
国際社会で通用する資質を身につけたい~
日本の里山で毎年実施している日本語・日本文化体験学習プログラム「サマーキャンプ in ぎふ」(米日教育交流協議会主催)は7年目を迎えました。昨年は東日本大震災の影響もあり、申込者が13人と少なく1期間のみに縮小して実施しましたが、今年は募集した7月6日から19日の第1期は15人、7月27日から8月7日の第2期は11人の参加があり、予定通り実施することができました。
ここでは、今年のサマーキャンプでの活動を振り返り、在外子女教育について考えたことを述べようと思います。
その前に「サマーキャンプ in ぎふ」の概要を記します。
目的:海外に暮らし日本語学習中の子どもが日本の自然、文化、歴史に触れ、地元の人々と交流することによって日本語・日本文化を心と体で体感し、積極的に日本語を学習し、日本の生活習慣を習得しようとする心を育む。
主な体験内容:禅寺でのミニ修行、学校体験入学、ものつくり・食つくり体験、地元民家でのホームステイ、日本の子どもとの交流、自然の中での遊び体験、地場産業や史跡の見学
活動拠点:岐阜県揖斐(いび)郡揖斐川町*メインの宿泊場所は、元小学校をリメイクした宿泊研修施設
参加対象:海外に暮らす日本語学習中の小学4~6年生、中学生、高校生
実施期間:7月上旬からの第1期(13泊14日)、7月下旬からの第2期(11泊12日)
日本と関わって生きるための指導を実践
第1期は13泊14日の中に5日間の学校体験、2泊3日のホームステイ、1泊2日の寺院体験を組み込みました。このほか、竹細工や木工、そば打ち体験、地元企業の工場見学、岐阜県自慢の清流での川遊びなども行いました。
学校体験では毎年地元の町立小中学校と県立高校にお世話になっています。今年体験入学した中学校の生徒数は27人、小学校の児童数は25人とかなり小規模です。サマーキャンプ参加者は小5・6のみで4人、中学生は3学年で9人とシェアが高いので先生方のご負担は大きいですが、より多くの児童生徒が交流を深められると高評をいただいています。参加者にとっても決して少数派でないことが心強かったようです。
地元企業の工場見学は、日本の学校の社会科教育とキャリア教育に準ずる指導をするために行っており、今回は石灰工場と印刷工場を見学しました。日本語での事業内容の説明は難しいのですが、ものつくりの現場を垣間見ることによって、日本の技術の素晴らしさを感じたようです。
第2期は11泊12日の中に3泊4日の民家形式の施設での合宿、2泊3日の日本の子どもとの交流合宿、2泊3日のホームステイ、1泊2日の寺院体験を組み込みました。
民家形式の施設での合宿では、近所の川や神社で遊んだり、庭でバーベキューや花火を楽しんだり、月や星の観察をしたり、みんなで餃子を作ったりしました。畳に直に座る日本式の住宅での生活に慣れること、共同生活を通じてみんなで協力したり譲り合ったりすることの大切さを理解することを学びました。
また、日本の子どもたちとの交流合宿では、一緒にスポーツやゲームを楽しんだり、大学の先生のご指導で古い集落の暮らしや森林の役割などを学んだりしました。
第1期と第2期共通の寺院体験は、禅宗寺院にて1泊2日で行っています。座禅、読経の他にも、禅宗の食事の作法も体験します。正しい姿勢で心を落ち着けることやものを大切にする心を育みました。また、住職による寺院の歴史、日本の歴史、仏教の起こりなどの講話も聞き、人の話を聞く態度についても学びました。ここではみんなで協力して昔ながらのかまどを使って大鍋でカレーを作りますし、地元のおばさんたちによる人形劇や紙芝居なども見せていただきます。近所の川で遊んだり、温泉にも行ったりする楽しい体験もあります。
