゆみ日本語学科長が、
「震災によって多くの命が奪われ、現在も32万人の方々が避難生活をおくっている。このイベントを通して少しでも被災者の方々の気持ちに寄り添うことができ、また、ミシガンから何を発信できるかを考える機会になれば。」と伝えた。
続いて支援に関する以下の5つのトークが行われた。
1.被災者が撮影した写真と声“Photo Voice”プロジェクト
“Photo Voice”はミシガン大学(社会福祉学)吉浜美恵子教授が被災者の声を収集するために行なっている参加型プロジェクトである。被災地の女性達が自分自身の経験に照らし合わせて、地震や津波、原発事故に関する写真を撮影し、その写真に撮影者自身の心情を綴った言葉が添えられている。言葉だけ、あるいは写真だけでは伝わりにくいことを社会に発信する手法である。また、心情を言葉にして吐き出すことでセラピー的な役割も期待できる。昨年、大震災1周年に合わせて、“Photo Voice”をパネルにした写真展が同学内で開催されたが、今回ミシガン大学の日本語翻訳実習コースの学生達が翻訳した英語を添えた20作品が展示され、担当教官の望月良浩講師と学生(Mr.Sklyar)がプロジェクトの概要と翻訳プロセスについて解説した。「被災した人々は『(大震災を)風化させないで欲しい』と願っている。問題提起になり、考える機会になれば幸い」と結んだ。
英訳は協働的に何重ものプロセスを経て多くの時間をかけて行われ、原文の声を発した被災者の思いをより反映した翻訳をするために、学生達は被災や避難の状況を学び気持ちを推し測ったという。“Photo Voice”は現在も推進中で、英訳を添える作業も継続してゆく。
2.ミシガンでの「保養キャンプ」 “Michigan Hope”プロジェクト
実行委員の一人である宮本正子氏が震災直後の3月に岩手県宮古市を訪れた時に見た絶望的な風景、また、2012年に福島県郡山市を訪れた際に遭遇した子供たちの体力や気持ちが消耗している現状を伝えた。子ども達が放射能と先の見えないストレスから離れて安全な所で思いっきり遊ぶ大切さを説き、被災青少年を対象としたミシガンでのキャンプを企画している“Michigan Hope”の意図を伝えた。Michigan Hope は1人でも多くの青少年の渡航を可能にするために助成金を集め、人的ならびに経済的支援を募っているが、日本語も英語も堪能な学生達には、滞在中の子ども達がアナーバーで活動する時の遊び相手を務めるボランティアをして欲しいと呼び掛けた。現在の予定ではキャンプは今夏7月下旬から約2週間。20~25人の中高生が来訪する見込み。
Michigan Hope ホームページ:https://sites.google.com/site/michiganhope13
問い合わせはEmail : michiganhope2012@gmail.com
3.広島大学の日本語教師による 東北視察と広島における避難支援
ミシガン大学にリサーチのため来米中の広島大学大学院生3人が、日本語学習1年目の学生にも分かりやすい日本語で被災状況と避難に関して説明。
一人は、大震災から1年後の4月末に岩手県の陸前高田や気仙沼を視察した時の写真に解説を加え、町があった所が浜辺のように何も無くなっている状態などを提示し、「ボランティアをしたわけではないが、現地の人が『一番嬉しいのは人が来てくれること。知って欲しい。来ることが支援だ』と言ってくれた」と述べた。また別の教師からは、広島県での被災者受け入れ状況や支援について説明があり、「予想以上に復興に時間が掛かっており、大事なことは関心を持ち続けることである」と言葉を加えた。
4.環境省職員による福島における除染作業についての講話
ミシガン大学のFord School of Public Policy(公共政策大学院)に籍を置く環境省の職員の栗栖雅宜氏より、放射性物質についての簡単な概説と、福島県における除染の取り組みに関して多数の資料と除染作業の写真を示しながら解説があった。終わりに福島県の復興再生の基盤になるのが除染であると語った。
5.留学中の有名水泳選手のボランティア談
現在ミシガン大学の水泳チームで練習するために留学中の古賀淳也選手が自身のボランティアについて語った。
古賀選手は早稲田大学時代にアジア大会男子50m背泳ぎで優勝。北京五輪の出場を逃したものの、2009年の世界水泳選手権男子100m背泳ぎで日本新記録で優勝するなど輝かしい成績を収めている。震災直後、ボランティアに関するウェブサイト Volunteer Japan を仲間と立ち上げ、著名であることを生かして新聞やテレビも使って多くの人に情報を発信。Volunteer Japan は、復興の力になりたい支援者と復興団体とのマッチングを主に、被災者と支援者お互いにとって豊かなボランティアが長期的に持続されることを目指し活動している。 http://volunteerjapan.jp/
「僕は水泳選手なので、水泳を通して希望を与えたい」と朗らかに言い放ったのが印象的であった。このイベントの参加者たちに、それぞれが自分に出来ることは一体何かを考える、今後への課題を提起してくれたことであろう。
