
ミシガン大学日本語クラスの学生を対象にいけばな
去る2012年11月9日、ミシガン大学日本語学科で‘いけばな’の特別課外ワークショップが開かれた。講師は小原流いけばな一級家元教授であり、いけばなの学術論文で授与された初の芸術学博士でもある鈴木榮子氏。氏は日本航空に国際線スチュワーデスとして勤務した後、カナダ・アメリカでの滞在を経て広島に帰国後、英語によるいけばな教室を開始。いけばなの指導や実演を通して日本の文化を伝えたり、国際的なイベントでいけ花(アレンジメント)を担当するなど、国内外で活躍している。
今回の講演では、まず、花をアレンジして楽しむことは世界中でポピュラーである中、日本のいけばなのユニークな点として家元制度があることを説明。また、いけばなは単に形ではなく、その核には「生かす」という精神があることを説いた。
鈴木先生やサポートを務めた人々が事前に生けた多数のアレンジメントを紹介しながら、それぞれの花の美しさを最大限に生かすために、高さや向き、色やサイズの組み合わせや位置に配慮があることを示した。これらの材料は、鈴木先生の「身近な植物をいける」との考えの元、滞在先の周辺でススキや枝などを採取し、それらに合う花を当地の花屋で購入して揃えた。庭や身近にある自生の植物も選ぶ目があれば素晴らしいマテリアルに成り得ることに、参加者から感嘆の声があがった。また、四季がある日本では一つの植物に四つの顔があり、日本的な美意識では枯れた花や枝にもそれなりの良さを感じてそのものを愛でることも話した。そして、これらを「まっとうさせる」ために、茎を切る時には葉のすぐ上で切っておけば後で利用する=生かすことができることを教示。更に、「いかす」精神は、人との関わり方にも通じていると説いた。
鈴木先生による解説を添えながらのいけばな実演の披露の後、学生たちはいけばなに挑戦。各自が持参したコーヒーマグなどを花器代わりにして、チューリップやバラなど数種の花や葉を思い思いにアレンジした。完成後は各作品を鈴木先生が批評し、位置をずらすことでどのように印象が変わるかを学生の意見を求めつつ比較して見せた。
参加者たちからは、「ほんのいくつかの花でも楽しむことが出来ると分かり、面白かった」「『生かす』考え方から多くのことを学んだ」など、の感想が寄せられた。参加者の一人であるエレンさんは、当地の花屋で働いた経験を持つ芸術専攻の学生だが、日本のいけばなのシンプルさに感銘したとのこと。実際に生ける過程を見、体験することができ、大いに心惹かれたと話してくれた。
日本文化の紹介に留まらない、内容の豊かな講演であった。
補習授業校で礼儀について講義と実習
11月10日には、デトロイトりんご会補習授業校の中学生と高校生を対象に「日本人の誇りをもつ:礼儀作法をチェック!」と題して、日本の礼儀作法に関する講演が行われた。
君島学校長は鈴木先生の紹介に続いて、「知らないと失礼なことがある」「日本人、日本の文化について、また、会社や世界から求められていることをこの機会に学んでほしい」など、学習の目的を示し意欲を喚起した。
鈴木氏は冒頭、「海外で学ぶ皆さんは、言語スキルだけでなく、グローバルにものを見ることが出来、そして自分の考えをしっかり持って意見を言うなどの特質を持つことが出来る」とプラスの面に言及した後、グローバル社会で生きる真の国際人として、母なる国を持つことが大切であり、それには日本語力のみならず、日本の文化や日本的マナーを知ることが肝要であると告げた。
日本には「いかし合う」文化があり、海に浮かぶ鳥居と社殿で知られる厳島神社を有する宮島を例えにして自然と造形物の調和にみられる「ともに生きる」という文化、そして日本の陶芸での「ゆがんだ所も生かす」という考え、相撲で負けた人に手を差し出す「一緒に生きている」という思いなど、具体的な話を挙げた。その底流には、対象が物であれ人であれ、「思いやり」を尊ぶ考えがあり、それが日本的な礼儀や作法に繋がっていると説明した。
