全米で記録的な暑さだった夏も終わり、10月の声を聞くやいなやミシガンもこのところ急に木々の紅葉が目立ち始めました。早朝の凛とした冷たい空気と爽やかな秋晴れに照る錦の紅葉は大歓迎ですが、それに続いて落ち葉が舞う季節が過ぎるとまたあの長く寒い冬がやって来ます。私にとっては何年ミシガンに住んでも好きになれない『招かれざる客』ですが、個人の好き嫌いでどうにかなるものでもなく、ひたすら耐え忍ぶしかありません。

 スポーツの世界ではカレッジ・フットボールに続いてNFLプロフットボールもシーズン・イン。本職のレフリーのスト騒ぎで代役に起用された臨時雇いのレフリーのミスジャッジでシーズン早々ひと騒ぎありましたが、ストが解決して本職が復帰し正常に戻って何よりです。職場に戻った本職レフリーの一人が「レフリーは(ミスジャッジで)スタンディング・ブーイングを受ける事はあっても(正しいジャッジで)スタンディング・オべーションを受ける事はない」とポツリ一言が耳に残りました。NHLプロアイスホッケーは選手会のストで再びシーズン開催が危ぶまれており、レッドウィングスの本拠地ジョー・ルイス・アリーナ周辺の飲食店、遊興施設は大事な収入源を失う心配でやきもき。MLB地元タイガースは楽々優勝の前評判と異なり悪戦苦闘の末シーズン残り試合10を切ってからようやくALセントラルディビジョンの首位になり、本紙が発行される頃にはディビジョン優勝とプレイオフ進出が決定している事を願っています。

 前書きが長くなってしまいましたが、今回のテーマはその野球に関連して『バットを置く鉄人、ミットを納める釣り師』です。

 野球ファンの方はもちろん、多少なりともスポーツ関連ニュースに関心のある方はご存知と思いますが、日本で広島カープ、阪神タイガースで長年プレーして来た金本選手が今期限りで引退を発表しました。多少の怪我では休まなかった頑健な彼も昨年患った肩の故障が完治せず自分が納得できるプレーが出来なくなったのが理由ですが、元MLBボルチモア・オリオールズのカール・リプケン選手、元広島カープの衣笠選手と並んで『鉄人』と称された気迫溢れる雄姿を見れなくなるのは寂しく残念です。

 真面目な努力家で義理堅い性格の彼がプロ入り当初から長年世話になった広島カープを去り阪神タイガースに移籍した時は相当悩んだと思いますが、当時阪神の新任監督であった星野現楽天イーグルス監督にBクラスに甘んじ『半身不随タイガース』と陰口を叩かれていたチームの建て直しのリーダーとして働くように懇願され、見事建て直しを実現し優勝の原動力となったのは立派の一言です。その彼が唯一残念に思うのは「広島で優勝できなかった事」とのコメントからも彼の律儀な性格が伺えます。その鉄人が静かにバットを置きます。「お疲れ様。」

 もう一人今期限りで引退を発表したのがイチロー選手と一緒にMLBシアトル・マリナースでもプレーしていた同じ阪神タイガースの城島選手。契約を1年残しての引退は本意ではないでしょうが、彼もまた肘の故障、手術後の完治がならずリハビリをしながら2軍でプレーをしたり、一塁手へのコンバート案もあったものの本来のポジションである捕手として自分が納得できるプレーが出来ないのを善しとせず、捕手のままでミットを納める決心をしたものです。

 私は特に城島選手のファンではなかったので、つい先日まで知らなかったのですが、彼はプロ顔負けの釣り師と言うか相当の釣り気違いのようで、元チームメートのイチロー選手の談話では「一番好きなのが釣り、2番目が野球」とのことで「それであそこまでの野球選手になれたのは天才の一人」とも言ってました。引退を機に知らざる一面を垣間見てちょっと興味が湧いてしまいました。引退後は現役時代絶大なサポートをしてくれた奥さんの希望に合わせて「亭主元気で外がいい」で邪魔にならないように釣り三昧するか、家で奥さんの手伝いをするかと引退会見で述べていたので、見掛けによらず奥さん思い、家族思いの優しいところもあるのだなと思いました。その釣り師がミットを納めます。「お疲れ様。」

 この二人の引退発表から言えるのは「男は引き際が肝心」ということですね。

 一方で自分が好きな野球をもっと続けたい気持ちがあっても、他方で自分自身が納得できるプレーが出来なくなったら潔く辞める。家族やチーム、ファンなど周りの意見、希望、タイミングなどがありなかなか出来ない芸当ですが、両選手は見事にやってのけました。拍手、拍手。

 前号でも触れましたが、野球に限らず超一流の選手、その道のプロでも心・技・体のバランスを保ち、本番に合わせてコンディションをベストに持って行くことは至難の技です。それを常に繰り返し続けるのは並大抵の努力をしても不可能に近くまず出来ません。我々普通人としてはとても同じ様に真似は出来ませんが、職場や学校、家庭、日常の生活で現役の間は少しでも近づけるようにしたいものです。

 そう言えばもう一人、福岡ソフトバンク・ホークスに過去の数々の故障を押して今年2,000本安打を達成し、同じく今期限りで引退を発表した小久保という選手がいましたね。同姓というだけで姻戚関係は全くありませんが、彼の引き際はどうだったでしょうか?

 『生涯現役』を掲げる私も、引き際を考えて人並みの努力を続けたいと思います。

執筆者紹介:小久保陽三

Premia Partners, LLC (プレミア・パートナーズ・エルエルシー) パートナー。主に北米進出の日系企業向け経営・人事関連コンサルタント業務に従事。慶応義塾大学経済学部卒。愛知県の自動車関連部品・工業用品メーカーに入社後、化成品営業、社長室、総合開発室、米国ニューヨークの子会社、経営企画室、製品開発部、海外事業室、デトロイトの北米事業統括会社、中西部の合弁会社、WIN Advisory Group, Inc.勤務を経て現在に至る。外国企業との合弁契約、技術導入・援助契約、海外現地法人設立・立ち上げ・運営、人事問題取扱い経験豊富。06年7月より本紙に寄稿中。JBSD個人会員。