
柔らかな春の光が溢れる4月末日、日本人の個人宅を会場にして礼法勉強会が催された。「アメリカでの暮らしになれてしまうと、ついつい日本人らしい立ち居振る舞いを忘れがちになります。日頃何気なく実践しているちょっとした行儀や作法、言葉遣い・・・本当に正しく身についているかしら?・・・あらためて見直してみたい貴女のための勉強会です。」との呼びかけで、好ましい挨拶(おじぎ)の仕方、よそのお宅を訪問する際の心得、和室における作法など、基本的なマナーについて、2時間ほどの限られた時間で講話と実習がなされた。会場となったお宅は、アメリカの住宅内に畳を敷き詰めた和室をしつらえている、礼法のお稽古に最適な家。講師には、日本で「装道礼法」高等師範科を修了し、装道礼法講師の資格をもつ松嵜美穂さんを迎えた。決まりごとの意図や理由についても折々に説明が添えられ、日本のマナー、さらには日本の美学を見直す貴重な機会になった。
「装道」という言葉を耳にしたことがない人も多いのではないだろうか。かつては、ごく日常的なきものを装う文化は、生活の中で母から娘へと、その技術のみならず礼儀作法をも伝えていたが、戦後、その文化はきものの装いとともに断絶寸前になりつつあった。「装道」とは、山中典士氏なる人物が、日本独自の美をもつきもの文化が滅びることを憂慮し、1964年に創立した、茶道や華道に比べて新しい、時代の移り変わりの中で生まれた‘道’といえる。着付けに留まらず、きものの心や「愛・美・礼・和」の智慧を次世代へ、さらに世界に伝えている。「装道礼法」自体は新しいが、古来の伝統的な武士の作法を元に、所作を女性的に改良したものだそうだ。昨今、教育の現場で、伝統を重んじる流れの中、授業にも取り入れられているということ。
奥が深い礼法の世界であるが、この日は装道についての簡単な説明の後、まず、教則本『センスアップマナー』の中から、‘礼(おじぎ)’と訪問宅でのマナーについて読み進めた。洋室や戸外でする立礼と日本間での坐礼があるが、いずれも「より深く頭を下げれば丁寧でベター」というわけではなく、相手や状況に応じて傾け方が変わり、また、視線(他に向けないこと)も大切、「姿勢を良く」が基本、などなど、実習も交えて確認していった。形は心の現われ。人と快く関わろうとする思いや感謝の気持ちなど、相手を思いやる気持ちを形で示すことが‘礼’の根底にある。続いて訪問のマナーとしてコート類や靴の扱い、挨拶や手土産を渡すタイミングなどについて学んだ。部屋には上座下座があって座順には配慮が必要なことや座布団の扱いなどは、日本の習慣では最も基本的なこと。場数を踏んで身につけることが何よりだが、海外生活にあっては、帰国時に備えて本などでリヴューしておく必要がありそうだ。
ちなみに、装道礼法きもの学院が行なっているセンスアップマナー講座や、履歴書にも記載できるマナー検定は、当節、若い女性の人気を集めているそうだ。
ルールを丸暗記しようとするとややこしく感じてしまうが、失礼のないように、和を乱さないようになどといった配慮を元に考えれば、理解し易い。
この日講師を務めた松嵜さんはきものを持っているのに自分で着ることができないことを残念に思って、装道礼法きもの学院に通い始め、着付けを習うに留まらず、師範科まで修了し「きものコンサルタント」の資格も取得した。松嵜さんは「マナーは規則ではなく、集団の約束ごとであり、暗黙の了解のもとに成り立っています。人との関わりを気持ちよく、スムーズにしようという気持ち、相手を気づかい、いたわる心が大元になっています。マナーをより儀礼的な約束ごとにまで発展したのが礼法です。」と説明してくださった。
茶道の作法とも異なるルールがあるそうだが、「招かれた時には分かる限り相手方のやり方に合わせる」「たとえ違っていても、失礼にならないように心がけて振舞うことが大切」ということだ。国が異なれば‘礼’を含む慣習も差異があり、グローバルな社会ではあまり役に立たないと考える人もいるが、自国の文化が分かってはじめて、他を理解し尊重することができる。対人関係のルールには、その土地や国の人々が何を大切にしているかが現れている。海外に居るからこそ、日本人が大切にしてきた伝統について、奥義を極めるまではいかずとも、理解を深めたいものだ。