トークの後には、地震に苦しむ日本を助けてくれた世界に贈る 「ありがとう」 ビデオ “Arigato from Japan Earthquake Victims”<http://www.youtube.com/watch?v=SS-sWdAQsYg>が映し出された。英語字幕が付けられたこのビデオは、3月11日の地震発生と津波の様子から始まり、宮城県石巻市で英語教師をしていたテイラーさんに焦点が当てられる。地震直後、生徒たちを励まして避難させ、保護者が迎えに来るまで生徒の傍を離れなかったテイラーさんは、その後アパートに戻り津波に襲われ帰らぬ人となった。優しい先生への想いを生徒たちが語り、「我々を助けてくれたのはテイラー先生だけではなかった。本当にたくさんの人達が遠くからやって来てくれた」というメッセージと支援の映像に続き、世界の色々な言語で「ありがとう」「私たちは先生のことを、皆さんのことを決して忘れない」と感謝の声を伝えている。You Tubeで視聴できるので、支援してくれた当地の人々にぜひ紹介したいビデオである。 イベントの終盤はパフォーマンスタイムとなり、榊原芳美講師が指導するミシガン大学メディア日本語コースの学生達が「スコップ団」というボランティアグループの団長の言葉、及び和合亮一の詩を日本語で朗読披露した。プログラムの締めくくりは日本の歌の演奏。日本人ビジネスマン4人組“ロートルズ”が、震災後に人々を元気づけるため各地で頻繁に歌われた「希望という名の光」(山下達郎作詞作曲)、「見上げてごらん夜の空を」などを届けた。最後は春の到来への喜びを表現している「春が来た」を参席者全員が口ずさみ、穏やかな雰囲気の中、お開きとなった。
東日本大震災から2年経過した2013年3月11日、ミシガン大学のアジア言語文化学部日本語学科の教師らの企画によるメモリアルイベントがキャンパス内で開催された。会場には日本語クラスを履修しているミシガン大学の学生を中心に、外部からも人が訪れ、2時間半にわたって被災地の経過や支援の情報を学び合った。
イベントは “LIGHT UP NIPPON” と題する映画の上映でスタートした。これは、「東北を、日本を、花火で元気に」をスローガンに、東日本大震災から5カ月後の2011年8月11日、地元の多くの人々の協力を得て、東北の太平洋沿岸10ヵ所で一斉に花火を打上げたプロジェクト「LIGHT UP NIPPON」に密着したドキュメンタリー映画。一人の想いから始まり、被災地の人々の声を聴きつつプロジェクトを実現するまでを辿っており、想像を超す惨状や人々の迷いや願いが伝わる。映画の終盤で花火を見つめる人々の表情が印象的であると同時に、直接的な支援でなくとも、様々な応援の形が存在することが認識できた。
尚、この日上映された英語版“LIGHT UP NIPPON — Recovery from the Great East Japan Earthquake”(英語の字幕とナレーター付き)は You Tube で視聴が可能。また、追悼の意をこめた花火大会は2012年にも開催され、今後も継続してゆく予定で募金活動が続けられている。http://lightupnippon.jp/
上映後、岡まゆみ日本語学科長が、
「震災によって多くの命が奪われ、現在も32万人の方々が避難生活をおくっている。このイベントを通して少しでも被災者の方々の気持ちに寄り添うことができ、また、ミシガンから何を発信できるかを考える機会になれば。」と伝えた。
続いて支援に関する以下の5つのトークが行われた。
1.被災者が撮影した写真と声“Photo Voice”プロジェクト
“Photo Voice”はミシガン大学(社会福祉学)吉浜美恵子教授が被災者の声を収集するために行なっている参加型プロジェクトである。被災地の女性達が自分自身の経験に照らし合わせて、地震や津波、原発事故に関する写真を撮影し、その写真に撮影者自身の心情を綴った言葉が添えられている。言葉だけ、あるいは写真だけでは伝わりにくいことを社会に発信する手法である。また、心情を言葉にして吐き出すことでセラピー的な役割も期待できる。昨年、大震災1周年に合わせて、“Photo Voice”をパネルにした写真展が同学内で開催されたが、今回ミシガン大学の日本語翻訳実習コースの学生達が翻訳した英語を添えた20作品が展示され、担当教官の望月良浩講師と学生(Mr.Sklyar)がプロジェクトの概要と翻訳プロセスについて解説した。「被災した人々は『(大震災を)風化させないで欲しい』と願っている。問題提起になり、考える機会になれば幸い」と結んだ。
英訳は協働的に何重ものプロセスを経て多くの時間をかけて行われ、原文の声を発した被災者の思いをより反映した翻訳をするために、学生達は被災や避難の状況を学び気持ちを推し測ったという。“Photo Voice”は現在も推進中で、英訳を添える作業も継続してゆく。
2.ミシガンでの「保養キャンプ」 “Michigan Hope”プロジェクト
