2017年11月4日にデトロイト美術館(以下DIA)の日本ギャラリーがオープンした。その祝賀として盛大に行われたオープニングイベントと日本文化紹介イベントについて弊紙先月号(2017年12月号)でお伝えしたが、今回は常設日本ギャラリーの展示内容について記載してゆく。

2013年にデトロイト市が財政破綻し、存続が危ぶまれたものの日本コミュニティを含めた公私の寄付金によって存続したDIAが最初の大プロジェクトとして着手したのが“アジアギャラリー”の再構築。日本ギャラリーは、アジアギャラリーの一部として2015年に企画をスタートし、他のアジア諸国ギャラリーに先駆けてオープンにこぎつけた。そこには、かつての日本関連の展示スペースが閉鎖されて何年も鑑賞の機会が無かった古いコレクション、そして数年前に開催された『サムライ展』の折に入手した作品、更に、この度のギャラリー新設のために購入された物が厳選され集められている。

年代別の展示ではなく、伝統的な物と現代の物が並んで展示されている。また、単なる展示に留まらず、茶室や仏教寺院、家屋の床の間など、背景にある伝統文化および生活の中での美術品の在り様を伝え、来場者がより理解し想像して鑑賞できることを重視している。同ギャラリー用に開発された“インタラクティブティーテーブル”が茶器の展示の横に備えられているが、デジタル画像の亭主(ホスト)が茶を点てる流れに合わせて、参加者はデジタル画像のタッチスクリーン上で茶碗のやりとりを体験できる(上の写真手前)。その茶碗は17世紀の織部茶碗をモデルに3Dプリンティングマシーンで作成した物で、触感や重さを実感することができる。肝心の飲む動作が組み込まれていないのが残念ではあるが、実際に口をつけるのは衛生上芳しくない故とのこと。

能の衣装や面の展示の隣には、日本の観世九皐会(かんぜきゅうこうかい)の協力を得て制作された概説用の短編ビデオが映し出される。ビデオは同ギャラリー向けのオリジナルで、DIAのコレクションに似た面がビデオの中で使われている。

屏風、掛け軸の作品など、芸術作品の多くは、光にデリケートな素材を保護するために、また、DIAのコレクションの中からより多くの財宝を公開するためにも、季節ごとに(予定では4〜6ヶ月ごとに)入れ替えていく予定とのことだが、現時点での展示品を紹介してゆきたい。

日本ギャラリー入口の両脇にはJapan Cultural Development が寄贈した現代メタルアート家 Miya Ando(安藤みや)の淡い色合いの作品 Kumo(Clouds)が訪問者を迎える。

「兜」1600年代、作者不詳  (Photo by DIA)
「Creature(クリーチャー」 2015年、今野朋子、セラミック(Photo by DIA)

日本ギャラリーに入ると、現代のセラミックアート作家・今野朋子(バンコック在住)の「Creature:クリーチャー(2015年制作)」、そして時代と材質が対照的な1600年代の兜が鎮座している。今野朋子の作品はモデルとなる生き物は無いが海にある命を思わせるものであり、兜には貝がらとナマズがあしらわれており、通じるものを感じる。

背景には「静と動-日本美術」という日本語表示、横には現代の都会の慌ただしさを映し出したイメージが一面に広がっている。同ギャラリー全体が「静と動―日本美術」というテーマでデザインされており、多くの日本の美術品に同時に内在する静と動を窺える展示となっている。

ここで、この日本ギャラリーの構築に企画段階から協力し、日本の伝統様式に基づいた展示に多大に寄与した及部奈津氏(Dr. Natsu Oyobe:ミシガン大学美術館アジア美術学芸員)に日本美術の「静と動」について解説をいただいた。

Q:「静と動」はどのようになところに見て取れますか?

松雲元慶の「羅漢像」と元慶の羅漢像300体が納められている羅漢寺(東京)の写真

A:全体のテーマである「静と動」は、まず、個々の作品に表れています。鈴木其一の「葦に群鶴図屏風」では、水辺にたたずむ鶴と飛翔する鶴が、鮮やかな対比を見せています。また、中林竹洞の「霧山水図」は、全体から静かな印象を受けますが、下方の川にかかる橋から、上方に視線を移していけば、ダイナミックな山々の情景に気付かされます。それからこのギャラリーでは、日本の伝統では美術工芸品の鑑賞に、特定の動きをともなうということを、観客に示そうとしましたが、例えば床の間のセクションでは、座って低い位置から鑑賞するよう促すようにしております。畳を敷くことはしませんでしたが、備え付けのベンチは高さが抑えられています。茶の湯のセクションでは、やはり低めのケースを使用し、隣りのティーテーブルに座った位置から作品を鑑賞するようにしていますが、ここにも茶室では特定のふるまいが要求されることを、知ってもらう意図があります。

床の間スペースには酒井抱一の掛け軸と尾形光琳の筆箱。横には障子とデジタルの風景イメージ。(Photo by DIA)

Q:DIAの膨大な日本コレクションの中からこれらの展示品が選ばれた理由や、配置やデザインについてお聞かせいただけますか。

A:全体のテーマとして「静と動」、またサブテーマとして日本の伝統的な空間と動作の再現ということがあり、それに沿って5つのセクション(能、仏教、茶の湯、床の間、絵画)が決まりました。そこから、セクションごとに作品が選定されました。選定には美術作品の質や興味深いストーリー(作品背景)が重要視されましたが、季節ごとに展示品が入れ替わる床の間の作品は、用途や紋様などから特に季節感を表現したものが選ばれました。空間にゆとりをもたせるために、作品数は19点と、かなり厳選されています。床の間をはじめ、各セクションでは日本文化の重要なコンセプトである「間」を意識し、作品をレイアウトしています。

「水牛に萩蒔絵螺鈿硯箱」1600年代初頭〜1700年代、尾形光琳作

日本ギャラリーは、いずれ(1年後の予定)アジア・ギャラリーに組み込まれることになる。今(12月現在)の日本ギャラリーの展示は2018年4月までの期間で、その後、アジア・ギャラリーの設置工事のため、一時的に閉鎖される。

屏風 「葦に群鶴図屏風」1800年代、鈴木其一作

入場料 大人$14 6~17才$6

以下の郡の住人は無料

Wayne、Oakland、Macomb

*特別展入場料は除く

掛軸 「雪月花・松に雪図」 1800年代初頭、酒井抱一

デトロイト美術館は、ワシントンDCのナショナルギャラリー、ニューヨークのメトロポリタン美術館、ボストン美術館、シカゴ美術館に次ぐ、米国5大美術館のひとつに数えられている。古代から21世紀までの6万点を超える作品を所蔵している。初期のゴッホの絵画、モネ、ルノアールなどポピュラーな画家の作品も少なくなく、DIAのコレクションはその質、範囲、深さで知られている。