柔らかな春の光が溢れる4月末日、日本人の個人宅を会場にして礼法勉強会が催された。「アメリカでの暮らしになれてしまうと、ついつい日本人らしい立ち居振る舞いを忘れがちになります。日頃何気なく実践しているちょっとした行儀や作法、言葉遣い・・・本当に正しく身についているかしら?・・・あらためて見直してみたい貴女のための勉強会です。」との呼びかけで、好ましい挨拶(おじぎ)の仕方、よそのお宅を訪問する際の心得、和室における作法など、基本的なマナーについて、2時間ほどの限られた時間で講話と実習がなされた。会場となったお宅は、アメリカの住宅内に畳を敷き詰めた和室をしつらえている、礼法のお稽古に最適な家。講師には、日本で「装道礼法」高等師範科を修了し、装道礼法講師の資格をもつ松嵜美穂さんを迎えた。決まりごとの意図や理由についても折々に説明が添えられ、日本のマナー、さらには日本の美学を見直す貴重な機会になった。
「装道」という言葉を耳にしたことがない人も多いのではないだろうか。かつては、ごく日常的なきものを装う文化は、生活の中で母から娘へと、その技術のみならず礼儀作法をも伝えていたが、戦後、その文化はきものの装いとともに断絶寸前になりつつあった。「装道」とは、山中典士氏なる人物が、日本独自の美をもつきもの文化が滅びることを憂慮し、1964年に創立した、茶道や華道に比べて新しい、時代の移り変わりの中で生まれた‘道’といえる。着付けに留まらず、きものの心や「愛・美・礼・和」の智慧を次世代へ、さらに世界に伝えている。「装道礼法」自体は新しいが、古来の伝統的な武士の作法を元に、所作を女性的に改良したものだそうだ。昨今、教育の現場で、伝統を重んじる流れの中、授業にも取り入れられているということ。
奥が深い礼法の世界であるが、この日は装道についての簡単な説明の後、まず、教則本『センスアップマナー』の中から、‘礼(おじぎ)’と訪問宅でのマナーについて読み進めた。洋室や戸外でする立礼と日本間での坐礼があるが、いずれも「より深く頭を下げれば丁寧でベター」というわけではなく、相手や状況に応じて傾け方が変わり、また、視線(他に向けないこと)も大切、「姿勢を良く」が基本、などなど、実習も交えて確認していった。形は心の現われ。人と快く関わろうとする思いや感謝の気持ちなど、相手を思いやる気持ちを形で示すことが‘礼’の根底にある。続いて訪問のマナーとしてコート類や靴の扱い、挨拶や手土産を渡すタイミングなどについて学んだ。部屋には上座下座があって座順には配慮が必要なことや座布団の扱いなどは、日本の習慣では最も基本的なこと。場数を踏んで身につけることが何よりだが、海外生活にあっては、帰国時に備えて本などでリヴューしておく必要がありそうだ。
ちなみに、装道礼法きもの学院が行なっているセンスアップマナー講座や、履歴書にも記載できるマナー検定は、当節、若い女性の人気を集めているそうだ。
ルールを丸暗記しようとするとややこしく感じてしまうが、失礼のないように、和を乱さないようになどといった配慮を元に考えれば、理解し易い。
この日講師を務めた松嵜さんはきものを持っているのに自分で着ることができないことを残念に思って、装道礼法きもの学院に通い始め、着付けを習うに留まらず、師範科まで修了し「きものコンサルタント」の資格も取得した。松嵜さんは「マナーは規則ではなく、集団の約束ごとであり、暗黙の了解のもとに成り立っています。人との関わりを気持ちよく、スムーズにしようという気持ち、相手を気づかい、いたわる心が大元になっています。マナーをより儀礼的な約束ごとにまで発展したのが礼法です。」と説明してくださった。
茶道の作法とも異なるルールがあるそうだが、「招かれた時には分かる限り相手方のやり方に合わせる」「たとえ違っていても、失礼にならないように心がけて振舞うことが大切」ということだ。国が異なれば‘礼’を含む慣習も差異があり、グローバルな社会ではあまり役に立たないと考える人もいるが、自国の文化が分かってはじめて、他を理解し尊重することができる。対人関係のルールには、その土地や国の人々が何を大切にしているかが現れている。海外に居るからこそ、日本人が大切にしてきた伝統について、奥義を極めるまではいかずとも、理解を深めたいものだ。