実行委員の一人である宮本正子氏が震災直後の3月に岩手県宮古市を訪れた時に見た絶望的な風景、また、2012年に福島県郡山市を訪れた際に遭遇した子供たちの体力や気持ちが消耗している現状を伝えた。子ども達が放射能と先の見えないストレスから離れて安全な所で思いっきり遊ぶ大切さを説き、被災青少年を対象としたミシガンでのキャンプを企画している“Michigan Hope”の意図を伝えた。Michigan Hope は1人でも多くの青少年の渡航を可能にするために助成金を集め、人的ならびに経済的支援を募っているが、日本語も英語も堪能な学生達には、滞在中の子ども達がアナーバーで活動する時の遊び相手を務めるボランティアをして欲しいと呼び掛けた。現在の予定ではキャンプは今夏7月下旬から約2週間。20~25人の中高生が来訪する見込み。
Michigan Hope ホームページ:https://sites.google.com/site/michiganhope13
問い合わせはEmail : michiganhope2012@gmail.com
3.広島大学の日本語教師による 東北視察と広島における避難支援
ミシガン大学にリサーチのため来米中の広島大学大学院生3人が、日本語学習1年目の学生にも分かりやすい日本語で被災状況と避難に関して説明。
一人は、大震災から1年後の4月末に岩手県の陸前高田や気仙沼を視察した時の写真に解説を加え、町があった所が浜辺のように何も無くなっている状態などを提示し、「ボランティアをしたわけではないが、現地の人が『一番嬉しいのは人が来てくれること。知って欲しい。来ることが支援だ』と言ってくれた」と述べた。また別の教師からは、広島県での被災者受け入れ状況や支援について説明があり、「予想以上に復興に時間が掛かっており、大事なことは関心を持ち続けることである」と言葉を加えた。
4.環境省職員による福島における除染作業についての講話
ミシガン大学のFord School of Public Policy(公共政策大学院)に籍を置く環境省の職員の栗栖雅宜氏より、放射性物質についての簡単な概説と、福島県における除染の取り組みに関して多数の資料と除染作業の写真を示しながら解説があった。終わりに福島県の復興再生の基盤になるのが除染であると語った。
5.留学中の有名水泳選手のボランティア談
現在ミシガン大学の水泳チームで練習するために留学中の古賀淳也選手が自身のボランティアについて語った。
古賀選手は早稲田大学時代にアジア大会男子50m背泳ぎで優勝。北京五輪の出場を逃したものの、2009年の世界水泳選手権男子100m背泳ぎで日本新記録で優勝するなど輝かしい成績を収めている。震災直後、ボランティアに関するウェブサイト Volunteer Japan を仲間と立ち上げ、著名であることを生かして新聞やテレビも使って多くの人に情報を発信。Volunteer Japan は、復興の力になりたい支援者と復興団体とのマッチングを主に、被災者と支援者お互いにとって豊かなボランティアが長期的に持続されることを目指し活動している。 http://volunteerjapan.jp/
「僕は水泳選手なので、水泳を通して希望を与えたい」と朗らかに言い放ったのが印象的であった。このイベントの参加者たちに、それぞれが自分に出来ることは一体何かを考える、今後への課題を提起してくれたことであろう。
トークの後には、地震に苦しむ日本を助けてくれた世界に贈る 「ありがとう」 ビデオ “Arigato from Japan Earthquake Victims”<http://www.youtube.com/watch?v=SS-sWdAQsYg>が映し出された。英語字幕が付けられたこのビデオは、3月11日の地震発生と津波の様子から始まり、宮城県石巻市で英語教師をしていたテイラーさんに焦点が当てられる。地震直後、生徒たちを励まして避難させ、保護者が迎えに来るまで生徒の傍を離れなかったテイラーさんは、その後アパートに戻り津波に襲われ帰らぬ人となった。優しい先生への想いを生徒たちが語り、「我々を助けてくれたのはテイラー先生だけではなかった。本当にたくさんの人達が遠くからやって来てくれた」というメッセージと支援の映像に続き、世界の色々な言語で「ありがとう」「私たちは先生のことを、皆さんのことを決して忘れない」と感謝の声を伝えている。You Tubeで視聴できるので、支援してくれた当地の人々にぜひ紹介したいビデオである。 イベントの終盤はパフォーマンスタイムとなり、榊原芳美講師が指導するミシガン大学メディア日本語コースの学生達が「スコップ団」というボランティアグループの団長の言葉、及び和合亮一の詩を日本語で朗読披露した。プログラムの締めくくりは日本の歌の演奏。日本人ビジネスマン4人組“ロートルズ”が、震災後に人々を元気づけるため各地で頻繁に歌われた「希望という名の光」(山下達郎作詞作曲)、「見上げてごらん夜の空を」などを届けた。最後は春の到来への喜びを表現している「春が来た」を参席者全員が口ずさみ、穏やかな雰囲気の中、お開きとなった。