講話の後に行われた実践ではまず、世界に共通するマナー五原則として、表情・挨拶(言葉、遣り方)・態度(良い姿勢)・身だしなみ(衣類の整え方、清潔感)・そして言葉づかいが相手に対して心地良いものであるように諭した。挨拶や言葉遣いに敬う心をもつことが大切であると話した後、生徒一同、好感を与える笑顔の練習に取り組んだ。
日本のマナーに関する実技練習では、良い姿勢をするには背筋を伸ばすのがコツであることや、礼(おじぎ)の角度やスピード(ゆっくりと体を起こすと丁寧な印象を与えること)を、鈴木先生が悪い例も見せて生徒に自覚を持たせながら指導。次に、代表生徒をモデルに物の授受のマナーとして、物は相手の安全や使いやすさに配慮し、書面は相手が読みやすい向きで渡すことを教示した。続いて「もったいない」の真意の講釈。3+1のRとして、Reduce:ゴミの減少、Reuse:再利用、Recycle:再生の3つのR、それらの根底にある4つ目のR、Respectを示した。リスペクトとは人と物への思いやりの心であり、「いかさないのはもったいないことである」と話した。
最後に、生徒へのメッセージとして、「皆さんは日本にいる人ができない大きな経験をしている。日本の文化を知り、日本人の誇りを持って世界に羽ばたき、今日話した『いかし合う』ことをベースに美しい日本人として活躍してください」とエールを送った。
☆ ☆ ☆
大学の講義や国内外での特別講演並びにテレビ出演や雑誌の取材など、多方面で活躍されている鈴木榮子先生によるミシガンでの講演が実現したのは、鈴木先生の弟子であり、補習授業校で講師を務めている伊藤隆子さんの橋渡しによる。いけばなを介した日本文化の知識と豊富な講演経験をもつ鈴木氏が当地の若者に刺激を与える場を提供してくれたことが実にありがたい。大勢の学生生徒がこの貴重な機会を生かし成長してゆくことであろう。
ミシガン大学日本語クラスの学生を対象にいけばな
去る2012年11月9日、ミシガン大学日本語学科で‘いけばな’の特別課外ワークショップが開かれた。講師は小原流いけばな一級家元教授であり、いけばなの学術論文で授与された初の芸術学博士でもある鈴木榮子氏。氏は日本航空に国際線スチュワーデスとして勤務した後、カナダ・アメリカでの滞在を経て広島に帰国後、英語によるいけばな教室を開始。いけばなの指導や実演を通して日本の文化を伝えたり、国際的なイベントでいけ花(アレンジメント)を担当するなど、国内外で活躍している。
今回の講演では、まず、花をアレンジして楽しむことは世界中でポピュラーである中、日本のいけばなのユニークな点として家元制度があることを説明。また、いけばなは単に形ではなく、その核には「生かす」という精神があることを説いた。
鈴木先生やサポートを務めた人々が事前に生けた多数のアレンジメントを紹介しながら、それぞれの花の美しさを最大限に生かすために、高さや向き、色やサイズの組み合わせや位置に配慮があることを示した。これらの材料は、鈴木先生の「身近な植物をいける」との考えの元、滞在先の周辺でススキや枝などを採取し、それらに合う花を当地の花屋で購入して揃えた。庭や身近にある自生の植物も選ぶ目があれば素晴らしいマテリアルに成り得ることに、参加者から感嘆の声があがった。また、四季がある日本では一つの植物に四つの顔があり、日本的な美意識では枯れた花や枝にもそれなりの良さを感じてそのものを愛でることも話した。そして、これらを「まっとうさせる」ために、茎を切る時には葉のすぐ上で切っておけば後で利用する=生かすことができることを教示。更に、「いかす」精神は、人との関わり方にも通じていると説いた。
鈴木先生による解説を添えながらのいけばな実演の披露の後、学生たちはいけばなに挑戦。各自が持参したコーヒーマグなどを花器代わりにして、チューリップやバラなど数種の花や葉を思い思いにアレンジした。完成後は各作品を鈴木先生が批評し、位置をずらすことでどのように印象が変わるかを学生の意見を求めつつ比較して見せた。
