<!--:en-->Kendo World Champion Visits USA<!--:--><!--:ja-->剣道世界選手権大会のチャンピオン訪米<!--:--> 6

  デトロイトで特別セミナー開催

 去る12月12日(水)、2012年第15回剣道世界選手権大会のチャンピオン高鍋進 剣道錬士六段を迎えて、スクールクラフトカレッジ(Livonia,MI)体育館を会場にして特別セミナーが開催された。

 この稀な機会は全米剣道連盟(All United States Kendo Federation)のアレンジによるもので、世界チャンピオンに指導をしてもらう為に、また、制覇したお祝いを兼ねて米国を見て回ってもらうために髙鍋氏を招待して実現した。今回の指導ツアーで髙鍋氏は東海岸4カ所(ニューヨーク、ワシントンDC、デトロイト、シカゴ)を回り、剣士たちに技や心得を教示した。デトロイトでのセミナーには、平日の夕方(6:45pm)からの開始にも関わらず、ホストを務めたデトロイト剣道道場をはじめ、州外から駆けつけた人を含めて55名が参加した。

 セミナーは講演の形式ではなく、髙鍋氏の「自分は現役選手なので、論じるより見せることが一番と考えている」との考えのもと、防具を付けた合同練習が大半を占めた。上級者に大切なこととして、切り返しを早くして手の内を知られないようにするなど、勝つための具体的な技や考え方を惜しげなく伝授した。2人組での打ち合い練習を見た後には「声が小さい」と指摘。声も打ち込みも、試合や審査と同じように100%を出す大切さを示唆した。

 後半には髙鍋氏が参加者と順々に手合わせをする時間も設けられ、子供たちに対しては切り返しの相手を務めた。デトロイト道場に所属する少女に感想を尋ねたところ、「チャンピオンと手合わせできてとっても嬉しい!」「強いけれど、優しかった」と顔を輝かせて答えた。ミシガンステイト大学の学生は「Amazing!! So fast! So accurate! すごく早くて正確で、驚きました」と興奮を交えて称賛し、「2時間だがとても多くのことを学んだ」と実りを確信していた。オハイオ州のクリブランドに研究留学中の日本人男性は「30年以上剣道をしているが、日本ではこんなチャンスは無かった。感無量です」と機会に恵まれた感激に加えて、「学びが多かった。技術だけでなく人間性が伝わり、惹かれた。特に、『100%で』という言葉は、剣道だけではなく、人生に生かしていける教訓として心に響いた」と感想を話してくれた。

 セミナー後、懇親会を兼ねた食事の場では、技や精神面についての質問が続々と寄せられ、髙鍋氏はそれに対して丁寧に真摯に回答したとのこと。

 髙鍋氏は次の日には在デトロイト総領事公邸に招かれ、デトロイト剣道道場の長である田川氏(八段教士)並びに関係者も参席した。日本、米国、そして世界における剣道の現状や展望について熱が入った会話が交わされた。

第15回剣道世界選手権大会のチャンピオン 高鍋進 剣道錬士六段 インタビュー

東海岸4カ所を回る日程の貴重な時間の中、デトロイト剣道道場の長である田川順照氏(剣道教士八段)と共にインタビューに応じていただいた。

田川教士八段は世界選手権大会の審判を務めているが、高鍋氏の強さについて「面の速さは世界一」と語る。

Q. まず、デトロイトでのセミナーの感想をお聞かせください。  

髙鍋氏:熱心で一生懸命で、こちらが勉強になりました。

Q:剣道の部外者からみると、剣道は日本の伝統武術なので、日本が突出して強く、日本人がチャンピオンで当然と考えがちですが。

髙鍋氏:日本の強さは抜きん出ていますが、剣道は一発勝負なので何が起こるか分からないものです。体で組み合う柔道などは実力の違いは歴然としますが、剣道は竹刀の空中での一瞬のことなので、ちょっとしたことで勝負がひっくり返ります。

田川氏:そこが剣道の特徴であり、日本古来の武道精神と形を今も受け継いでいる唯一の武道といえます。体重による階級もありませんからね。

Q. 全日本剣道選手権大会、全国警察剣道選手権大会を何度となく制覇しておられますが、世界選手権大会となると「日本を背負う」といった重さがあるのでしょうか?

髙鍋氏:それはないです。目の前の相手に全力で挑むことが全てです。とはいえ、「日本人が勝たなくては」という(日本剣道界の)期待があるので、プレッシャーはあります。

田川氏:決勝戦というのは、全日本大会でもそうですが、全くと言っていいほど、場の空気が変わるんです。緊張感が違います。そこで力を発揮できるのが素晴らしいことです。

Q:セミナー中に語られた「練習も100%でやる」という言葉が印象的でしたが、世界一を目指すために自分に課していることは?

髙鍋氏:世界一になろうという目標はなかったのですが、日本一を目指して、厳しい練習を続けるために、日常生活のなかでも不要なことは省かれています。現在は選手として剣道の練習に存分に時間を費やせるという恵まれた状態ですが、環境が良いからこそ甘えずに厳しくやり続けることが難しいですね。

Q:座右の銘、または信条は?

髙鍋氏:『克己心』です。だれることなく自分に厳しくし続けるよう心がけています。

Q:田川八段剣士からチャンピオンへ期待することは?

田川氏:高鍋剣士は剣道の本道をやっているので、それを広く伝えて欲しい。「生涯剣道」と言いますが、試合の剣道はあくまでも一つのステージ。鍛錬し続けなくてはいけない、終わりのない道です。選手としてもう一頑張りしてもらったら、今後はコーチ、そしていずれは指導者へと進んで、違うステージで鍛錬、研鑽し続け、剣道を支えて欲しいと願っています。

髙鍋氏:頑張り続けたいと思います。田川先生がおっしゃるように、世界チャンピオンは一つの過程です。これから自分の剣道を探っていきます。チャンピオンになったお蔭で、今回のようにアメリカを見て回る機会を与えて頂いたり色々な方や先輩方の話を伺うことができたり、貴重な経験を得ています。たいへん有難いと感じています。それも糧にして精進していきます。

Q:最後に、剣道チャンピオンから、若い剣士、そして剣道に限らず高みを目指している人々へのメッセージをお願いします。

髙鍋氏:私も初めから素質とか何かが備わっていたのではなく、あきらめずに練習を続けたからこそできたことです。めげずに追求していったらきっと何かを達成できると信じています。

レポーター:ありがとうございました。更なるご活躍を楽しみにしています。

髙鍋進氏 経歴

 1976年熊本県熊本市に生まれ、1984年、兄の影響で剣道を始める。熊本市立楠中学校で大将を務め、1991年に九州チャンピオンに。PL学園高等学校、筑波大学体育学群を経て、神奈川県警察に奉職。現在鶴見警察署所属の警部補であり、全日本剣道連盟錬士六段で、術科特別訓練剣道主将を務めている。2012年世界剣道選手権大会(イタリア大会)優勝のほか、全日本剣道選手権大会優勝(2010年と2011年に2連覇)、全国警察剣道選手権大会4回優勝など、輝かしい実績を重ねている。

 高鍋氏の面は決まるまでの速さ約0.1秒。現役選手の中では最速と言われている。