このような内容のキャンプですが、一貫して実施しているのが正しい日本語の使用と日本的なマナーの修得です。参加者は米国をはじめとした海外に暮らしているものの、母親または父親が日本人であったり両親とも日本人であったりします。英語の方が得意ですが、日本語もできますし、日本社会との関わりも大きいです。このような子どもが成長した時に、日本社会でも問題なく生きていけるように指導しています。具体的には、挨拶やお礼の言葉の励行、人の話を聞くときに私語を慎むこと、食事の後片付けや部屋の掃除などを協力して行うこと、他人を思いやって行動することなどを実践しました。
キャンプ終了後に感想を聞くと一番心に残っているプログラムはホームステイと川遊びという回答が多いのですが、主催者の思いが心の片隅に残り、何かの機会に思い出してくれることを願っています。
日本と海外の子どもとの違い
「サマーキャンプ in ぎふ」では、日本の子どもと交流する機会が多数あります。そこでの様子を見ていると、日本の子どもが消極的であると感じます。情報交換の場でも、海外の子どもが積極的に発言するのに対し、日本の子どもは譲り合っています。また、海外の子どもが話しかけても、日本の子どもは尻込みしていることもあります。さらに諸活動への取り組みも海外の子どもの方が積極的です。例えば、ものつくり体験などで、海外の子どもが道具や材料を我先にと取りに行くのに対し、日本の子どもは様子を見ながら後ろに回って取っていることも目立ちます。一方で、日本の子どもは講師の説明を聞いた上で進めるのに対して、海外の子どもは講師の説明を聞かずに勝手に進めてしまうこともしばしばです。しかし、作品が独創的であると感心されることもよくあります。
このような違いは、日本と米国など海外の教育が異なることが影響していると思います。米国では積極的に発言することが重視され、教師の指名の有無にかかわらず自由に発言しても問題ありません。クラスメートと討論をしたり、みんなの前で発表したりする機会も豊富です。また、優秀な生徒を表彰したり、特別扱いしたりすることもあります。日本では教師の説明を聞くことが求められますし、指名されないで勝手に発言するというのは好ましくありません。順位や勝ち負けを明確にしないような平等主義も目立ちます。
「出る杭は叩かれる」的な雰囲気もあり、目立たないようにすることも多いようです。
実は、私はサマーキャンプに参加する子どもの積極性は評価しているものの、人の意見を聞かず、自分勝手な行動をするという点を注視し、譲り合いや思いやりの精神、人の意見を聞く態度などを徹底的に指導しています。それは、彼らが大人になった時に日本や日本人に関わって生きるために必要なことだからです。
一方で、海外での滞在期間が短い子どもには、海外の子どもたちの長所を身につけて帰国することをお勧めします。日本でも英語教育がますます充実し、英会話のできることは当然になってくるでしょう。しかし、海外生活ができる子どもは決して多くはありません。この機会を活かして、積極性と独創性を身につけ、国際社会で通用する日本人に育ってくれることを願っています。
執筆者のプロフィール :米日教育交流協議会(UJEEC)・代表 丹羽筆人
河合塾で十数年間にわたり、大学入試データ分析、大学情報の収集・提供、大学入試情報誌「栄冠めざして」などの編集に携わるとともに、大学受験科クラス担任として多くの塾生を大学合格に導いた。また、現役高校生や保護者対象の進学講演も多数行った。一方、米国・英国大学進学や海外サマーセミナーなどの国際的企画も担当。1999年に米国移住後は、CA、NJ、NY、MI州の補習校・学習塾講師を務めた。2006年に「米日教育交流協議会(UJEEC)」を設立し、日本での日本語・日本文化体験学習プログラム「サマー・キャンプ in ぎふ」など、国際的な交流活動を実践。さらに、河合塾海外帰国生コース北米事務所アドバイザーとして帰国生大学入試情報提供と進学相談も担当し、北米各地での進学講演も行っている。また、文京学院大学女子中学校・高等学校北米事務所アドバイザー、名古屋国際中学校・高等学校アドミッションオフィサー北米地域担当、デトロイトりんご会補習授業校講師も務めている。
◆米日教育交流協議会(UJEEC)
Website: www.ujeec.org
