8月25日、Bloomfield Hills市にあるクランブルック(cranbrook)の収集・研究センター:Center for Collections and Research主催で日本に関連したイベントが開催された。クランブルックは世界有数の教育・科学・芸術の総合センターであり、芸術大学ならびに学校、美術館、科学博物館、ガーデンをはじめとする数々の歴史ある施設を保持しているが、今回は広大な敷地内にある科学博物館での講演と、クランブルックが敷地外に所有する“FRANK LLOYD WRIGHT SMITH HOUSE”(以下『スミスハウス』)での茶会の2本立て。講演会の前には日本的なケーキと緑茶を楽しむ“朝の茶会”タイムも設定され、事前に参加登録した数十名の人々がこのイベントや日本への関心について言葉を交わす和んだ姿が見られた。ケーキは受賞歴のあるパティシエChef Doran Brooksが準備。Novi 市並びにClawson市に日本的なケーキやパンの店をオープン予定とのこと。

 同センターのディレクターより挨拶の中で、今から百年以上も前の1915年にクランブルックに日本庭園が造園され、その改修を進めつつ維持しており、また、日本との繋がりを持つフランク・ロイド・ライト設計の『スミスハウス』を保持するなど、日本との関連を祝すためのイベントであると告げられた。

 “Japanese Tea Gardens and Tea Houses: From Japan to Frank Lloyd Wright and Today”と題された講義の前半には、「近代建築の三大巨匠」と呼ばれるフランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright、1867 年-1959年)と、彼の日本芸術やデザインとの関係について、Cranbrook Center for Collections and Researchの研究員が弁をふるった。フランク・ロイド・ライトは19世紀後半のシカゴ万国博覧会で日本の芸術や建築に出会い、その後、少なからぬ影響を受けていることが指摘されている。この講義では、スクリーンに浮世絵や清水寺など日本の実存建造物の写真と、ライトによる設計図や彼が手掛けた建築物の写真が並べて映し出され、その共通性や構図の類似性を重ねて指摘。日本の影響を多大に受けたことは間違いないと強調した。帝国ホテル旧本館(通称ライト館)設計は日本における大プロジェクトであり、自身が5年(1918-1922)に亘って訪日していたこと、そして、ライト氏の自宅も日本からの収集品に満ち、また生活スタイルも日本文化に影響を受けていたことも伝えられた。現在クランブルックが所有する『スミスハウス』の持ち主=設計依頼主であったスミス氏は、いち教師であったが、ライト氏設計の家に住むのが夢で、長期ローンを抱えてまで実現した。コストを抑えるために無駄を抑え、各所に日本的な要素が見られる。スミス氏もまた日本文化に興味を持つようになり、多くの日本人を家に招待し、日本の陶磁や版画などを持つようになったという。ライト氏の弟子がこの家の後ろにある池の淵に小さな茶室を設計したが実現には及ばなかったそうである。

続いて、日本のガーデンデザイナーであり一級造園技能士である武内千里氏が講師を務め、“Japanese Garden ~The First Step to Tea(日本庭園 – お茶への第一歩”とのタイトルでプレゼンテーションが行われた。まずは茶の湯についての簡単な解説から始まり、茶人であり僧でもあった千利休が‘侘びさび’というシンブルで自然な有様を尊び、その文化が広がり、茶室の形式を確立させたことが伝えられた。近年では女性が楽しんでいるが元々は武将の交流・戦いの話をする場であり、刀を持ち込まない構造は今も残っているといった話に、観客から小さなどよめきの声があがった。茶室ならびに茶の湯の理念などを説明した後、伝統的な茶室は露地と称する庭園の中に建てられ、その庭園は、掃き清められたうえで故意に季節の花や葉をちらし季節感をだすことや、古さを讃える故、灯篭や石を古めいて見せたり早く苔蒸す状態にする技法なども紹介された。茶室は俗世と隔てた空間であり、客も亭主も

様々な清めの所作があることにも言及し、「茶道で尊ばれる自然を愛で大切にする心や、もてなす心の在りように触れるため、茶庭園と茶室を訪れて欲しい」と願いを届けた。聴講者から大きな拍手が上がった。

 講演の後半には日本独特な庭園スタイルである枯山水の作り方を箱庭づくりで実演紹介した。山に見立てた石や砂など全ての材料は当地の工芸店で調達したものとのことで、聴講者は身近に感じたのか、作業の手元を大きく映し出したスクリーンを身をのりだして注視。石の周りの砂にフォークの背で水紋が描かれると会場のあちらこちらで感嘆の声が漏れた。武内千里氏の招へいは当地の日本国領事館がスポンサーになり実現。寿司や緑茶など食の領域、また漫画やアニメで日本の文化が浸透しているが、日本のガーデニングや、さらには、もてなしの心、自然との調和といった伝統の良さも認められ広がっていくことが期待される。

 午後には、フランク・ロイド・ライト氏が手掛けた住宅の一つである『スミスハウス』で、当地のウィメンズクラブのメンバーが茶の湯を実演披露した。解説を務めた領事館職員により、「ティーバックの緑茶とは異なり、抹茶を点てる茶道は長年にわたり修練しなければならないほど、決まり事や様々な知識を要する芸術である」との説明がなされた。本来であれば外界とは切り離された茶室という静かな環境の中で、社交の会話ではなく、自然や茶器、そして茶の湯そのものを楽しむものであることは、武内氏の講演や同館の案内説明でも伝えられていた。スミス・ハウスは、その直線的な外観や全体の構造ならびに内装、そしてふんだんに使われた美しい木材など、日本的なデザインがあちらこちらに見られるが、かつては住宅と使用され、現在はCranbrookの所有で様々なイベントが行われている施設であるため、茶席が設けられたリビングルームにはグランドピアノや多数の家具や調度品が置かれており、侘び寂びとは程遠い雰囲気。しかしながら、楚々凛としたお点前の所作や立ち居振る舞いに引き込まれたように、参加者たちは物音一つ立てることなく静かに真剣に見入っていた。窓の外には公園のように広々とした明るく緑豊かな自然が広がり、穏やかなひと時となった。参加者から「ライト氏設計の家での茶の湯に参加でき、素晴らしい時間だった」との声が届いた。

 『スミス・ハウス』は常時公開はしていないが、冬季を除き月に数回、見学ツアーが組まれている。

Frank Lloyd Wright Smith House Tour

9/15、9/22、9/23、10/13、10/20、10/21 11/10、11/11に、日に2,3回ずつ予定

*有料。事前レジストレーションが必要

https://center.cranbrook.edu/events/tours