参加者たちからは、「ほんのいくつかの花でも楽しむことが出来ると分かり、面白かった」「『生かす』考え方から多くのことを学んだ」など、の感想が寄せられた。参加者の一人であるエレンさんは、当地の花屋で働いた経験を持つ芸術専攻の学生だが、日本のいけばなのシンプルさに感銘したとのこと。実際に生ける過程を見、体験することができ、大いに心惹かれたと話してくれた。
日本文化の紹介に留まらない、内容の豊かな講演であった。
補習授業校で礼儀について講義と実習
11月10日には、デトロイトりんご会補習授業校の中学生と高校生を対象に「日本人の誇りをもつ:礼儀作法をチェック!」と題して、日本の礼儀作法に関する講演が行われた。
君島学校長は鈴木先生の紹介に続いて、「知らないと失礼なことがある」「日本人、日本の文化について、また、会社や世界から求められていることをこの機会に学んでほしい」など、学習の目的を示し意欲を喚起した。
鈴木氏は冒頭、「海外で学ぶ皆さんは、言語スキルだけでなく、グローバルにものを見ることが出来、そして自分の考えをしっかり持って意見を言うなどの特質を持つことが出来る」とプラスの面に言及した後、グローバル社会で生きる真の国際人として、母なる国を持つことが大切であり、それには日本語力のみならず、日本の文化や日本的マナーを知ることが肝要であると告げた。
日本には「いかし合う」文化があり、海に浮かぶ鳥居と社殿で知られる厳島神社を有する宮島を例えにして自然と造形物の調和にみられる「ともに生きる」という文化、そして日本の陶芸での「ゆがんだ所も生かす」という考え、相撲で負けた人に手を差し出す「一緒に生きている」という思いなど、具体的な話を挙げた。その底流には、対象が物であれ人であれ、「思いやり」を尊ぶ考えがあり、それが日本的な礼儀や作法に繋がっていると説明した。
講話の後に行われた実践ではまず、世界に共通するマナー五原則として、表情・挨拶(言葉、遣り方)・態度(良い姿勢)・身だしなみ(衣類の整え方、清潔感)・そして言葉づかいが相手に対して心地良いものであるように諭した。挨拶や言葉遣いに敬う心をもつことが大切であると話した後、生徒一同、好感を与える笑顔の練習に取り組んだ。
日本のマナーに関する実技練習では、良い姿勢をするには背筋を伸ばすのがコツであることや、礼(おじぎ)の角度やスピード(ゆっくりと体を起こすと丁寧な印象を与えること)を、鈴木先生が悪い例も見せて生徒に自覚を持たせながら指導。次に、代表生徒をモデルに物の授受のマナーとして、物は相手の安全や使いやすさに配慮し、書面は相手が読みやすい向きで渡すことを教示した。続いて「もったいない」の真意の講釈。3+1のRとして、Reduce:ゴミの減少、Reuse:再利用、Recycle:再生の3つのR、それらの根底にある4つ目のR、Respectを示した。リスペクトとは人と物への思いやりの心であり、「いかさないのはもったいないことである」と話した。
最後に、生徒へのメッセージとして、「皆さんは日本にいる人ができない大きな経験をしている。日本の文化を知り、日本人の誇りを持って世界に羽ばたき、今日話した『いかし合う』ことをベースに美しい日本人として活躍してください」とエールを送った。
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大学の講義や国内外での特別講演並びにテレビ出演や雑誌の取材など、多方面で活躍されている鈴木榮子先生によるミシガンでの講演が実現したのは、鈴木先生の弟子であり、補習授業校で講師を務めている伊藤隆子さんの橋渡しによる。いけばなを介した日本文化の知識と豊富な講演経験をもつ鈴木氏が当地の若者に刺激を与える場を提供してくれたことが実にありがたい。大勢の学生生徒がこの貴重な機会を生かし成長してゆくことであろう。