国際社会で通用する資質を身につけたい~
日本の里山で毎年実施している日本語・日本文化体験学習プログラム「サマーキャンプ in ぎふ」(米日教育交流協議会主催)は7年目を迎えました。昨年は東日本大震災の影響もあり、申込者が13人と少なく1期間のみに縮小して実施しましたが、今年は募集した7月6日から19日の第1期は15人、7月27日から8月7日の第2期は11人の参加があり、予定通り実施することができました。
ここでは、今年のサマーキャンプでの活動を振り返り、在外子女教育について考えたことを述べようと思います。
その前に「サマーキャンプ in ぎふ」の概要を記します。
目的:海外に暮らし日本語学習中の子どもが日本の自然、文化、歴史に触れ、地元の人々と交流することによって日本語・日本文化を心と体で体感し、積極的に日本語を学習し、日本の生活習慣を習得しようとする心を育む。
主な体験内容:禅寺でのミニ修行、学校体験入学、ものつくり・食つくり体験、地元民家でのホームステイ、日本の子どもとの交流、自然の中での遊び体験、地場産業や史跡の見学
活動拠点:岐阜県揖斐(いび)郡揖斐川町*メインの宿泊場所は、元小学校をリメイクした宿泊研修施設
参加対象:海外に暮らす日本語学習中の小学4~6年生、中学生、高校生
実施期間:7月上旬からの第1期(13泊14日)、7月下旬からの第2期(11泊12日)
日本と関わって生きるための指導を実践
第1期は13泊14日の中に5日間の学校体験、2泊3日のホームステイ、1泊2日の寺院体験を組み込みました。このほか、竹細工や木工、そば打ち体験、地元企業の工場見学、岐阜県自慢の清流での川遊びなども行いました。
学校体験では毎年地元の町立小中学校と県立高校にお世話になっています。今年体験入学した中学校の生徒数は27人、小学校の児童数は25人とかなり小規模です。サマーキャンプ参加者は小5・6のみで4人、中学生は3学年で9人とシェアが高いので先生方のご負担は大きいですが、より多くの児童生徒が交流を深められると高評をいただいています。参加者にとっても決して少数派でないことが心強かったようです。
地元企業の工場見学は、日本の学校の社会科教育とキャリア教育に準ずる指導をするために行っており、今回は石灰工場と印刷工場を見学しました。日本語での事業内容の説明は難しいのですが、ものつくりの現場を垣間見ることによって、日本の技術の素晴らしさを感じたようです。
第2期は11泊12日の中に3泊4日の民家形式の施設での合宿、2泊3日の日本の子どもとの交流合宿、2泊3日のホームステイ、1泊2日の寺院体験を組み込みました。
民家形式の施設での合宿では、近所の川や神社で遊んだり、庭でバーベキューや花火を楽しんだり、月や星の観察をしたり、みんなで餃子を作ったりしました。畳に直に座る日本式の住宅での生活に慣れること、共同生活を通じてみんなで協力したり譲り合ったりすることの大切さを理解することを学びました。
また、日本の子どもたちとの交流合宿では、一緒にスポーツやゲームを楽しんだり、大学の先生のご指導で古い集落の暮らしや森林の役割などを学んだりしました。
第1期と第2期共通の寺院体験は、禅宗寺院にて1泊2日で行っています。座禅、読経の他にも、禅宗の食事の作法も体験します。正しい姿勢で心を落ち着けることやものを大切にする心を育みました。また、住職による寺院の歴史、日本の歴史、仏教の起こりなどの講話も聞き、人の話を聞く態度についても学びました。ここではみんなで協力して昔ながらのかまどを使って大鍋でカレーを作りますし、地元のおばさんたちによる人形劇や紙芝居なども見せていただきます。近所の川で遊んだり、温泉にも行ったりする楽しい体験もあります。
このような内容のキャンプですが、一貫して実施しているのが正しい日本語の使用と日本的なマナーの修得です。参加者は米国をはじめとした海外に暮らしているものの、母親または父親が日本人であったり両親とも日本人であったりします。英語の方が得意ですが、日本語もできますし、日本社会との関わりも大きいです。このような子どもが成長した時に、日本社会でも問題なく生きていけるように指導しています。具体的には、挨拶やお礼の言葉の励行、人の話を聞くときに私語を慎むこと、食事の後片付けや部屋の掃除などを協力して行うこと、他人を思いやって行動することなどを実践しました。
キャンプ終了後に感想を聞くと一番心に残っているプログラムはホームステイと川遊びという回答が多いのですが、主催者の思いが心の片隅に残り、何かの機会に思い出してくれることを願っています。
日本と海外の子どもとの違い
「サマーキャンプ in ぎふ」では、日本の子どもと交流する機会が多数あります。そこでの様子を見ていると、日本の子どもが消極的であると感じます。情報交換の場でも、海外の子どもが積極的に発言するのに対し、日本の子どもは譲り合っています。また、海外の子どもが話しかけても、日本の子どもは尻込みしていることもあります。さらに諸活動への取り組みも海外の子どもの方が積極的です。例えば、ものつくり体験などで、海外の子どもが道具や材料を我先にと取りに行くのに対し、日本の子どもは様子を見ながら後ろに回って取っていることも目立ちます。一方で、日本の子どもは講師の説明を聞いた上で進めるのに対して、海外の子どもは講師の説明を聞かずに勝手に進めてしまうこともしばしばです。しかし、作品が独創的であると感心されることもよくあります。
このような違いは、日本と米国など海外の教育が異なることが影響していると思います。米国では積極的に発言することが重視され、教師の指名の有無にかかわらず自由に発言しても問題ありません。クラスメートと討論をしたり、みんなの前で発表したりする機会も豊富です。また、優秀な生徒を表彰したり、特別扱いしたりすることもあります。日本では教師の説明を聞くことが求められますし、指名されないで勝手に発言するというのは好ましくありません。順位や勝ち負けを明確にしないような平等主義も目立ちます。
「出る杭は叩かれる」的な雰囲気もあり、目立たないようにすることも多いようです。
実は、私はサマーキャンプに参加する子どもの積極性は評価しているものの、人の意見を聞かず、自分勝手な行動をするという点を注視し、譲り合いや思いやりの精神、人の意見を聞く態度などを徹底的に指導しています。それは、彼らが大人になった時に日本や日本人に関わって生きるために必要なことだからです。
一方で、海外での滞在期間が短い子どもには、海外の子どもたちの長所を身につけて帰国することをお勧めします。日本でも英語教育がますます充実し、英会話のできることは当然になってくるでしょう。しかし、海外生活ができる子どもは決して多くはありません。この機会を活かして、積極性と独創性を身につけ、国際社会で通用する日本人に育ってくれることを願っています。
執筆者のプロフィール :米日教育交流協議会(UJEEC)・代表 丹羽筆人
河合塾で十数年間にわたり、大学入試データ分析、大学情報の収集・提供、大学入試情報誌「栄冠めざして」などの編集に携わるとともに、大学受験科クラス担任として多くの塾生を大学合格に導いた。また、現役高校生や保護者対象の進学講演も多数行った。一方、米国・英国大学進学や海外サマーセミナーなどの国際的企画も担当。1999年に米国移住後は、CA、NJ、NY、MI州の補習校・学習塾講師を務めた。2006年に「米日教育交流協議会(UJEEC)」を設立し、日本での日本語・日本文化体験学習プログラム「サマー・キャンプ in ぎふ」など、国際的な交流活動を実践。さらに、河合塾海外帰国生コース北米事務所アドバイザーとして帰国生大学入試情報提供と進学相談も担当し、北米各地での進学講演も行っている。また、文京学院大学女子中学校・高等学校北米事務所アドバイザー、名古屋国際中学校・高等学校アドミッションオフィサー北米地域担当、デトロイトりんご会補習授業校講師も務めている。
◆米日教育交流協議会(UJEEC)
ウェブサイト:www.ujeec.org